人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
22 / 127
3国同盟

第22話 裏切り 後編

しおりを挟む
 城壁を攻めていたミサワ国やランカ国の兵士がどよめきだし、統制が大きく乱れ始める。異変を察知した王は配下に何が起こったのか問いただす。

「何事だ!? 一体何が起きている!?」
「閣下! 緊急事態! 後方より敵の伏兵および別働隊が多数出現! 包囲されました!」
「何だとぉ!?」

 返ってきたのは絶望的なメッセージ。
 隠れていたマコトの軍隊が自軍の背後から奇襲を仕掛ける! 王達の顔面から血の気がさぁっと引く。

 しまった。

 と思った時にはもう手遅れであった。守衛が手薄なのは慢心を産むための罠だったのだ。

「相手は散開している! 一点集中で突破しろ! 活路を開け!」

 王は慌てて指示を出す。助かりたいがために。



「全軍進撃! 敵将を討ち取れ!」

 ディオール率いる民兵と傭兵たちが斧と槍を構えて敵陣に向かう。突撃ラッパのメロディと共に力強く大地を蹴り、敵軍へと突撃していく!

「総員構え、放て!」

 エルフェンの合図でダークエルフ達が放った魔法の矢は空中で分裂し、広範囲に降り注ぐ。さらに突き刺さった矢の先から強烈な電撃が流れ、鉄の鎧を貫通して肉体を直に感電させる。敵の兵士たちがバタバタと倒れていった。

「叩いて潰せえ!」
「ブモ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 ミノタウロス達が雄たけびを上げる。筋肉の壁とも言える猛牛の群れが迫る。それは並みの兵では止められない剛腕で相手を次々と打ち倒していった。

「よし! 総員構え! 放て!」

 とどめにマコトが城壁の上から矢を浴びせる。逃げ場を失い、軍の前後から矢を浴びせられる敵軍は見る見るうちに弱っていった。

 ダークエルフ達の魔法の矢が飛んでくるたびに、死のシャワーを浴びて前線の兵がごっそり減る。生き残りもミノタウロスの暴力でなぎ倒される。
 包囲網が敵国の王目がけてじわりじわりと狭まってくる。それは大鎌を構えた死神が一歩ずつ、だが確実に迫って来る足音であった。



「何をやっている! 早く活路を開け!」
「閣下、それが敵に怯えて皆動けません!」
「オイ! 聞いてないぞ! あんな戦力を隠し持ってるなんて!」
「うるせえ! オレに聞くな! お前こそろくに下調べもしないでオレに丸投げしたじゃないか!」

 包囲網が迫り、怯える中で自己保身に走って責任を互いになすりつけ合う王たちのために、道を切り開くほど忠誠心の高いものはいない。

「こうなったら最後の手段だ」
「そうだな」

 ミサワ国とランカ国の王は神霊石を取り出し、そして命じた。

「「王が命ず! 我が家臣たちよ! 最後の1兵になるまで敵と戦え!」」

 王の言葉と共に持っていた神霊石が砕け、粒子状になって戦場全体に降り注いだ。



「な、何だ!? こいつら死ぬのが怖くないのか!?」

 異変に気付いたのは別働隊の最前線にいる兵だった。
 敵の前にはパルチザンによる槍衾やりぶすまが待ち構えている。ミノタウロスの肉の壁やダークエルフによる矢の雨だってある。

 そこに突っ込むような勇敢な者はそうはいない……はずだった。それが先を争うように前へ前へと突進してくる!
 急に勢いづく相手にマコトの軍勢はとまどい、焦りだす。

「何だ!? 急に兵士が突っ込み始めたぞ!?」

 城壁の上から戦場を見ていたマコトの目に映ったのはそれまで明らかに怯えてうろたえていた者たちが、急に恐れが吹き飛んだかのように戦いはじめる光景だ。
 それを見て彼は噂には聞いてた地球から召喚された王だけが持つ特殊能力を使ったのだと勘付いた。

(まさか、これが王の勅命の力か!?)

 王の勅命、それは神霊石を消費して王と契約を交わした配下たちに「絶対に逆らえない命令」を下す地球から来た王なら誰もが持つ能力の1つ。
 単純に行動を指示するだけでなく恐怖心を消すなど一種の洗脳に近いことも可能で、直接契約を交わした者以外にもその配下、いわゆる「配下の配下」も対象に含まれる。

 マコトは言葉を選ぶ。神霊石を消費して配下に「絶対逆らえない命令」を下せる王の勅命は効果絶大だがその配下たちは命令された内容は覚えている。 下手な命令を下せばそれまでの信頼が一気になくなる両刃の剣でもある。
 少し悩んだ後、マコトは神霊石を取り出し、王の勅命を発動させる。

「王が命ず! 我が家臣たちよ! 敵に恐怖することなく戦え!」

 神霊石が砕け散り、戦場全体に降り注いだ。



 効果はすぐ現れた。
 それまで死んだ魚の様な瞳をしながら無表情で襲い掛かってくる敵兵にうすら寒い恐怖を感じていたが、それがきれいさっぱり無くなった。
 今ならやれる。マコトの軍勢は皆そう思った。
 恐怖に怯えることが無くなったハシバ国軍はミサワ国、ランカ国同盟軍を飲み込んでいく。

「恐れるんじゃないよ! 数では有利だよ! 雄たけびを上げてアタシに続きな!」
「おいらたちの大将を信じろ! 行くぞ! ついてこい!」

 お虎とゴブーも配下に指示しつつそれなりに戦果をあげていく。
 他の部隊も敵将目がけて敵の兵たちを蹴散らし、総大将が目で見える場所にまで進軍する。同盟軍の王達とマコトの軍を遮るのは線で引いた様な守りしかなかった。

「畜生! 駄目なのか!?」
「おい! どうすんだよこれ!」

 2人の王たちは悲鳴に近い声を上げる。同盟軍の数はどんどん数が減ってゆき、やがて瓦解した。王の勅命を受けて強制的に戦わされてはいるが、無駄なあがきなのは目に見えていた。

「た、助けて、助けて! 命だけはとらないでくれ! この通りだ!」
「わ、分かった! 俺が悪かった! 従属しても良い! だから命だけは頼む!」
「閣下にあだなす者は仕留めなければいけません。ミサワ国王殿。その首、貰い受けます」
「俺達を潰そうとするのなら、自分も潰されるのを覚悟の上でドンパチ仕掛けてきたんだよなぁ? 違うか?」

 命乞いする2人の国王だったが、当然許してはくれなかった。
 エルフェンは腰にさげていた剣を抜きミサワ国王の首をね飛ばし、ウラカンは自慢の大斧でランカ国王の頭をかち割った。

「ミサワ国が滅亡しました」
「ランカ国が滅亡しました」

 マコトのスマホにはそんなメッセージが書かれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...