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美歌アメリカへ行く
Scene.38 美歌、アメリカへ行く
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「はいどうもー! 天使 美歌でーす! 今日は皆さんにビッグな! ニュースをお伝えしまーす! 何と! 私はニューヨークの中学校へ語学留学することになりましたー!」
動画投稿サイトに上げた動画で近況を報告する。語学留学が決まったと伝えるその姿は愛くるしい。本当の彼女を見ている者からすれば、どうすればここまで完璧な演技ができるのだろうかと思うほどに。完璧なカモフラージュのまま動画の本編は進んでいく。
「これからはアメリカの美味しいスイーツを出すお店なんかをたくさん紹介したいと思いたいので期待してくださーい! 天使 美歌でしたー!」
そして締める。何故突然語学留学が決まったのか。それはあの日の出来事がきっかけだった。
「もう! だから言ったのに!」
「悪かったよ。さすがに舐めプレイしすぎた」
早朝、聖ルクレチア女学院の生徒指導室で美歌とザカリエルが話をしていた。
あの日の夜、ハンディキャップもとい舐めプレイの一環で生理の日にサバト幹部とやりあって命からがら逃げだして以来変身することが出来なくなっていた。
「今のあなたの身体は悪魔の穢れで充満してる。だから私たちの力を使うことが出来なくなっているのよ」
あの時、一時期魂だけの状態になってしまったがリリムとか言った悪魔の力をあの女が搾りカスになるまで吸い取ることで何とか肉体を復元、再生することが出来たのだ。
だが、その代償は大きい。穢れで充満した身体では天使の加護は一時的にではあるにせよ消え、普通の人間と大差なかった。
「チッ。しゃあねえな。で、どうすりゃいい? まさかとは言うけど一生このままじゃねえだろうな?」
「専用の設備がある本部のアメリカへ行って浄化してもらうしかないわね。しばらく現地にいてもらうわ。あなた英語は出来るかしら?」
「ふ~ん、アメリカね。分かった。行くよ。安心しろ。英語はペラペラだぜ」
「一応は語学留学という形でアメリカに行ってもらうわ。すぐに手続きを始めるから貴女も準備しなさい」
「わーったよ」
そう言って彼女は部屋を後にした。
2日後
「美歌さん、本当に行っちゃうんですね」
どこから漏れたのかはわからないが自分が留学することが周囲で噂になっており、何人かが空港で彼女の見送りに勝手にやって来た。
かつて真理とチームを組んで戦っていた塚原 舞が心配そうに声をかける。彼女は美歌のファンだった。
「うん。英語を話せるようになりたいから」
「ボクは心配なんですよ。前に悪魔と戦って何とか逃げ延びたとかいう話も聞いたし……」
「心配性ね。舞ちゃんは。私なら大丈夫。すぐってわけじゃないけどちゃんと日本に帰ってくるから。ね!」
そう言って不安がる舞にやさしい声をかける。本当のところは心底ウザいと思っているのだが……。
「やっぱり美歌ちゅあんに会えなくなるなんて僕寂しいよー」
「大丈夫です。動画上げますのでそれで我慢してください」
美歌の事が本気で好きになっている専属カメラマンが悲しい声をあげるが、そう言って彼を黙らせる。本当のところはこちらもまた心底ウザいと思っているのだが……。
そして、彼女は機上の人となった。
「初めまして。天使 美歌と言います。語学留学で来ました。よろしくお願いします」
語学留学で来た。という割には彼女の口からはやたらと流暢な英語があふれ出る。それに疑問を抱く生徒はぽつぽついたが彼女の愛嬌の良さを見て特に気にしないことにした。
ホームルームを終えるとクラスメート、抜けるような白い肌に鮮やかな、おそらく天然もののブロンドの髪。そして発育の良さをうかがわせるメリハリのあるボディをした少女が美歌に声をかける。
「ミカさん、ちょっといいかしら?」
「良いけど、何の用?」
「私はマリーというの。よろしくね。そうそう。今夜貴女を歓迎するパーティをするからぜひ来てもらいたいの。貴女服とか持ってないでしょ? 制服で来ていいわよ」
「へー。そうなんだ。ありがとう! 絶対いくね!」
その日の放課後……
制服で来ていい。そう言われてやって来たパーティ会場では参加者は全員華やかなパーティドレスを着ていた。自分だけ制服というのはあまりにも浮いていた。
(酷い恰好ね。パーティだっていうのに制服なんかで来るなんて)
(さすが黄色いサル、デリカシーが無いわね)
クラスメートたちは美歌をクスクスと嗤い蔑む。
「おいマリー、何のつもりだテメェ」
「何のつもりって? 決まってるじゃない。貴女の歓迎パーティーよ。楽しみなさい」
ドスを利かせた美歌の声に全くたじろぐ事もせずに企画を発案したマリーは勝ち誇った顔で応える。
「聖ルクレチア女学院のアメリカ本部ってのも大したことねぇなぁ。ちっとはやるかもと思ったがオレに歯向かうチンパンジーの巣窟かよ。まぁいい。今日は何もしないで帰ってやるよ」
「待ちなさい」
帰ろうとした美歌をマリーは止める。
「ジャップ、ここの女王は私よ。これからはマリー様と呼びなさい」
「マリーとか言ったな。オレは根に持つタイプなんだ。白いチンパンジーの分際でオレに歯向かったことは絶対に忘れねえからな。テメェがオレに対してやったことは全部覚えとくからな。忘れるなよ。全部覚えてるからな」
「フン。仕返しできるというのならやって見せなさい、黄色いお猿さん」
美歌は捨て台詞を吐いて去って行った。
この時マリーは知らなかった。Aランクである彼女にとってSランクとは天と地ほどの差があることに。そして美歌は常人からすれば底どころか縁すら見えない邪悪さを抱えていることに。
動画投稿サイトに上げた動画で近況を報告する。語学留学が決まったと伝えるその姿は愛くるしい。本当の彼女を見ている者からすれば、どうすればここまで完璧な演技ができるのだろうかと思うほどに。完璧なカモフラージュのまま動画の本編は進んでいく。
「これからはアメリカの美味しいスイーツを出すお店なんかをたくさん紹介したいと思いたいので期待してくださーい! 天使 美歌でしたー!」
そして締める。何故突然語学留学が決まったのか。それはあの日の出来事がきっかけだった。
「もう! だから言ったのに!」
「悪かったよ。さすがに舐めプレイしすぎた」
早朝、聖ルクレチア女学院の生徒指導室で美歌とザカリエルが話をしていた。
あの日の夜、ハンディキャップもとい舐めプレイの一環で生理の日にサバト幹部とやりあって命からがら逃げだして以来変身することが出来なくなっていた。
「今のあなたの身体は悪魔の穢れで充満してる。だから私たちの力を使うことが出来なくなっているのよ」
あの時、一時期魂だけの状態になってしまったがリリムとか言った悪魔の力をあの女が搾りカスになるまで吸い取ることで何とか肉体を復元、再生することが出来たのだ。
だが、その代償は大きい。穢れで充満した身体では天使の加護は一時的にではあるにせよ消え、普通の人間と大差なかった。
「チッ。しゃあねえな。で、どうすりゃいい? まさかとは言うけど一生このままじゃねえだろうな?」
「専用の設備がある本部のアメリカへ行って浄化してもらうしかないわね。しばらく現地にいてもらうわ。あなた英語は出来るかしら?」
「ふ~ん、アメリカね。分かった。行くよ。安心しろ。英語はペラペラだぜ」
「一応は語学留学という形でアメリカに行ってもらうわ。すぐに手続きを始めるから貴女も準備しなさい」
「わーったよ」
そう言って彼女は部屋を後にした。
2日後
「美歌さん、本当に行っちゃうんですね」
どこから漏れたのかはわからないが自分が留学することが周囲で噂になっており、何人かが空港で彼女の見送りに勝手にやって来た。
かつて真理とチームを組んで戦っていた塚原 舞が心配そうに声をかける。彼女は美歌のファンだった。
「うん。英語を話せるようになりたいから」
「ボクは心配なんですよ。前に悪魔と戦って何とか逃げ延びたとかいう話も聞いたし……」
「心配性ね。舞ちゃんは。私なら大丈夫。すぐってわけじゃないけどちゃんと日本に帰ってくるから。ね!」
そう言って不安がる舞にやさしい声をかける。本当のところは心底ウザいと思っているのだが……。
「やっぱり美歌ちゅあんに会えなくなるなんて僕寂しいよー」
「大丈夫です。動画上げますのでそれで我慢してください」
美歌の事が本気で好きになっている専属カメラマンが悲しい声をあげるが、そう言って彼を黙らせる。本当のところはこちらもまた心底ウザいと思っているのだが……。
そして、彼女は機上の人となった。
「初めまして。天使 美歌と言います。語学留学で来ました。よろしくお願いします」
語学留学で来た。という割には彼女の口からはやたらと流暢な英語があふれ出る。それに疑問を抱く生徒はぽつぽついたが彼女の愛嬌の良さを見て特に気にしないことにした。
ホームルームを終えるとクラスメート、抜けるような白い肌に鮮やかな、おそらく天然もののブロンドの髪。そして発育の良さをうかがわせるメリハリのあるボディをした少女が美歌に声をかける。
「ミカさん、ちょっといいかしら?」
「良いけど、何の用?」
「私はマリーというの。よろしくね。そうそう。今夜貴女を歓迎するパーティをするからぜひ来てもらいたいの。貴女服とか持ってないでしょ? 制服で来ていいわよ」
「へー。そうなんだ。ありがとう! 絶対いくね!」
その日の放課後……
制服で来ていい。そう言われてやって来たパーティ会場では参加者は全員華やかなパーティドレスを着ていた。自分だけ制服というのはあまりにも浮いていた。
(酷い恰好ね。パーティだっていうのに制服なんかで来るなんて)
(さすが黄色いサル、デリカシーが無いわね)
クラスメートたちは美歌をクスクスと嗤い蔑む。
「おいマリー、何のつもりだテメェ」
「何のつもりって? 決まってるじゃない。貴女の歓迎パーティーよ。楽しみなさい」
ドスを利かせた美歌の声に全くたじろぐ事もせずに企画を発案したマリーは勝ち誇った顔で応える。
「聖ルクレチア女学院のアメリカ本部ってのも大したことねぇなぁ。ちっとはやるかもと思ったがオレに歯向かうチンパンジーの巣窟かよ。まぁいい。今日は何もしないで帰ってやるよ」
「待ちなさい」
帰ろうとした美歌をマリーは止める。
「ジャップ、ここの女王は私よ。これからはマリー様と呼びなさい」
「マリーとか言ったな。オレは根に持つタイプなんだ。白いチンパンジーの分際でオレに歯向かったことは絶対に忘れねえからな。テメェがオレに対してやったことは全部覚えとくからな。忘れるなよ。全部覚えてるからな」
「フン。仕返しできるというのならやって見せなさい、黄色いお猿さん」
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