人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
40 / 127
つかの間の休息

第40話 クルス、養子になる

しおりを挟む
「んぐっ……んぐっ……ぷはぁ!」

 メリルは自作の豆乳を飲んでいた。最近になって朝昼晩の3回、コップ一杯分のむようにしている。
 マコトから聞いた話ではマメ類、主に大豆に含まれる成分には、胸を大きくする「女性ホルモン」に似た働きがあると言われている。
 地球においては豆乳を日常的に飲んでいた女性の胸がAからDへとサイズアップしたという話や、豆乳を水のようにがぶ飲みしていた「男性」が巨乳になったという珍事まで報告されているという。

「いつか麗娘《アイツ》の事を見返してやるんだから」

 メリルはふつふつと闘志を燃やしていた。



 それからしばらくして、家事もひと段落して時間が出来たので気晴らしも兼ねて視察することにした。
 開けた土地で訓練をしているミノタウロスたちの所へとやってきた。

「あれ!? メリル様! どうなされましたか? 視察ですかい?」
「うん。そんなとこ。様子を見させてもらっても良い?」
「もちろん構いませんよ。オイ、テメエラ! 王妃様が視察にやって来たぞ! 気合入れろ!」

 ウラカンが大声を上げて部下たちに闘魂を注入する。メリルの視線は入隊してから数日が経ち、少しは軍隊生活に慣れた一人の少年に注がれていた。



「あなた。その、話したいことがあるの」

 夕食を終え、2人きりの時間になってメリルが夫に話を切り出した。いつになく真剣なメリルの表情を見てマコトは重大な話だろうと思い、聞く。

「その、あなたが良いって言うのなら養子を迎え入れようかなって思ってる」
「養子だと?」

 意外な言葉が出てきた。

「うん。ほら、こんな世の中じゃない。だから一応は家が絶えないようにしておかないといけないから。もちろん私たちの子供も産むけど、念のためにね。それに」
「それに?」
「それに、あの子は見ていて危なっかしい所があって、目に見えるところに置いておかないと何しでかすか分からない所があるの。あなた、お願い」
「うーむ。そこまで言うのなら会って話しても良いぞ。明日の昼ごろ時間を作るからその時に話し合おうか」



 翌日



「クルス、閣下とメリル様がお呼びです。城まで来るようにとの事です」
「ええっ? あのオッサンと王妃様が?」

 何をしでかしてしまったんだろう。俺は何も悪いことなんてやってないはず。不安に思いながらも彼は城へと向かう。
 たどり着くと王の間でマコトとメリルが待っていた。

「メリル様、今参りました。その、いったいどのようなご用件でしょうか? 言っときますけど俺、悪い事なんてしてないですよ」
「うん大丈夫。叱るために来てほしかったわけじゃないから」

 メリルがやさしく接する。それを見て彼は少しだけ身体の緊張がほぐれる。

「いきなりなんだけど、あなた私たちの子供になってみない?」
「はい!?」

 あまりにも突拍子もない事を言われて大いに戸惑う。

「うん。そう思うのは分かる。いきなり誰かの子供になれ、なんて言ったって戸惑うとは思うわ。でも私はあなたの事を養子にしたいの。すぐには結論は出ないと思うけど考えておいて」
「俺もお前の事を養子にしようとは思ってる。まぁ今すぐってわけじゃあねえけど考えておいてくれ」
「メリル様が俺の母さんになるって事か? って事は俺、王子になっちまうのか?」
「そんなとこだな。一応王としての教育もあるからその辺はしっかりやってくれ。
 まぁ当分の間玉座には俺がいるから勉強期間はしっかりとれるから大丈夫だとは思うがな」
「……」

 クルスはしばらくの間黙った後

「わかったよ。あんたたちの子供になる。それでいいか?」
「そう。良かった。ありがとうね、クルス」
「よし、じゃあこれからよろしくな、クルス」

 この日、養子とはいえこの国に後継者が生まれた瞬間だった。


翌朝


 キッチンにいくと既にメリルが朝食を調理しており、マコトが椅子に座っていた。

「おはよう。クルス」
「おはよう。そ、その……母さん、でいいのかな?」
「おはよう。クルス。ま、その、これから仲よくしていこうぜ」
「分かったよ、オヤジ」
「メリルに対しては母さんなのに俺にはオヤジなんだな、まあいいけどさ」
「ウルセーな文句あんのかよオヤジ」
「ハハッ、お前くらいの子供はそれくらい跳ね返りが強い方がいいけどな」

 親子3人、朝の顔合わせをした後朝食をとることにした。
 マコトとメリル2人だけの時よりもちょっと賑やかな朝食を。



クルスの日記
後アケリア歴1238年 8月27日

 とんでもないことになった。
 養子とはいえ、俺は一国の王子となってしまった。ずいぶんとまぁ出世したものだ。

 にしても父親は良いとして、義理とはいえ母親が俺と2~3歳ぐらいしか違わないって言うのは本当に奇妙な話だ。
 王族とやらはその辺に対して違和感を抱かないのだろうか?
 お偉いさんの考えてる事は分かんねえ。



【次回予告】
酒好きのドワーフたるもの酒場を建てて1人前! と言わんばかりに勝手に酒場を建ててしまった。
第41話「酒場が出来た」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...