人魔共和国建国記

あがつま ゆい

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アレンシア戦役

第36話 マコト 帰還

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「国王陛下の、ご帰還! 国王陛下の、ご帰還!」

 セミがけたたましく鳴く中、先導する兵の大声と共にマコト一行が故郷へと帰還する。多くの者は兄や弟、夫や父親、あるいは息子との再会を喜び、一部

の者は「彼は勇敢に戦って散った」というメッセージを聞き、涙に伏した。

「悪いな、歩かせちまって。一応は女の足だから従軍するのはキツイだろ?」
「大丈夫。マコトさんと一緒ならこの程度どうって事ありませんよ」

「母乳牧場」にいたホルスタウロスは全員マコトと共に移住することを決めた。彼女たちはマコトに救ってもらったせいか、大分彼になついてる。
 順調に行けばハシバ国の特産品に「ホルスタウロスの乳」が加わる予定だ。



「先生、お帰りなさい!」
「先生! 無事帰ってこれたんですね!」
「おうよ! あのでっけえトロルを仕留めてきたぜ!」
「先生すごーい!」
「先生、その話聞かせて!」

 ゴブーは教え子たちからの歓迎を受ける。再会を喜んだあとで、彼らにやや誇張した武勇伝を聴かせることになった。



「あなた、帰ってこれたのですね。お帰りなさい」
「アリシア、エルル、アイーシャ、ただいま。無事に帰ってこれたよ。久しぶりにコーヒーが飲みたいな。アリシア、用意できるか?」
「はい。すぐに用意しますから」
「パパお帰りなさーい」
「お帰りなさい、パパ」
「エルル、アイーシャ、2人ともいい子にしてたかい? 今日は一緒に遊んでやるぞ」

 エルフェンは愛する妻や子供たちと再会の喜びを分かちあった。



「ゴブリン16匹にコボルド9匹、オーク6匹、トロルを4匹ってとこかな」
「まだまだだな。俺はコボルド12匹にオーク10匹、トロルは6匹だぜ」
「チッ。やるじゃねーか。あれ? ゴブリンは?」
「11匹。俺は大物を狙うタイプなんだよ」

 ミノタウロスたちは互いに戦果を言い合い、自慢し合っていた。
 一応は戦果に応じて能力給とでもいうべき成果報酬はあるものの、基本勝った負けたと言い合うだけで特に意味はないのだが、こういうタイプの者たちは

何かにつけて自慢したがるものだ。



「よぉ、お虎。無傷じゃないのか」
「ハハッ。こんなのただのかすり傷さ。すぐに治るって」

 お虎の右腕には包帯が巻かれていた。無傷ではなかったが無事に帰還は出来たらしい。

「な、なぁお虎。その……傷が治ってからでいいんだが、その……」
「結婚しないか? だろ?」
「なっ! ばれてたのか!?」
「バレバレだよ。うん、良いよ。結婚しよう。ナタル」

 2人はこれからの生涯を2人で歩むことを誓い合った。



「帰ってこれたな。あのボロ城に」
「ここまで来るとようやく帰ってこれたという実感がわきますな」

 マコトとディオールはほぼ1ヵ月ぶりに故郷に帰ってきた。ボロボロの城とはいえ、住み慣れた我が家に帰ってくるとなるとホッとする。

「しかし俺、この戦争で2000人もの人を動かしたんだよな。後になって考えると、正直怖いな。
 2000人に命令して動かすなんて日本じゃまずできる人数じゃねえよ。しかも文字通り命を賭けて戦わせるんだぜ?」
「まぁ我々も作戦立案に兵への指揮を手伝ったので閣下が1から10までやったわけではありませんから、そう怖がる必要もございませんよ?」

 2000人という現代日本では相当な大企業でもなければ動かせない程の大人数、それも会社の業務命令とは違って文字通り本当に死ぬ可能性の高い戦争

で戦えという命令、となると日本に住んでいたマコトには想像もつかないような仕事だ。
 それをただのオッサンである自分が動かす事にある種未知の恐怖を感じた。

「まぁ慣れればどうという事も無くなりますな。この乱世においては今後も戦争が起こることもあるでしょうし。リシア王も最初は戸惑ってましたがすぐ慣

れましたよ」
「そういうもんかぁ?」
「そういうものですよ、閣下」



◇◇◇



「戦勝祝いだ! 今宵こよいは大いに飲もうではないか! 我らの勝利に……乾杯!」
「「「「カンパーイ!」」」」

 マコトが帰還した日の夜、戦に勝ったことを祝う宴が行われた。振る舞われた料理こそ普段から目にする素朴な物にちょっと飾りを足した程度の物で、酒

も安エールのみであったがそれでもタダでメシが食えて酒も飲めるとあって好評だった。

 料理や酒があっという間に参加者たちの胃袋の中に入っていく。王から末端の兵士まで、同じように生きて帰れた喜びを分かち合った。



 宴が終わった後の自分の寝室で、マコトは夢を見ていた。いや、夢と言っていいのか現実だと言っていいのか分からない、そんな体験をしていた。
 この世界に来るきっかけを作った、あの虹色のドラゴンが再び現れたのだ。

「あなたは順調に国を広げているそうですね。安心しました。
 ヴェルガノン帝国なる国は恐ろしい事をしようとしています。
 彼ら死の力が増すほど「渇き」への封印の力は弱くなります。このままでは最悪の場合、「渇き」が再びこの世界に降り立ってしまいます。
 どうかお願いします。あなたぐらいしか頼りになる者はいません。どうか、どうかお願い……」

 そこまで言うと彼女の身体はすぅっと透けていき、やがて消えた。

「またあの夢か。いや、夢って言っていいものだろうか。まぁいいか」

 「渇き」の復活阻止。これがマコトの運命の歯車を静かに、だが確実に回していくのだが、この頃の彼はそれに気づいていなかった。
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