人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
9 / 127
若葉の芽生え

第9話 秀吉の入れ知恵

しおりを挟む
「……」

 早朝、ディオールは両手を握ったり開いたり、または関節を動かして調子を見る。動かすたびにかすかだが痛みと違和感を感じていた。耐え難いというほどではない。大して我慢もせずに簡単にごまかせる程度だったが、確かに痛みや違和感はあった。

「昨日少し動いただけでこれか……歳はとりたくないものだな」

そうつぶやいて身支度を整え、部屋から出た。



「とにかく話を聞くことが重要です。
 人は何かとしゃべりたがりますがもし聞くよりも話すことが重要だとしたら人間の身体は口は2つに、耳は1つになっているはずです。
 耳が2つあり口は1つという事はそれだけ聞くことの方が重要だから万色の神は人間を今の姿に造ったのですよ」
「へぇ、いい事聞いたわ。お前は何でも知ってるなぁ。俺とは大違いだわ」
「ホッホッホ。この程度の知識でしたらいくらでも授けますよ、閣下」

 マコトがディオールとのマンツーマンの授業をしていたところにゴブーがやって来る。

「勉強中の所失礼いたしやす、大将。シューヴァルの研究所から地質調査の結果が出たので来てくれとの事ですぜ」
「分かった。すまないディオール。勉強は中断して研究所に行くぞ」



 分析結果が出たとの事なのでマコト達は学者たちが都市国家シューヴァルに構える研究所へを足を運んだ。

「マコト様ですね、お越しいただきありがとうございます。分析結果が出ましたのでお知らせいたします。
 まず城から見て東側の山一帯からは粘土が豊富に採れます。ですが成分的に陶器や磁器には向いていませんね。レンガ程度なら、という感じでしょうか。
 西の山一帯は良質な安山岩で、建材として使えそうです。調べた限りでは城や城壁に使えるほどの強度を持っているようです」
「鉱石はあったか?」
「私たちが見た限りでは鉱石はありませんでしたね」
「うーむ……鉱物資源は無しか。銅くらいは出てもよかったんだがなぁ」

 分析結果に嬉しさ半分、落胆半分で一行は研究所を後にした。



「閣下、どこへ行かれるつもりですかな? 城へ帰るなら向こうですが?」
「ギルドに顔を出す。ついてきてくれ」

 研究所を出たマコトはディオールと一緒に街のギルドに顔を出すことにした。

「マコト様ですね。お仕事をご紹介いたしますね。えっと……」
「いや、それもあるが今日は仕事を依頼しにやって来た」

 受付嬢がマコトの顔を見るやいつもの流れで仕事の紹介をしようとするが、断りを入れる。

「どのようなご用件でしょうか?」
「レンガ職人、石工、大工を小規模で良いんでそれぞれ2チームずつ手配してくれ。頭領とチームリーダーはそれなりの資質を持った者にしてくれ」
「閣下、お言葉ですが1チームだけでも良いのでは?」
「ディオール、ここは俺に任せてくれ。いい考えがあるんだ」

 マコトの目がきらりと輝いていた。



 数日後、ドワーフの石工、大工、レンガ職人が頭領を務める職人集団がマコトの国へとやってきた。
 ドワーフ達は一人前として認められヒゲを生やすことを許されたばかりである若者だった。

 西の山から安山岩を切り出し、東の山の粘土からレンガ職人にレンガを作ってもらっている。それら「比較的高価」な建材は城の補修と国民用住宅の1階部分に使い、残りを売って手に入れた大量の木材と共に大工に住宅を建てさせている。彼らは来てからというもの、実に良く働いている。
 テキパキと働く職人たちにアゴヒゲをいじりながら感心するディオールに、マコトは「いい考え」をお披露目する。

「それにしても職人たちは良く働きますなぁ。そう言えば『いい考えがある』とか言ってましたなぁ、閣下?」
「ああ。ちょっと工夫をした。職人たちを2つのチームに分けて先に仕事を終わらせたり、1日の成果が高かった方に報奨金を出す。
 ただし手を抜いたり相手チームを妨害したらその時点で賞金は相手のものにする。って事にしたのさ。
 これなら競争させることでペースが上がって工期が短くなる。結果的に費用は安くなるのさ」
「ほほぉ、考えましたなぁ。さすが我らの王ですな」
「ま、俺が考え付いたことじゃないけどね」

 チーム制にして競わせるというのはマコトが発案したものではない。
 豊臣秀吉が壊れた石垣の修理をする際、割普請わりぶしんというチーム制にして速さを競わせたことでそれまでは20日かかっても終わらなかった工事を1日で終わらせた。というエピソードをヒントにしたものだ。

「ようやく国らしくなってきたなぁ」

 出来た家を公営住宅として貸し出し賃料を取る。もちろん家一軒丸ごと買いとってもらうのもありだ。
 少しは明るくなった未来にマコトはようやく安堵の表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...