たまにはソバ位食べさせて

あがつま ゆい

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本編

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「……」

 12月31日。大みそかの夕食に出てきたのは、うどんだ。

「お母さん、年越しなんだからそば位食べさせてよ。うどんなんていつも食べてるし」
「何言ってんのよ。年越しはうどんに決まってるじゃない。そばよりもうどんの方が落ち着くものよ」
「うー……」

 母親はそう言って私を言いくるめる。

 世間では年越しを「そば」で祝うものだが、私の家ではいつもうどんだった。というか学校の女友達もみんなうどんで年越しだった。
 どこまで本気なのか知らないけど自らを「うどん県」と称する香川県で生まれ育った私は、それこそ飽きる程うどんを食べ続けて育った。
 たまにはそばも食べたい。と思いながら過ごしていた。
 結局そばは年に1回食べられればいい方、という学生生活を送っていたが転機が訪れる。大学進学での上京だ。

「!? こ、これが……これが、そば!?」

 一度本物のそばを味わおうと上京先の都市部にある「10割そば」の店を訪れた際にはまさに「衝撃」を受けた。
 そば粉の香り、味、どれもがカップそばをすする程度しかできなかった学生時代では到底味わえない物で、そば湯もまた美味だった。

(こんなものがこの世にあっただなんて!! 人生損するところだった)

 それからというもの、私はタガが外れたかのようにそばに没頭し、毎日1食はそばをすする生活を続けていた。
 もちろん毎日店に行けるような大金は持っていなかったが、スーパーのプライベートブランドである乾麺のそばをほぼ毎日食べる生活は続けていた。



 そんな生活が続いて3ヵ月……。

「ハァーア。飽きちゃった」

 3ヵ月の間散々そばをすすり続けていたからなのか、飽きが来ていた。
 上京当初は感動のあまり涙が流れそうになるほどの美味しかったそばが、まぁ普通。と思えるようになるまで慣れてしまったのだ。
 夕食はどうしようか? 迷っていた時に……。


 ピンポーン


「こんばんわー。お届け物でーす」

 配達員が段ボールを持ってやってきた。受け取って送り主の欄を見ると……実家だ。上京してから毎月初めの頃に実家から届く品。その中身は……。

「ハァッ……またうどん」

 実家からの仕送りのついでに親は毎月乾麺のうどんを送ってくる。もちろん上京してからはそばばかり食べているので、うどんは溜まっていく一方。
 たまに友人に振るまって消費していた。

(そう言えば上京してからは、ずっとうどん食べてなかったなぁ……)

 ちょうどいい、今夜はうどんにしよう。そばを茹でるのに慣れているのか、慣れた手つきでうどんを茹でて皿に盛り付ける。
 一口食べると……。

「……懐かしい」

 どうせ子供の頃から食べ飽きたあの味しかしないだろうと思っていたけど口に出た言葉は「懐かしい」というもの。
 と同時に、思い出がパッと蘇る。

 小学生の頃「もううどんは食べたくない!」とダダをこねて怒られた時。
 中学生の頃、夕食が3連続うどんで次は別の料理を出すだろうと思っていたら「焼うどん」を出されて本気でキレた時。
 高校生の頃、付き合っていた彼氏に浮気されて別れ、泣きながらうどんをすすっていた時。

 あまり良い物では無いのかもしれないが、それでも大切な物だった。

(……たまには食べてもいいかも)

 あれだけ嫌っていたうどんも、3ヶ月ほど離れているとなぜか許せた。それ以来、2~3日に1食はうどんを食べるようになる大学生活が続くことになった。
 うどんに関しては色々文句はあるけど、結局は好きだ。という自分に何故か妙に「ストン」とに落ちた。



 時は流れ……地元に戻った私は結婚して家庭を築いていた。

「……」

 12月31日。大みそかの夕食に出したのは、うどんだ。

「もうママ! せっかくの年越しなんだからそば位食べさせてよ。うどんなんていつも食べてるし」
「何言ってんのよ。年越しはうどんに決まってるじゃない。そばよりもうどんの方が落ち着くものよ」
「うー……」

 私はむくれる娘にそう言ってきかせる。

 世間では年越しを「そば」で祝うものだが、私の家ではいつもうどんだった。というか今でも交友のある学校の女友達もみんなうどんで年越しだった。
 どこまで本気なのか知らないけど自らを「うどん県」と称する香川県で生まれ育った私は、それこそ飽きる程うどんを食べ続けて育った。
 それでもうどんを食べ飽きることは無い。と思いながら過ごしていた。
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