37 / 127
つかの間の休息
第37話 幼な妻
しおりを挟む
都市国家シューヴァルの教会で挙式が行われていた。
「マコト、そなたはメリルを妻とし、その身健やかなる時も、その身病みし時も変わらず、死が二人を分かつその時まで変わらずに愛し続けることを、万色の神の前で、獣の神の前で、友の前で誓いますか?」
「はい、メリルを妻としこれからは共に歩んでいきます」
ビルスト国から急きょ手配された神父はそう問いかけ、王は答える。そう、これはマコトの結婚式。そして彼の妻となる新婦はメリルだった。
「え? 俺と飲みたい?」
きっかけはビルスト国王カーマインがマコトと一対一で飲みたいと言い出したことだ。
マコトも馬鹿じゃない。単純に飲み仲間が欲しいってわけじゃなく、何か重大な話があるとは思っていた。
「一対一で飲むんじゃなかったのか?」
「私の事は気にしないでください。置物程度にしか思わなくていいです」
指定された日時に用意された部屋にはカーマインの脇にメリルがちょこんと座っていた。
彼女の言うとおり、とりあえずは気にせず飲むことにした。
最初はお互いの国の事、信じる神の事といった当たり障りのない話から始まった。色々話していくうちに酔いも適度に回り、突っ込んだ話がしやすい環境ができた、その時だった。
「ところでマコト殿には妃はいないと聞いてるが?」
「え、ええ。一人身です」
「だったらちょうどいい。うちのメリルをやるよ。可愛がってくれ」
突然の申し出にマコトは口に含んでいた酒を鼻と口から盛大に噴き出した。
「ごほっ! げほっ! がほっ! ちょっと待て! アンタの実の娘だろ!? それを物かペットみたいに!」
「ああ。お前さんの故郷の異世界、たしかニホンとかいう国ではそう言う風習は無いのか」
「そ、そりゃあ昔はあったそうだし、本で読んだり聞いたことはありますけど」
「まぁ家事育児にいざという時の簡単な軍隊の指揮まで仕込んである。減るもんじゃないだろうから受け取ってくれ。それに、うちらとはこれからも仲良くやっていきたいんだ。ある意味友好の証さ」
現代地球では今でこそ自由恋愛が当たり前になったがそれはごくごく最近の話で、ほんの数十年昔は日本においても「いいなずけ」がいたり、家の関係での結婚というのもごく当たり前に行われていた。
もっとさかのぼれば戦国時代においては家同士娘を送りあって親戚にすることで同盟を結ぶというのもごくごく普通に行われていた。
「メリル、良いのか? 俺って37のオッサンだぜ? 下手すりゃお前の父親よりも老けた男に嫁ぐようなもんだぞ?」
「うん。大丈夫。小さい国とはいえ一国の王女だからこういう日が来るのは分かってたし、それに、マコトさんなら安心だとも思ってたし」
「今回の話はこれの為か?」
「ああそうだ。単純に飲みながら話がしたかったってのもあるがな。メリルの事、頼んだぞ」
そのまま引くに引けなくなった格好でメリルを預かることになったのだ。
「姉上、おめでとうございます」
「閣下、おめでとうございます」
「大将、こんな幼な妻娶るなんて羨ましい限りだねぇ」
アレックスやディオール、それにお虎が2人を祝福してくれている。
それに加えて、もちろんあの男もいた。
「あ、お父様!」
「おお! メリル! 綺麗な姿だな。母さんにも見せたかったな」
「一応はカーマインさんは義理とはいえ俺の父親って事で良いのか? 年齢からしてずいぶんと奇妙な話になるけど」
「ハハハ! かしこまらなくていいぞ。俺もお前みたいなオッサンに父親呼ばわりされると調子が狂うからな!」
カーマインはマコトの肩をバンバンと叩きながらオッサン呼ばわりする。もしかしたら彼の方がマコトより年下なのかもしれない。
「あ、そうそう。この式が終わったらアレックスも連れてってくれ。お前の下で国家運営のいろはを教えてやってくれ。一応こっちでも教えてはいるが見聞を広めるってやつだ。頼むわ」
「アンタの子供を2人とも預かるわけか、責任重大だな」
「そう固くならなくてもいいって! どっちも最低限の事は教えてるから心配するなよなぁ!」
再びマコトの肩をバンバンと叩く。彼は見た目通り大分豪快で細かい事を気にしない性格なのかもしれない。
披露宴は順調に進み、やがて夜が来た。そう。「新婚初夜」だ。
「初夜は無くても良いですって!?」
「ああ。お前みたいな子供に無理強いする程腐ってはねぇ」
「私、大人だもん。12歳なんだから大人よ」
「12? たったの12か? 俺の3分の1も生きてないじゃないか。十分過ぎるくらい子供だ」
「もう! 子供扱いしないで! 大丈夫、出来るもん! 大丈夫だから……その……本当に……大丈夫……だから……」
初めて会った頃の弓腰姫のような勇ましさはどこへやら。半泣きの顔をされて相手をしてくれと言われたらもう引くに引けない。
「分かった分かった。相手するから泣くのはよしてくれ」
「遠慮とかいらないからね。ちゃんと知ってるから」
◇◇◇
「お早う。あなた」
「言っとくが俺はロリコンじゃないからな」
翌朝、ニコリと笑うメリルに対してマコトは意気消沈していた。
12歳と言えば良くて中学1年生、下手すればランドセルを背負っているかもしれない年齢だ。
37歳の男が12歳少女とわいせつ行為、となると日本じゃ間違いなく警察がカッ飛んでくる事案だ。
そんな子供相手でも「こなせる」事に男のサガの罪深さを噛みしめていた。
【次回予告】
「何者かに操られたようだった」
アレンシア国に下った魔物や獣人たちは口々に述べた。
その理由を探るべく、賢人との謁見を試みる。
第38話「謎の魔導器具と賢人ハクタク」
「マコト、そなたはメリルを妻とし、その身健やかなる時も、その身病みし時も変わらず、死が二人を分かつその時まで変わらずに愛し続けることを、万色の神の前で、獣の神の前で、友の前で誓いますか?」
「はい、メリルを妻としこれからは共に歩んでいきます」
ビルスト国から急きょ手配された神父はそう問いかけ、王は答える。そう、これはマコトの結婚式。そして彼の妻となる新婦はメリルだった。
「え? 俺と飲みたい?」
きっかけはビルスト国王カーマインがマコトと一対一で飲みたいと言い出したことだ。
マコトも馬鹿じゃない。単純に飲み仲間が欲しいってわけじゃなく、何か重大な話があるとは思っていた。
「一対一で飲むんじゃなかったのか?」
「私の事は気にしないでください。置物程度にしか思わなくていいです」
指定された日時に用意された部屋にはカーマインの脇にメリルがちょこんと座っていた。
彼女の言うとおり、とりあえずは気にせず飲むことにした。
最初はお互いの国の事、信じる神の事といった当たり障りのない話から始まった。色々話していくうちに酔いも適度に回り、突っ込んだ話がしやすい環境ができた、その時だった。
「ところでマコト殿には妃はいないと聞いてるが?」
「え、ええ。一人身です」
「だったらちょうどいい。うちのメリルをやるよ。可愛がってくれ」
突然の申し出にマコトは口に含んでいた酒を鼻と口から盛大に噴き出した。
「ごほっ! げほっ! がほっ! ちょっと待て! アンタの実の娘だろ!? それを物かペットみたいに!」
「ああ。お前さんの故郷の異世界、たしかニホンとかいう国ではそう言う風習は無いのか」
「そ、そりゃあ昔はあったそうだし、本で読んだり聞いたことはありますけど」
「まぁ家事育児にいざという時の簡単な軍隊の指揮まで仕込んである。減るもんじゃないだろうから受け取ってくれ。それに、うちらとはこれからも仲良くやっていきたいんだ。ある意味友好の証さ」
現代地球では今でこそ自由恋愛が当たり前になったがそれはごくごく最近の話で、ほんの数十年昔は日本においても「いいなずけ」がいたり、家の関係での結婚というのもごく当たり前に行われていた。
もっとさかのぼれば戦国時代においては家同士娘を送りあって親戚にすることで同盟を結ぶというのもごくごく普通に行われていた。
「メリル、良いのか? 俺って37のオッサンだぜ? 下手すりゃお前の父親よりも老けた男に嫁ぐようなもんだぞ?」
「うん。大丈夫。小さい国とはいえ一国の王女だからこういう日が来るのは分かってたし、それに、マコトさんなら安心だとも思ってたし」
「今回の話はこれの為か?」
「ああそうだ。単純に飲みながら話がしたかったってのもあるがな。メリルの事、頼んだぞ」
そのまま引くに引けなくなった格好でメリルを預かることになったのだ。
「姉上、おめでとうございます」
「閣下、おめでとうございます」
「大将、こんな幼な妻娶るなんて羨ましい限りだねぇ」
アレックスやディオール、それにお虎が2人を祝福してくれている。
それに加えて、もちろんあの男もいた。
「あ、お父様!」
「おお! メリル! 綺麗な姿だな。母さんにも見せたかったな」
「一応はカーマインさんは義理とはいえ俺の父親って事で良いのか? 年齢からしてずいぶんと奇妙な話になるけど」
「ハハハ! かしこまらなくていいぞ。俺もお前みたいなオッサンに父親呼ばわりされると調子が狂うからな!」
カーマインはマコトの肩をバンバンと叩きながらオッサン呼ばわりする。もしかしたら彼の方がマコトより年下なのかもしれない。
「あ、そうそう。この式が終わったらアレックスも連れてってくれ。お前の下で国家運営のいろはを教えてやってくれ。一応こっちでも教えてはいるが見聞を広めるってやつだ。頼むわ」
「アンタの子供を2人とも預かるわけか、責任重大だな」
「そう固くならなくてもいいって! どっちも最低限の事は教えてるから心配するなよなぁ!」
再びマコトの肩をバンバンと叩く。彼は見た目通り大分豪快で細かい事を気にしない性格なのかもしれない。
披露宴は順調に進み、やがて夜が来た。そう。「新婚初夜」だ。
「初夜は無くても良いですって!?」
「ああ。お前みたいな子供に無理強いする程腐ってはねぇ」
「私、大人だもん。12歳なんだから大人よ」
「12? たったの12か? 俺の3分の1も生きてないじゃないか。十分過ぎるくらい子供だ」
「もう! 子供扱いしないで! 大丈夫、出来るもん! 大丈夫だから……その……本当に……大丈夫……だから……」
初めて会った頃の弓腰姫のような勇ましさはどこへやら。半泣きの顔をされて相手をしてくれと言われたらもう引くに引けない。
「分かった分かった。相手するから泣くのはよしてくれ」
「遠慮とかいらないからね。ちゃんと知ってるから」
◇◇◇
「お早う。あなた」
「言っとくが俺はロリコンじゃないからな」
翌朝、ニコリと笑うメリルに対してマコトは意気消沈していた。
12歳と言えば良くて中学1年生、下手すればランドセルを背負っているかもしれない年齢だ。
37歳の男が12歳少女とわいせつ行為、となると日本じゃ間違いなく警察がカッ飛んでくる事案だ。
そんな子供相手でも「こなせる」事に男のサガの罪深さを噛みしめていた。
【次回予告】
「何者かに操られたようだった」
アレンシア国に下った魔物や獣人たちは口々に述べた。
その理由を探るべく、賢人との謁見を試みる。
第38話「謎の魔導器具と賢人ハクタク」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる