人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
39 / 127
つかの間の休息

第39話 少年

しおりを挟む
 まだまだ暑い日が続く中、彼らもそれに負けない位熱くなっていた、というよりは「お熱」になっていた、とでも言えばいいだろうか。

「れ、麗娘レイニャンさん、これ、あげます!」

 農民の男は自生している花で作った花束を渡す。
 ペク国より麗娘が来てからというものハシバ国の男どもは落ち着かない。
 というのも、彼女の胸はかなり豊満なものだからだ。

 大抵の場合、男というのは大人も子供も「でかい=すごい」という方程式が成り立つ。(もちろん例外もあるが)
 だから現代地球の男の子たちは自分たちよりもはるかに大きい、はたらくクルマや電車に飛行機、恐竜そして宇宙あたりは大好物だ。
 それは女性の胸の大きさに関しても当てはまる。「でかい=すごい」のだ。

 この「でかい=すごい」という男の単純な思考の前にいらだっているのは女性、特に既婚者だ。
 夫が巨乳につられないかと不安と怒りと嫉妬が混じり合った感情を抱いている。
 「やきもち焼いて」なんていう生ぬるい言い方ではとてもじゃないが済まない。

「あなたは胸ごときに釣られないよね?」
「お前は将来性があるからそれに賭けてる。信じてくれよなぁ、お前何度言わせるんだよ」

 新婚であるメリルも例外ではなくマコトに対して何重にも釘を刺している。何度言われたのかもう分からない。

「ところで何で神霊石なんて持ち出してるの?」
「配下を召喚するためさ。久しぶりにな」



 マコトは久しぶりに召喚の間へと降りる。
 神霊石を魔法陣の中心に置き、石の力を開放し召喚の儀を行った。魔法陣が「緑」に輝いた。
 少しだけ期待したマコトの目の前に現れたのは9~10歳程度の赤色の瞳だが目つきのキツイ、まともにクシでとかしてもいないボサボサの茶髪をした、殺気だった人間の少年だった。

「アンタがチキュウとかいう異世界からやってきた王か?」
「そうだが、お前の望みは何だ?」
「俺をアンタの軍隊に入れる事」
「なぜだ?」

 カネが欲しいとかならともかく、軍隊に入れることを要求した少年。それに何かわけがあると思い、問う。

「ヴェルガノン帝国って知ってるか?」
「ヴェルガノン帝国? あのヴェルガノン帝国か?」
「知ってるなら話は早い。そいつが飼ってる豚野郎に孤児院の先生と仲間全員を殺されたんだ。敵討ちをするのに強くなりたい。だから俺を軍隊に入れてくれ」
「そうか。ちょっと待て。孤児院の先生と仲間を殺されたって言ったな? って事はお前今野宿でもしてるのか?」
「盗みもやってる」
「……」

 こんな幼い子供を軍隊に入れるのは気が引けた。だが、このまま盗みで食いつなぐ生活をさせるのは、もっと嫌だった。

「分かった。お前の願いを叶えてやる。軍隊に入れるから盗みとかはもうやらないでくれ。いいな?」
「ああ。俺はクルス。アンタが俺の願いを叶えてくれるってんなら、俺もアンタの言う事を聞いてやる」

 彼の胸から緑の光の球が出て、スマホの中に入った。



 マコトはディオールに訳を話してお願いしていた。

「というわけだ。コイツに剣の稽古をつけてやってくれ」
「うーむ、私の剣は誰かを守るために使わないといけない剣です。最初から殺しのために教えるのは気が引けますな」
「何だテメェ約束を破るつもりか?」

 不穏な空気が漂う。そんな中非番のウラカンがもめているマコト達を見て声をかけた。

「閣下、何ですこのガキは?」
「あ、ああ。コイツは……」


◇◇◇


「というわけだ」
「そうか。だったら俺が預かってもいいか?」
「構わんがいいのか? コイツの目的は殺しだぞ?」
「ハハッ、殺った殺られたなんて今のご時世じゃ良くある話だ。それが目的でもいいんじゃねのか? んじゃ坊主。明日から俺の指揮下に入ってくれよな」
「坊主じゃねえ! クルスだ!」
「オーケーオーケーわかった、クルスな。明日から訓練だぞ」



クルスの日記
アケリア歴1238年 8月19日

 マコトとか言うチキュウって言うらしい異世界から来た王に召喚され、配下になる。軍隊に入れろという要求も叶って明日から訓練が始まるそうだ。
 この国は西大陸南部らしいのでヴェルガノン帝国とぶつかることは当分の間無いだろうが、
 いざという時は軍隊辞めて傭兵にでもなって大陸北部にでも行けばいいか。



翌朝



 真新しいバトルアックスを貰い上機嫌のクルスに強烈な訓練シゴキが待っていた。

「よーし! まずは万色の神への感謝の素振り100回! 始め!」
「1!」
「2!」
「3!」


◇◇◇


「98!」
「99!」
「100!」


「ハァ……ハァ……終わった」

 クルスが一息つこうとした時、ウラカンが叫ぶ。

「よーし! 次は我らが王への感謝の素振り100回! 始め! モタモタするな!」
「ええっ!? ちょっとま……」
「1!」
「2!」
「3!」


◇◇◇


「98!」
「99!」
「100!」

「ぜぇ……ぜぇ……」

 新入りが肩で息をしているのを全く気にせず、ウラカンは叫ぶ。

「よーし! 次は我らが王妃への感謝の素振り100回! 始め!」
「う、ウソだろ!?」
「1!」
「2!」
「3! もたつくな! ついてこい!」


◇◇◇


「98!」
「99!」
「100!」

「ハァ……ハァ……」

 少年は地面に転がってもう動けないと身体で表現しているようなありさまだ。

「よし! 素振りはこの辺にしよう。続いて集団行動の訓練だ! 休んでる暇はないぞ! 全員集合!」
「マジかよ。休みなしかよ!」
「集合するまでが遅い! 実戦じゃ貴様ら死んでるぞ! もう一回最初からやり直しだ!」
「ひ、ひぃい!」
「チンタラ動くな! やる気見せろ! もっとキビキビと動け! もう一回だ!」


◇◇◇


「どうだぁ? 憧れの軍隊生活は」
「……」

 あまりにも疲れすぎて声すらまともに出ない。

「明日もあるんだ。早く寝ることだな」
「……」

 彼は黙ったまま力なくこくりとうなずいた。



クルスの日記
後アケリア歴1238年 8月20日

 訓練が始まったが書くのもしんどい。今日はもう寝る。



【次回予告】
「あの子は放っておくと何するか分からないから心配だ」とメリルは訴える。
それを解決できるアイディアとは?

第40話「クルス、養子になる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...