刈リ取ル者 ~俺をいじめた奴を悪魔の力で叩き潰した挙句正義の味方名乗ってるけど文句あるか?~

あがつま ゆい

文字の大きさ
3 / 56
6月26日以前と当日

Scene.3 Boy meets ...... on June 26

しおりを挟む
 運命の日である6月26日、いつものように不細工な顔を鏡越しに見て、いつものようにエサ・・をかき込み、いつものように家を追い出され、いつものように学校しょけいじょうへと向かう。
 乃亜にとっては毎日毎日飽きることなく繰り返される日常……の、はずだった。

 きっかけはその通学途中、ふと路地に目をやった事だった。特に理由は無い。ただ何となく首を横に振って視線を移しただけだ。
 そこで彼は見た。彼の頭と同じ高さにある紅いもやのような霧を。

 最初は見間違いか幻覚かと思った。だが目をいくらこすってもほほをどれだけ強くつねっても霧は両目にハッキリと映っていた。
 乃亜は興味半分、恐怖半分で路地に踏み込み紅い霧を間近で見つめていると、中から同じように紅い目玉が2つ出てきた。当然、彼とばっちり目があった。

 そして、少年とも少女ともとれる声が聞こえてきた。聞こえた……というが声が耳から入ってくるわけではなく、頭の中に直接響く感じだ。どう考えても普通の声ではない。

「あれ!? もしかしてお前、俺の事が見えるのか!? ひょっとして俺の声も聞こえちゃったりするわけ!?」
「な、何だ!?」
「おお! やっぱりか! やった! やっと会えた!」

 紅い霧ははしゃぎながら乃亜の周りをクルクルと回る。その声は出会いを心の底から喜んでいるようだった。
 一方乃亜は恐怖で腰を抜かした。明らかに地球上に存在するありとあらゆる生物のどれでもない存在に身体は言う事を全然聞かず、震えるばかりでまともに動けない。

「な、何なんだ!? 何なんだよお前!?」
「ああ、俺? そうだなぁ……お前達人間で言う『悪魔・・』ってとこかな」
「あ、あ、あ、悪魔ぁ!?」
「おいおい。ビビんなって。別に取って食うわけじゃねーからさー。というか、俺と友達になってくれないか?俺の事が見える人間ってホントに少ないからなー」



 それは自ら悪魔と名乗った。あまりにも突拍子ない言い方だがそうでもなければコイツがどういう存在かは説明がつかない。
 自己紹介の後紅い霧が乃亜の頭にまとわりつく。
 コイツはヤバイ。直感や本能と呼べる部分が逃げろと警告を発していたがあまりにも恐怖が強すぎて脚どころか身体や腕すら何の役にも立たない。

「や、やめろ! 何をするんだ!?」
「俺の自己紹介が終わったから今度はお前の番だ。自力でしゃべれる状態じゃなさそうだからちょっと記憶を読ませてもらうよ……
 ふーん。お前、天使あまつか 乃亜のあって言うのか……うっひゃーお前悲惨だなー。学校だっけ? そこで暴力振るわれて家でも妹にボコボコにされてんだね?」
「な、何で分かるんだ!?」
「だーかーらー記憶を読んだんだって。言っただろ?」

 紅い霧は乃亜しか知らないはずの事、名乗ってもいないのに自分の名前を言い当て、答えてもいないのにどんな境遇にいるのかをすらすらと言ってのけた。

「なぁ乃亜。こんなクソッタレの人生にサヨナラして一発逆転したいかい?」
「一発……逆転?」
「そうだ。俺の力をお前にやる。その力さえあれば人間なんて簡単にひねり潰せるはずさ。ま、代価はもらうけどね」

「代価? 俺の魂とかか?」
「おしいね。代わりに死んだり殺したりした人間の魂を集めてほしい。俺には人間の魂が必要なんだ。
お前は俺のおかげでいじめられるだけの人生から抜け出せる。俺はお前のおかげで魔界でのし上がることができる。どっちにもメリットはある。どうだい? 悪い話じゃないだろ? っていうかこれ逃したらもう逆転するチャンスなんて無いぜ?」

 悪魔の誘いに乃亜はしばし黙る。
 もしも、もしもコイツの言っていることが本当だとしたら、最底辺にいる自分にとっては願ってもない一発逆転のチャンスだ。でもなぜだ? なぜ俺なんだ?

「何で……何で俺なんかにそんなチャンスをくれるんだ?」
「言っただろ? 俺はお前と友達になりたいだけさ。フ・レ・ン・ド、分かるかい? 俺が見えるってことはお前は素質があるって事だしそんな人間に出会えたってのは俺にとっても滅多に無いチャンスなんだ。だからお願いするからこの話に乗ってくれ。悪い話じゃないからさ」
「……」

 乃亜は悪魔の言葉を頭の中でかみしめる。

 学校ではスクールカースト最底辺、いや最底辺ですら無い。家でも「自殺しろ」と親から言われている。「言われているようなもの」ではなく実際に言われている。
 このままじゃあ自分が死ぬか相手を殺すかのどちらか。どちらを取っても自分にとっては恐ろしく不利だ。

 ならば……悪魔の力とやらを使ってクソッタレのクラスメート共、クソッタレの先公、クソッタレの両親、そして飛び切りのクソである美歌。あいつらに復讐出来るというのならしてやろう……。

 悪魔の誘いは16年の間溜まりに溜まったどす黒い衝動に火をつける甘美な誘いであった。いつの間にか恐怖は消え、代わりに怒りと憎悪の炎が乃亜の胸の中に宿った。

「分かった。俺に力をくれ。代わりに魂でも何でも集めてやる」
「オッケー交渉成立だな。じゃあ力を授けるぜ。ちょっと頭がキッツイ事になるみたいだけど我慢しろよ!」

 そういうと霧の悪魔は乃亜の体の中に入っていった。
 途端に全身が、特に頭が溶けた鉄を注入されたかのように熱くなる。

「ぐああああああああああああ!」

 身体が千切れてしまいそうなくらいに全身が突っ張り、背中も弓なりにしなった。このままでは体が壊れてしまうのではと不安になったが次第に熱はおさまり、後には4つの能力が残った。

「この力は……」

 与えられた4つの能力……それは立って歩くのと同じように、自転車に乗るのと同じように、ごく自然な動作として出来る様に脳に植え付けられていた。乃亜は辺りを見回すが、あの霧はいない。

「お前、どこ行った?」
「これからはお前の身体に居候させてもらうよ。幽霊みたいに『憑りついた』って感じかな?」

 頭の中に声が響く。感覚は無いがどうやら体内にいるようだ。

「ところで、お前名前は?」
「名前? そうだなぁ。ミストとでも呼んでくれ」
「分かった。よろしくな、ミスト」

 そう言うと乃亜はさっそく能力を試す。


超常者の怪力パラノマル・フォース


 乃亜が念じると身体から黒い霧が吹き出し全身を覆う。やがて霧が晴れると目だけが紅蓮に光る全身が漆黒色の異形の怪物へと変身していた。

 変身したというが学生服や靴を身に着けている感覚はある。例えて言うなら服の上から重さが無くて視界良好な着ぐるみを着ている感じだ。
 右腕を見ると太さは倍ほどに太くなり手もそれにつり合う程巨大化、それでいて普段と同じような繊細な動きもこなせるし握れば素手の時と同じような握った感覚も伝わる。しかも背が高くなったのか視線も大きく上へと上がり、声も低く不気味な声になっていた。

「……まるで変身ヒーローだな」
「オイ何だあれ?」
「すげぇ。着ぐるみじゃねえの? こんなクソ暑いのに」
「撮影中だ。近寄るな。あと写真を撮るのも禁止だ」


 通学途中の学生が物珍しそうに乃亜を見るが、乃亜はとっさの嘘でごまかした。
 学生を追い払ったところで2つ目の能力、≪光迂回ライト・ディトゥーアル≫も試してみる。
 念じると腕の色がどんどん薄くなり、ものの2~3秒で透明になってしまった。腕だけではなく、体も足も透明になっていた。

「すげえな。透明人間だな」
「気をつけろよ。それは衝撃には弱いんだ。激しい動きをしたら剥がれるぞ」
「じゃあ次は……」

 ≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫の能力の真骨頂、身体強化能力の力を試すことにした。乃亜は思い切ってジャンプすると3階建て住宅の屋根の高さまで跳び上がった。

「うお! すげぇ!」

 更に畳んでいた翼を広げて風を拾うと空を鳥のように飛ぶことが出来た。

「飛んでるのか? 俺?」
「うんそうだよ。飛んでるよ。……ところでどこ行くんだ? 学校とは正反対だぜ?」
「駅に向かう。数学の授業まで時間つぶしとアリバイ作りだ」

 今日の5時限目は担任が受け持つ数学。始まれば授業の45分間は人の出入りは無い。それまで時間がある。後々面倒な事にならないようにアリバイでも作っておこうというわけで乃亜は家や学校とは反対方向にある駅に向かって飛んで行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...