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つかの間の休息
第38話 謎の魔導器具と賢人ハクタク
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結婚してからというもの、ハシバ国の城内にタンス等の嫁入り道具を運ぶビルスト国の者たちが行き交う事もあったがそれも落ち着き、マコトにとってようやく平和なひと時が訪れた。
メリルは鎧を脱いで剣や弓も外し、豪奢な飾りこそないシンプルなデザインで、大して希少でもないありふれた素材で出来ているが、仕立ての良さを感じさせるドレスを着てマコトの城に住むこととなった。
ついでにアレックスも父親から「将来国を統治するものとしてマコトの働きぶりを見てこい」と言われ、ハシバ国でマコトの臣下に入り研修を受ける身となった。
「残る謎はコイツだな」
城に立てこもった豚王を捜索していた際に見つけた、荷車に載せられていた謎の魔導器具。
神霊石をはめ込んで動力源として使うこと以外は良く分からない代物だ。
「ディオール、この機械が何か分かるか?」
「うーむ……正直、魔導器具は専門外なので私にも詳しい事は分かりませんなぁ。ただ……」
「ただ? 何かあるのか?」
「賢人であるハクタクの一族が治めるペク国の王なら何か分かるかもしれませんな」
「そうか。ちょっと見てもらえるように連絡取ってくれないか?」
「かしこまりました」
この世界において国を治める王は地球から召喚された者に限らない。
地球からの召喚が始まる前は由緒ある血筋の者だったり栄えている商家、あるいは武力でのし上がった者たちが国を治めていた。
ペク国も古くから賢人と名高いハクタクという神獣(と言っても人にかなり近い姿だそうだが)の一族が治めている国である。
数日後、何通かの手紙でやり取りをして話はまとまって、謎の魔導器具を見せに行くことにした。
ランカ領を抜けて西大陸を南北に分断する山脈の近くにある国、ペク国へ3時間かけてたどり着いた。
「ずいぶん東洋風な国だな」
「この辺りは最近まで交通の便が悪くて、そのおかげで独自の文化が今も根強く残っているところだと聞いています」
「へぇ。何か故郷の日本ぽくて親近感わくなぁ」
文化の違いに驚きつつもマコトはペク国の城の前までたどり着く。
「我々はハシバ国より来た使節団だ。王とお会いしたい」
「マコト様ですね? 話は聞いております。老師様の元へご案内いたしますね」
そう言って衛兵は来訪者たちを城の中へと案内していく。
玉座には老師と呼ばれたハクタクの王がいた。人間の老人に似た姿をしており、禿げ上がった頭とは対照的に地面に届くほど長く伸びたアゴひげというさまで、中国の伝記に出てくる仙人そのものと言える姿だった。
「一国の王御自らこのような辺地にお越しいただくとは光栄です」
「いえいえこちらこそ、賢人と名高い老師殿にお会いできて。此度は貴方にお見せしたいものがございまして訪問させていただきました」
そう言ってマコト達はここまで運んできた荷物を見せる。老師はそれの周りを回りながら観察する。
「ふむ。ほう。なるほどのぉ」
しばらくして、その正体が分かったのかマコト達に教える。
「これはワシらハクタクの先祖が「渇き」を何とかして操ろうと作った洗脳装置の模倣品じゃな。神霊石を動力源とするように改良した様じゃな」
「洗脳装置か。魔物や獣人を洗脳して配下にしていたってのならつじつまが合うな」
ビルスト国の王や配下が降伏したのも獣人の血が濃くて魔物に近かった者が洗脳されたからだろう。
「老師殿、それとお言葉ですが「渇き」とは何でしょうか? 干ばつでも起こったんですか?」
聞きられない言葉を聞いてマコトは問う。
「「渇き」とは、万物を産み、育み、成長をつかさどる万色の神とは対になる存在じゃ。生命を奪い死をもたらす存在、あるいは死そのものとも言える。
「渇き」はただそこに存在するだけで周りから水を干上がらせ、飢えと渇きで世界を覆い尽くす化け物じゃ。
結局操ることは出来ずにワシらのご先祖様たちがエルフと協力して何とか次元の狭間に封じ込めたのじゃ。
おぬしら人間がようやく農耕を始めた頃じゃからはるか昔の話じゃ。人間側の言い伝えには残っておらぬじゃろうて」
「「渇き」か。そう言えば夢の中で2度目に会った時に彼女が言ってたな」
「む? 夢の中じゃと? それも、2度とな?」
「ええ、夢の中に虹色のドラゴンが出てきて『死の力が増すほど「渇き」への封印の力は弱くなる』などと言ってたんです」
「な、なんじゃと!? お主万色の神に会ったというのか!?」
老師は目をくわと開き大いに驚いた。その変貌ぶりに周りの者誰もがただ事ではないというのを肌で感じる。
「ちょ、ちょっと待ってください老師殿。そんなにすごい事なんですか?」
「凄い凄くないとかいう次元ではないぞ! 万色の神と直々に出会うとはとてつもなく名誉な事なんじゃぞ!? しかも2回も会うとは! そんなの、そんなのただ事ではないぞ!!」
彼らしくもなく早口言葉でまくしたてる。その姿にマコトはもちろん、ペク国の衛兵たちも戸惑いを隠せない。
「老師様、落ち着いてください!」
「老師様! お気を確かに!」
「ハァ、ハァ……あ、ああ。すまんのぉ。興奮してしまってつい」
周りの者になだめられて息は荒いものの老師はようやく我に返った。
「ふぅ。年寄りには心臓に悪い話じゃわい。ところで万色の神は他には何か申しておられましたかな?」
「確か、ヴェルガノン帝国が何か恐ろしい事をしようとしているとか言ってました」
「フム、ヴェルガノン帝国か。西大陸北部の国にそんなものがあったかもしれんが詳しい情報は知らんのぉ。まぁ今後調べさせるつもりじゃ」
「分かりました。お願いいたします。それともうそろそろ帰らないといけませんので特になければ今回はこの辺で失礼させていただきたいのですが」
「ちょっと待て。連れて行ってほしい者がおる。君、麗娘を呼んでくれんかの?」
「れ、麗娘様をですか? 分かりました。お呼びいたします」
そんなやり取りがあってしばらくして、老師と同じハクタクの若い娘がやってきた。
「ワシの孫娘の麗娘じゃ。外交官としてそなたの国に派遣しようと思う。構わんじゃろ?」
「外交官ですか。私としては構いませんけど」
「うん良かった。麗娘、頼んだぞ」
「初めまして、マコト様。おじい様からのご紹介にもありましたが、これからは外交官として働かせてもらいます。よろしくお願いします」
彼女はぺこりと頭を下げた。
新たな仲間を得たマコト一行が帰った後、衛兵が老師に声をかける。
「老師様。お言葉ですが彼の国はそれなりに大きいとはいえ外交官として麗娘様を派遣するほどでは無いとは思いますが」
「星の動きが確かなら彼は何か大きなことをする事となる。それが一体何なのか、見届けたいのじゃよ。現に万色の神に2度も会ったというのなら、何かあるはずじゃ。ただ事では無い何かが、な」
【次回予告】
久しぶりに配下を召喚するマコト。出てきたのは殺気だった少年。
軍に入れろと要求する彼の心のうちは……?
第39話「少年」
メリルは鎧を脱いで剣や弓も外し、豪奢な飾りこそないシンプルなデザインで、大して希少でもないありふれた素材で出来ているが、仕立ての良さを感じさせるドレスを着てマコトの城に住むこととなった。
ついでにアレックスも父親から「将来国を統治するものとしてマコトの働きぶりを見てこい」と言われ、ハシバ国でマコトの臣下に入り研修を受ける身となった。
「残る謎はコイツだな」
城に立てこもった豚王を捜索していた際に見つけた、荷車に載せられていた謎の魔導器具。
神霊石をはめ込んで動力源として使うこと以外は良く分からない代物だ。
「ディオール、この機械が何か分かるか?」
「うーむ……正直、魔導器具は専門外なので私にも詳しい事は分かりませんなぁ。ただ……」
「ただ? 何かあるのか?」
「賢人であるハクタクの一族が治めるペク国の王なら何か分かるかもしれませんな」
「そうか。ちょっと見てもらえるように連絡取ってくれないか?」
「かしこまりました」
この世界において国を治める王は地球から召喚された者に限らない。
地球からの召喚が始まる前は由緒ある血筋の者だったり栄えている商家、あるいは武力でのし上がった者たちが国を治めていた。
ペク国も古くから賢人と名高いハクタクという神獣(と言っても人にかなり近い姿だそうだが)の一族が治めている国である。
数日後、何通かの手紙でやり取りをして話はまとまって、謎の魔導器具を見せに行くことにした。
ランカ領を抜けて西大陸を南北に分断する山脈の近くにある国、ペク国へ3時間かけてたどり着いた。
「ずいぶん東洋風な国だな」
「この辺りは最近まで交通の便が悪くて、そのおかげで独自の文化が今も根強く残っているところだと聞いています」
「へぇ。何か故郷の日本ぽくて親近感わくなぁ」
文化の違いに驚きつつもマコトはペク国の城の前までたどり着く。
「我々はハシバ国より来た使節団だ。王とお会いしたい」
「マコト様ですね? 話は聞いております。老師様の元へご案内いたしますね」
そう言って衛兵は来訪者たちを城の中へと案内していく。
玉座には老師と呼ばれたハクタクの王がいた。人間の老人に似た姿をしており、禿げ上がった頭とは対照的に地面に届くほど長く伸びたアゴひげというさまで、中国の伝記に出てくる仙人そのものと言える姿だった。
「一国の王御自らこのような辺地にお越しいただくとは光栄です」
「いえいえこちらこそ、賢人と名高い老師殿にお会いできて。此度は貴方にお見せしたいものがございまして訪問させていただきました」
そう言ってマコト達はここまで運んできた荷物を見せる。老師はそれの周りを回りながら観察する。
「ふむ。ほう。なるほどのぉ」
しばらくして、その正体が分かったのかマコト達に教える。
「これはワシらハクタクの先祖が「渇き」を何とかして操ろうと作った洗脳装置の模倣品じゃな。神霊石を動力源とするように改良した様じゃな」
「洗脳装置か。魔物や獣人を洗脳して配下にしていたってのならつじつまが合うな」
ビルスト国の王や配下が降伏したのも獣人の血が濃くて魔物に近かった者が洗脳されたからだろう。
「老師殿、それとお言葉ですが「渇き」とは何でしょうか? 干ばつでも起こったんですか?」
聞きられない言葉を聞いてマコトは問う。
「「渇き」とは、万物を産み、育み、成長をつかさどる万色の神とは対になる存在じゃ。生命を奪い死をもたらす存在、あるいは死そのものとも言える。
「渇き」はただそこに存在するだけで周りから水を干上がらせ、飢えと渇きで世界を覆い尽くす化け物じゃ。
結局操ることは出来ずにワシらのご先祖様たちがエルフと協力して何とか次元の狭間に封じ込めたのじゃ。
おぬしら人間がようやく農耕を始めた頃じゃからはるか昔の話じゃ。人間側の言い伝えには残っておらぬじゃろうて」
「「渇き」か。そう言えば夢の中で2度目に会った時に彼女が言ってたな」
「む? 夢の中じゃと? それも、2度とな?」
「ええ、夢の中に虹色のドラゴンが出てきて『死の力が増すほど「渇き」への封印の力は弱くなる』などと言ってたんです」
「な、なんじゃと!? お主万色の神に会ったというのか!?」
老師は目をくわと開き大いに驚いた。その変貌ぶりに周りの者誰もがただ事ではないというのを肌で感じる。
「ちょ、ちょっと待ってください老師殿。そんなにすごい事なんですか?」
「凄い凄くないとかいう次元ではないぞ! 万色の神と直々に出会うとはとてつもなく名誉な事なんじゃぞ!? しかも2回も会うとは! そんなの、そんなのただ事ではないぞ!!」
彼らしくもなく早口言葉でまくしたてる。その姿にマコトはもちろん、ペク国の衛兵たちも戸惑いを隠せない。
「老師様、落ち着いてください!」
「老師様! お気を確かに!」
「ハァ、ハァ……あ、ああ。すまんのぉ。興奮してしまってつい」
周りの者になだめられて息は荒いものの老師はようやく我に返った。
「ふぅ。年寄りには心臓に悪い話じゃわい。ところで万色の神は他には何か申しておられましたかな?」
「確か、ヴェルガノン帝国が何か恐ろしい事をしようとしているとか言ってました」
「フム、ヴェルガノン帝国か。西大陸北部の国にそんなものがあったかもしれんが詳しい情報は知らんのぉ。まぁ今後調べさせるつもりじゃ」
「分かりました。お願いいたします。それともうそろそろ帰らないといけませんので特になければ今回はこの辺で失礼させていただきたいのですが」
「ちょっと待て。連れて行ってほしい者がおる。君、麗娘を呼んでくれんかの?」
「れ、麗娘様をですか? 分かりました。お呼びいたします」
そんなやり取りがあってしばらくして、老師と同じハクタクの若い娘がやってきた。
「ワシの孫娘の麗娘じゃ。外交官としてそなたの国に派遣しようと思う。構わんじゃろ?」
「外交官ですか。私としては構いませんけど」
「うん良かった。麗娘、頼んだぞ」
「初めまして、マコト様。おじい様からのご紹介にもありましたが、これからは外交官として働かせてもらいます。よろしくお願いします」
彼女はぺこりと頭を下げた。
新たな仲間を得たマコト一行が帰った後、衛兵が老師に声をかける。
「老師様。お言葉ですが彼の国はそれなりに大きいとはいえ外交官として麗娘様を派遣するほどでは無いとは思いますが」
「星の動きが確かなら彼は何か大きなことをする事となる。それが一体何なのか、見届けたいのじゃよ。現に万色の神に2度も会ったというのなら、何かあるはずじゃ。ただ事では無い何かが、な」
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第39話「少年」
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