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天使の少女とサバト
scene.17 老人ホームという戦場すら生ぬるいどこか
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ミストはどこから持ち込んだのか座布団より一回り大きい1枚のベニヤ板を取り出す。それには魔法陣が描かれていた。
「なぁ、乃亜。買い物したいんだがいいかな? 具体的に言うと銃とか」
「銃?」
そう言ってミストは手に持っていたそれを床に置く。すると作動したのか光りだし中から一人の青年が現れる。彼にはミスト同様頭には角、尻からはしっぽが生えていた。
「どうも。お初目にかかります。乃亜様にミスト様」
「誰だお前?」
「私の事はメディエートとでもお呼びください。サバトの皆様と主に銃の取引を行っております。当店では銃だけでなくトイレットペーパーから戦闘ヘリまで、何でもご用意できますよ」
丁寧な口調で深々と頭を下げて挨拶する。
「あ、でもオレ人間の魂とか持ってないよ?」
「えっと、ここは日本ですよね? だったら日本円でいいですよ」
「何!? 円が使えるのか!?」
「ええ。人間界では人間のお金で物資調達するのが一番ラクで安全ですから魔界の住人も人間のお金が欲しいんですよ。ただクレジットカードや銀行振り込みには対応しておりませんので現金一括払いでお願いしますね」
悪魔の間でも人間の金が流通しているとは何とも不思議な感覚だ。
「ところで、ミスト様がご注文いただいた商品の代金を払ってほしいのですがよろしいでしょうか?」
「ミスト、お前何を頼んだんだ?」
「銃とロケットランチャー。天使相手に使うんだ」
そう言って乃亜に明細書を渡す。それなりの額にはなっているが今持っている全財産からすると大したことないと言える出費だった。
「分かった。買うよ」
「まいどありがとうございます。こちらがお品物になりますね」
そう言って彼は品物……ミニミ軽機関銃1丁とRPG-7を2基渡した。
ミストは武器を持ったまま霧の姿になり、乃亜の中へと入っていく。
「よし! 行こうぜ!」
「へぇ。武器の持ったままその姿になれるのか。便利だな。じゃあ行くか」
乃亜は刈リ取ル者の姿となって自宅を後にした。
昼間の公園のベンチに男が腰掛けていた。8月になり灼熱の太陽がじりじりと照り付ける。あまりにも暑すぎるせいか彼以外誰もいない。
そこへ刈リ取ル者が≪光迂回≫で姿を隠しながら現れる。
約束の時間10分前だが多分依頼者だろうと思って本人確認のため≪魂読≫で記憶を読む。
「父さん! 父さん!」
頭の中に流れてきたのは病院らしき建物に男が駆けつけるシーン。部屋の中には老人の遺体が安置されていた。
顔にかけられた布を取ると、そこには彼にとって見覚えのある顔が現れた。
「父さん……そんな……ううう……」
男は父親の遺体を見て絶望で涙した。それだけ読んでおそらく依頼者本人だろうと思い、透明なまま声をかける。
「刈リ取ル者だ。訳あって姿は見せないがお前のそばにいるぞ」
「刈リ取ル者さん。依頼人の園部です。私の父は絶望の中でもがき苦しみながら自殺しました。私には何もできませんでした。せめてもの償いに敵討ちをお願いしたいのです。今から渡す用紙に写ってる長谷川という男がいじめの中心人物だったそうです。彼を……殺してください」
そう言って男はプリントアウトされた写真を見せた。彼の父親とは別の老人の姿が映っていた。彼は同時に万札がギッシリ詰まったアタッシュケースを渡す。
「良いだろう。それと、大変だったな。父親を殺されてよくここまで耐えたな。つらかっただろう。安心しろ。もう大丈夫だ」
交渉成立。一旦荷物を受け取ると自宅へと帰って行った。
その日の夜。
老人ホームに侵入した刈リ取ル者は長谷川を探す。寝室を巡回し、もらった画像を片手に寝顔をじっくりと見て照合する。
「……こいつか」
ほどなくして長谷川が見つかった。念のため≪魂読≫で記憶を読み、本人かどうか確認する。
「鶴野さん」
長谷川はマドンナである鶴野に緊張しながら声をかける。胸の鼓動がときめきで早くなるのを感じる。
「どうさないましたか長谷山さん」
「鶴野さんは園部さんの事が好きなのですか」
「ええ。素敵な人よ」
「は、はぁ。そうですか」
それを聞いた長谷川に嫉妬の炎が渦を巻く。
園部の野郎! 新入りの分際で鶴野さんを横取りしやがって! 許さねえ。許さねえよ!
「うわ! 何だコレ!」
園部が自分の着替えを見て声をあげる。長谷川が園部の洗濯物に泥を塗りたくったのだ。
「おやおや大変ですねぇ。せっかくのお洋服、もう着れませんなぁ」
「長谷川さん! あなたがやったんですか!?」
「酷い事言いますなぁ。まるで私が犯人みたいな言い方して」
いい気味だ。ざまあねえな。
園部の息子が老人ホームを訪ねてきた時は必ず妨害をかけた。
「あーあーあー! おしゃべりがうるさくてTVが聞こえませんなぁ! 早いとこ帰ってくれませんかねぇ!」
わざと声を荒げて邪魔者扱いする。
そしてあの日。枕元には遺書が残され、彼は死んでいた。深夜、調理室に忍び込み包丁で首をかき切ったらしい。
ああ良かった良かった。園部の野郎がくたばってくれて。これで鶴野はオレの物だ。スッキリした。
「テメェ見てえなジジイを老害って言うんだな」
記憶を読み終えた刈リ取ル者は長谷川の首根っこを掴むと老人ホームの裏庭へと連れ出した。無論結界を張って誰にもばれないようにしてから。
「な、何だお前!? 何をする気だ!」
「正義の鉄槌を下すつもりだ」
そう言って刈リ取ル者は長谷川の両手両足を粉砕する。更に腹や胸を何度もなぐりつけ内臓や骨を破砕する。
「た、たひゅけて……たひゅけて……」
「助けてほしいか」
刈リ取ル者は≪癒しの手≫で傷をいやす。
「た、助かった……」
安堵する長谷川だったがその直後、化け物の手で右手の指全てを人体構造上絶対に曲がるはずのない方向にクシャクシャに曲げた。刈リ取ル者は正義の執行を再開した。
「たひゅけて……たひゅけてくらひゃい……」
「お前、覚悟は出来てるのか?」
「か、覚悟?」
「『人を呪わば穴二つ』って言葉を知らんのか? 誰かを殺したら自分も殺されるかもしれないというのを覚悟の上でやったんだよな? 違うのか?」
「ち、違います、違います! 園部の事はちょっと追い出そうと思っただけなんです。まさか死ぬとは思ってなかったんですよ!」
既に≪魂読≫で長谷川の心の中は読んでいたので嘘だと分かっていた。長谷川は明確な殺意を抱いていた。彼は園部を殺すつもりでいじめていた。
「俺は嘘つきが嫌いだ。大嫌いなんだよ」
そのセリフと共に老人の胸が全壊された。魂を回収しその場を去ろうとしたとき、結界に穴が空く。真理達4人が刈リ取ル者の前に現れた。
「あなたはまだ罪を重ねるつもり? 人を裁くのは主のやる事ですわ。あなたのやってる事はISと同じくらい野蛮な事ですわ」
弓を構えた女が怒りを込めた声をぶつける。
「だから何だ? 俺は正しい。それこそ神を目の前にしても言えるさ。それに俺が殺人鬼だというのならお前らも殺人鬼さ。神の力で殺すか悪魔の力で殺すか、その程度の違いしかないと思うがね」
「みだりに主の名を言うな! それに、人の命を何だと思ってるの!?」
「人の命? そんなもん諭吉より軽いね。日本だけでも1億人いる。1億人も人がいりゃ生きているだけで迷惑かけるクズなんて山ほどいるんだよ。1%レベルのクズなら100万人、0,1%のゴミクズでも10万人、死ななきゃいけない屑がこの国にはいるんだよ」
「もういい! お前は死ね!」
憎悪と殺意を剥き出しにしつつ女が矢を放つ。相変わらず結界に穴を開けるほどの貫通力を持っていた。
刈リ取ル者が受け止めた直後、紅い霧が化け物の身体から吹き出しミストが実体化する。
その手にはミニミ軽機関銃が握られていた。
「援護するぜ!」
そう言ってミストはRPG-7を刈リ取ル者に渡した後、機関銃から景気よく悪魔の魔力をこめて威力を引き上げた弾丸をぶっ放す。
その弾幕を掻き分けて真理が大斧と共に襲い掛かってくる! 彼女の一撃を刈リ取ル者は受け止める。大斧は結界をぶち破り腕に達する。が、ギリギリ中身までは届かない。
直後、彼はRPG-7によるカウンターの一撃を決める。爆風とバックブラストが辺りに広がる。真理の服が焦げ、服の無い個所には火傷が出来ていた。
彼女は結界と服を修復するためにいったん下がる。と同時にアリアを守っていた舞が前に出る。
「舞! 気を付けて! こいつら手ごわいわよ!」
舞は積極的に攻撃することは無く、受け身の姿勢で二人と戦う。舞が両手の盾で攻撃を受け止めている隙に矢で仕留める。という算段だった。
だが刈リ取ル者は多少の傷は織り込み済みと割り切っているせいか、矢をものともしない勢いで攻撃を加える。徐々に形勢が悪くなっていく。
やがて舞の結界が破られ、盾のガードをこじ開けられた! そこへ刈リ取ル者の一撃をもろに受けてしまう。殴られた上に蹴り上げられ地面を力なく転がった。
「よくも舞を!」
不完全ではあるものの結界の修復を終えた真理が前線に復帰し、敵に襲い掛かる。だが、敵は強かった。
刈リ取ル者が大斧の一撃を腕で受け止めきるともう片方がカウンターと言わんばかりに襲い掛かる。ミストがもう1基用意していたRPG-7をぶっ放す。真理の結界がぶち割れ吹き飛ばされ地面に倒れ込んだ。
「ううう……」
さすがにRPG-7を2発も食らったせいか、動きが鈍い。
「お姉様。もう私たちでは勝ち目がありません。ここは引きましょう」
「仕方ないわね。舞、アリア、逃げて!」
お姉様の指示に従って2人は戦場を離れる。それを見届けた後真理は仲間と一緒に逃げて行った。
「良いのか? 追わなくて」
「ああ。良いんだ。アイツがいるかもしれないからな」
「……美歌か」
「……ああ。今の俺たちじゃ2人がかりでもまず勝てない」
苦い思い出がよみがえる。再会した日、2人は美歌に対し何もできなかった。尋常じゃなくらいの力をつけない限り勝てないどころかまともにやりあう事すら無理だろう。そう悟っていたのだ。
「ならもっとたくさんの魂を集めないとな」
「魂か?」
「ああ。魂を取り込めば取り込むほど俺は強くなれる。そして俺が強くなるほど連動して乃亜も強くなるよ」
「そうか……。分かった。でも今は帰るぞ」
「ああ。分かった」
2人は自宅目がけて飛んで行った。
「なぁ、乃亜。買い物したいんだがいいかな? 具体的に言うと銃とか」
「銃?」
そう言ってミストは手に持っていたそれを床に置く。すると作動したのか光りだし中から一人の青年が現れる。彼にはミスト同様頭には角、尻からはしっぽが生えていた。
「どうも。お初目にかかります。乃亜様にミスト様」
「誰だお前?」
「私の事はメディエートとでもお呼びください。サバトの皆様と主に銃の取引を行っております。当店では銃だけでなくトイレットペーパーから戦闘ヘリまで、何でもご用意できますよ」
丁寧な口調で深々と頭を下げて挨拶する。
「あ、でもオレ人間の魂とか持ってないよ?」
「えっと、ここは日本ですよね? だったら日本円でいいですよ」
「何!? 円が使えるのか!?」
「ええ。人間界では人間のお金で物資調達するのが一番ラクで安全ですから魔界の住人も人間のお金が欲しいんですよ。ただクレジットカードや銀行振り込みには対応しておりませんので現金一括払いでお願いしますね」
悪魔の間でも人間の金が流通しているとは何とも不思議な感覚だ。
「ところで、ミスト様がご注文いただいた商品の代金を払ってほしいのですがよろしいでしょうか?」
「ミスト、お前何を頼んだんだ?」
「銃とロケットランチャー。天使相手に使うんだ」
そう言って乃亜に明細書を渡す。それなりの額にはなっているが今持っている全財産からすると大したことないと言える出費だった。
「分かった。買うよ」
「まいどありがとうございます。こちらがお品物になりますね」
そう言って彼は品物……ミニミ軽機関銃1丁とRPG-7を2基渡した。
ミストは武器を持ったまま霧の姿になり、乃亜の中へと入っていく。
「よし! 行こうぜ!」
「へぇ。武器の持ったままその姿になれるのか。便利だな。じゃあ行くか」
乃亜は刈リ取ル者の姿となって自宅を後にした。
昼間の公園のベンチに男が腰掛けていた。8月になり灼熱の太陽がじりじりと照り付ける。あまりにも暑すぎるせいか彼以外誰もいない。
そこへ刈リ取ル者が≪光迂回≫で姿を隠しながら現れる。
約束の時間10分前だが多分依頼者だろうと思って本人確認のため≪魂読≫で記憶を読む。
「父さん! 父さん!」
頭の中に流れてきたのは病院らしき建物に男が駆けつけるシーン。部屋の中には老人の遺体が安置されていた。
顔にかけられた布を取ると、そこには彼にとって見覚えのある顔が現れた。
「父さん……そんな……ううう……」
男は父親の遺体を見て絶望で涙した。それだけ読んでおそらく依頼者本人だろうと思い、透明なまま声をかける。
「刈リ取ル者だ。訳あって姿は見せないがお前のそばにいるぞ」
「刈リ取ル者さん。依頼人の園部です。私の父は絶望の中でもがき苦しみながら自殺しました。私には何もできませんでした。せめてもの償いに敵討ちをお願いしたいのです。今から渡す用紙に写ってる長谷川という男がいじめの中心人物だったそうです。彼を……殺してください」
そう言って男はプリントアウトされた写真を見せた。彼の父親とは別の老人の姿が映っていた。彼は同時に万札がギッシリ詰まったアタッシュケースを渡す。
「良いだろう。それと、大変だったな。父親を殺されてよくここまで耐えたな。つらかっただろう。安心しろ。もう大丈夫だ」
交渉成立。一旦荷物を受け取ると自宅へと帰って行った。
その日の夜。
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「……こいつか」
ほどなくして長谷川が見つかった。念のため≪魂読≫で記憶を読み、本人かどうか確認する。
「鶴野さん」
長谷川はマドンナである鶴野に緊張しながら声をかける。胸の鼓動がときめきで早くなるのを感じる。
「どうさないましたか長谷山さん」
「鶴野さんは園部さんの事が好きなのですか」
「ええ。素敵な人よ」
「は、はぁ。そうですか」
それを聞いた長谷川に嫉妬の炎が渦を巻く。
園部の野郎! 新入りの分際で鶴野さんを横取りしやがって! 許さねえ。許さねえよ!
「うわ! 何だコレ!」
園部が自分の着替えを見て声をあげる。長谷川が園部の洗濯物に泥を塗りたくったのだ。
「おやおや大変ですねぇ。せっかくのお洋服、もう着れませんなぁ」
「長谷川さん! あなたがやったんですか!?」
「酷い事言いますなぁ。まるで私が犯人みたいな言い方して」
いい気味だ。ざまあねえな。
園部の息子が老人ホームを訪ねてきた時は必ず妨害をかけた。
「あーあーあー! おしゃべりがうるさくてTVが聞こえませんなぁ! 早いとこ帰ってくれませんかねぇ!」
わざと声を荒げて邪魔者扱いする。
そしてあの日。枕元には遺書が残され、彼は死んでいた。深夜、調理室に忍び込み包丁で首をかき切ったらしい。
ああ良かった良かった。園部の野郎がくたばってくれて。これで鶴野はオレの物だ。スッキリした。
「テメェ見てえなジジイを老害って言うんだな」
記憶を読み終えた刈リ取ル者は長谷川の首根っこを掴むと老人ホームの裏庭へと連れ出した。無論結界を張って誰にもばれないようにしてから。
「な、何だお前!? 何をする気だ!」
「正義の鉄槌を下すつもりだ」
そう言って刈リ取ル者は長谷川の両手両足を粉砕する。更に腹や胸を何度もなぐりつけ内臓や骨を破砕する。
「た、たひゅけて……たひゅけて……」
「助けてほしいか」
刈リ取ル者は≪癒しの手≫で傷をいやす。
「た、助かった……」
安堵する長谷川だったがその直後、化け物の手で右手の指全てを人体構造上絶対に曲がるはずのない方向にクシャクシャに曲げた。刈リ取ル者は正義の執行を再開した。
「たひゅけて……たひゅけてくらひゃい……」
「お前、覚悟は出来てるのか?」
「か、覚悟?」
「『人を呪わば穴二つ』って言葉を知らんのか? 誰かを殺したら自分も殺されるかもしれないというのを覚悟の上でやったんだよな? 違うのか?」
「ち、違います、違います! 園部の事はちょっと追い出そうと思っただけなんです。まさか死ぬとは思ってなかったんですよ!」
既に≪魂読≫で長谷川の心の中は読んでいたので嘘だと分かっていた。長谷川は明確な殺意を抱いていた。彼は園部を殺すつもりでいじめていた。
「俺は嘘つきが嫌いだ。大嫌いなんだよ」
そのセリフと共に老人の胸が全壊された。魂を回収しその場を去ろうとしたとき、結界に穴が空く。真理達4人が刈リ取ル者の前に現れた。
「あなたはまだ罪を重ねるつもり? 人を裁くのは主のやる事ですわ。あなたのやってる事はISと同じくらい野蛮な事ですわ」
弓を構えた女が怒りを込めた声をぶつける。
「だから何だ? 俺は正しい。それこそ神を目の前にしても言えるさ。それに俺が殺人鬼だというのならお前らも殺人鬼さ。神の力で殺すか悪魔の力で殺すか、その程度の違いしかないと思うがね」
「みだりに主の名を言うな! それに、人の命を何だと思ってるの!?」
「人の命? そんなもん諭吉より軽いね。日本だけでも1億人いる。1億人も人がいりゃ生きているだけで迷惑かけるクズなんて山ほどいるんだよ。1%レベルのクズなら100万人、0,1%のゴミクズでも10万人、死ななきゃいけない屑がこの国にはいるんだよ」
「もういい! お前は死ね!」
憎悪と殺意を剥き出しにしつつ女が矢を放つ。相変わらず結界に穴を開けるほどの貫通力を持っていた。
刈リ取ル者が受け止めた直後、紅い霧が化け物の身体から吹き出しミストが実体化する。
その手にはミニミ軽機関銃が握られていた。
「援護するぜ!」
そう言ってミストはRPG-7を刈リ取ル者に渡した後、機関銃から景気よく悪魔の魔力をこめて威力を引き上げた弾丸をぶっ放す。
その弾幕を掻き分けて真理が大斧と共に襲い掛かってくる! 彼女の一撃を刈リ取ル者は受け止める。大斧は結界をぶち破り腕に達する。が、ギリギリ中身までは届かない。
直後、彼はRPG-7によるカウンターの一撃を決める。爆風とバックブラストが辺りに広がる。真理の服が焦げ、服の無い個所には火傷が出来ていた。
彼女は結界と服を修復するためにいったん下がる。と同時にアリアを守っていた舞が前に出る。
「舞! 気を付けて! こいつら手ごわいわよ!」
舞は積極的に攻撃することは無く、受け身の姿勢で二人と戦う。舞が両手の盾で攻撃を受け止めている隙に矢で仕留める。という算段だった。
だが刈リ取ル者は多少の傷は織り込み済みと割り切っているせいか、矢をものともしない勢いで攻撃を加える。徐々に形勢が悪くなっていく。
やがて舞の結界が破られ、盾のガードをこじ開けられた! そこへ刈リ取ル者の一撃をもろに受けてしまう。殴られた上に蹴り上げられ地面を力なく転がった。
「よくも舞を!」
不完全ではあるものの結界の修復を終えた真理が前線に復帰し、敵に襲い掛かる。だが、敵は強かった。
刈リ取ル者が大斧の一撃を腕で受け止めきるともう片方がカウンターと言わんばかりに襲い掛かる。ミストがもう1基用意していたRPG-7をぶっ放す。真理の結界がぶち割れ吹き飛ばされ地面に倒れ込んだ。
「ううう……」
さすがにRPG-7を2発も食らったせいか、動きが鈍い。
「お姉様。もう私たちでは勝ち目がありません。ここは引きましょう」
「仕方ないわね。舞、アリア、逃げて!」
お姉様の指示に従って2人は戦場を離れる。それを見届けた後真理は仲間と一緒に逃げて行った。
「良いのか? 追わなくて」
「ああ。良いんだ。アイツがいるかもしれないからな」
「……美歌か」
「……ああ。今の俺たちじゃ2人がかりでもまず勝てない」
苦い思い出がよみがえる。再会した日、2人は美歌に対し何もできなかった。尋常じゃなくらいの力をつけない限り勝てないどころかまともにやりあう事すら無理だろう。そう悟っていたのだ。
「ならもっとたくさんの魂を集めないとな」
「魂か?」
「ああ。魂を取り込めば取り込むほど俺は強くなれる。そして俺が強くなるほど連動して乃亜も強くなるよ」
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