59 / 127
富国強兵
第59話 エルフのように執念深い
しおりを挟む
秋になり収穫の時を迎えたある日、マコトは荷物をもってダークエルフが住む森の中へと入っていった。荷物の中身は麦、あるいはノリやコンブといった海藻という森で過ごすものにとっては手に入りにくいものだ。
マコトは不定期だがこういった「贈り物」をして何とか心を開かせようとしているが……
「またお前か、懲りない奴だな。くれるというのならもらおう。だが貴様ら人間の話を聞く理由にはならんぞ」
「おじいさま、いい加減考えを改める気はないのですか?」
「フン、どうだか。人間はすぐに嘘をつく。酷い時には息子の代に代わった瞬間に迫害が始まったこともあった。ほんの20年だぞ。人間という生き物はほんの20年の約束すら守れん奴らだというのは今までの経験からよーく分かってる」
「俺達は違いますって!」
「「他の奴らとは違う」か。ワシと会った人間は全員そのセリフを吐いた。そして全員約束を違えた。口ではいくらでもキレイ事は言えるがどいつもこいつも皆同じだ。お前も何年持つことやら」
深いしわが刻まれた肌と白いあごひげ、そしてアメジストパープルの目をした老エルフの瞳が冷たく光る。それはマコトの言葉とエルフェンの説得、両方を拒絶していた。
「これキーファー、そんなに人間を拒絶するでない。めげずに贈り物を届け続けているではないか」
「システィアーノ様、貴女さまもご意見があるでしょうがこればっかりは譲れません」
「年寄りの上に魔術師……となると世界で最も頑固だとは言うが本当のようじゃの。まるで岩石じゃわい。すまんのマコト、わらわも日夜説得しているのだがまるでいう事を聞かぬでな」
その頑固さは敬愛するシスティアーノ相手ですら変わらない。
この世界には「エルフのように執念深い」という言い回しがある。過去に執着している者をけなす意味で使われる、寿命の違いという種族の壁が生み出した言葉だ。
例えば、「500年前の出来事」というと人間からすれば遥か彼方の遠い遠い過去の出来事であるが、およそ1000年生きるとされるエルフからすればその500年前の出来事を体験した本人がまだ生きている。なんてことはよくある話である。
伝聞だったとしても「親や親戚から聞いた話」という位、身近な体験談なのである。
エルフェンの部族にいる年長者7人も過去に何十回と人間が約束をたがえる経験をしてきたためか、人間に対しては心を固く閉ざしている。
人間やエルフはもちろん、あらゆる動植物は年をとればとるほど魔力と魔力制御能力は伸びる。高名な魔術師に年老いた者が多いのはそのためだし、霊獣や神木なんて存在もそれで産まれる。
もちろんエルフも年をとればとるほど、この二つの能力は伸びる。彼らを味方に付ければ大きな戦力になるだろう。
問題はどうやって冷え切った心を動かすかだが、マコトは温めていたアイディアについて妻とエルフェンと話をしていた。
「「ええ!? クリームシチュー!?」」
メリルとエルフェン、両者が驚きの声を上げる。
「エルフは乳は駄目なんじゃ?」
「安心しろ。俺の故郷では理論上ではエルフでも食える乳というのがある。うろ覚えだが作り方も知ってる。やってみよう」
こうして「特別な」クリームシチューの製作に取り掛かる。
「へー、なんだ。エルフでも食べられる乳って言うから何だと思ったけどただの豆乳ね。それなら作り方は分かるわ。任せておいて」
「味見に関しては私たちが協力いたしましょう。何なりとお申し付けください」
大豆に水を吸わせてすり潰して煮詰め、こすと獣の乳と似たものが取れる。いわゆる豆乳だ。「特別な」クリームシチューは乳の代わりに豆乳を材料に作っている。具材も野菜やキノコなど植物性のものに限定し、エルフでも食べられるシチューに仕上がる予定である。
メリルに豆乳を作ってもらい、エルフェン達をはじめとするマコトに対して好意的な者たちを味方につけて試食を繰り返し、エルフの味覚に合う料理に調整していく。
親睦会当日。大なべ1杯のクリームシチューが会場に運ばれてきた。
「フン。親睦会の料理にクリームシチューなんて馬鹿げてる。ワシ等が乳を飲めんというのは知っているだろうに。嫌がらせかね?」
相変わらず年長者たちは頑固だ。あからさまに拒否感を抱く彼にひ孫のエルルが声をかける。
「じーじー。このシチュー変なの。乳の臭いが全然しない」
「? 何?」
「じーじもたべないの? おいしいよ?」
「おじい様、騙されたと思って食べてみてください。後悔はしませんから」
孫とひ孫に言われるがまま、彼はシチューに口をつける。
「ヌウウ……!」
美味い。認めたくはないが、美味い。それだけは確かだ。
「……不味くはないが、もう一杯よこせ」
「おじい様ったら相変わらず頑固者ですねぇ」
「キーファー、変に意地を張っても良いことないぞ? 美味いのなら素直に美味いと言え」
「……フン」
その日、キーファーは3杯のクリームシチューを食べたが孫のエルフェンと尊敬するシスティアーノにも意地を張って決して美味いとは言わなかった。
翌日、エルフェンがマコトの元を訪れた。
「マコト様、昨夜は素敵な贈り物を送って頂きありがとうございます」
「そうか、気に入ってくれて何よりだ。レシピも渡したから今度は自分でも作ってみるといい。それと他のダークエルフ、特にキーファーはどうなんだ?」
「おじい様は相変わらず人間に対してあまり良い印象は持ってはなさそうです。ですが以前に比べれば多少はマシになっているかとは思いますね。それ以外の者たちはおおむね好意的に見てくれているようです」
「そうか。分かった、報告ありがとうな」
キーファーの頑固ぶりは変わらないが周りの者に影響があれば少しは変わってくれるだろう。
とりあえず1歩前進。といったところか。
【次回予告】
マコトの国、ハシバ国は順調に人口が増えていた。
それゆえに起こる問題をこの世界ならではの解決策があった。
第60話 「スライム型汚物処理施設」
マコトは不定期だがこういった「贈り物」をして何とか心を開かせようとしているが……
「またお前か、懲りない奴だな。くれるというのならもらおう。だが貴様ら人間の話を聞く理由にはならんぞ」
「おじいさま、いい加減考えを改める気はないのですか?」
「フン、どうだか。人間はすぐに嘘をつく。酷い時には息子の代に代わった瞬間に迫害が始まったこともあった。ほんの20年だぞ。人間という生き物はほんの20年の約束すら守れん奴らだというのは今までの経験からよーく分かってる」
「俺達は違いますって!」
「「他の奴らとは違う」か。ワシと会った人間は全員そのセリフを吐いた。そして全員約束を違えた。口ではいくらでもキレイ事は言えるがどいつもこいつも皆同じだ。お前も何年持つことやら」
深いしわが刻まれた肌と白いあごひげ、そしてアメジストパープルの目をした老エルフの瞳が冷たく光る。それはマコトの言葉とエルフェンの説得、両方を拒絶していた。
「これキーファー、そんなに人間を拒絶するでない。めげずに贈り物を届け続けているではないか」
「システィアーノ様、貴女さまもご意見があるでしょうがこればっかりは譲れません」
「年寄りの上に魔術師……となると世界で最も頑固だとは言うが本当のようじゃの。まるで岩石じゃわい。すまんのマコト、わらわも日夜説得しているのだがまるでいう事を聞かぬでな」
その頑固さは敬愛するシスティアーノ相手ですら変わらない。
この世界には「エルフのように執念深い」という言い回しがある。過去に執着している者をけなす意味で使われる、寿命の違いという種族の壁が生み出した言葉だ。
例えば、「500年前の出来事」というと人間からすれば遥か彼方の遠い遠い過去の出来事であるが、およそ1000年生きるとされるエルフからすればその500年前の出来事を体験した本人がまだ生きている。なんてことはよくある話である。
伝聞だったとしても「親や親戚から聞いた話」という位、身近な体験談なのである。
エルフェンの部族にいる年長者7人も過去に何十回と人間が約束をたがえる経験をしてきたためか、人間に対しては心を固く閉ざしている。
人間やエルフはもちろん、あらゆる動植物は年をとればとるほど魔力と魔力制御能力は伸びる。高名な魔術師に年老いた者が多いのはそのためだし、霊獣や神木なんて存在もそれで産まれる。
もちろんエルフも年をとればとるほど、この二つの能力は伸びる。彼らを味方に付ければ大きな戦力になるだろう。
問題はどうやって冷え切った心を動かすかだが、マコトは温めていたアイディアについて妻とエルフェンと話をしていた。
「「ええ!? クリームシチュー!?」」
メリルとエルフェン、両者が驚きの声を上げる。
「エルフは乳は駄目なんじゃ?」
「安心しろ。俺の故郷では理論上ではエルフでも食える乳というのがある。うろ覚えだが作り方も知ってる。やってみよう」
こうして「特別な」クリームシチューの製作に取り掛かる。
「へー、なんだ。エルフでも食べられる乳って言うから何だと思ったけどただの豆乳ね。それなら作り方は分かるわ。任せておいて」
「味見に関しては私たちが協力いたしましょう。何なりとお申し付けください」
大豆に水を吸わせてすり潰して煮詰め、こすと獣の乳と似たものが取れる。いわゆる豆乳だ。「特別な」クリームシチューは乳の代わりに豆乳を材料に作っている。具材も野菜やキノコなど植物性のものに限定し、エルフでも食べられるシチューに仕上がる予定である。
メリルに豆乳を作ってもらい、エルフェン達をはじめとするマコトに対して好意的な者たちを味方につけて試食を繰り返し、エルフの味覚に合う料理に調整していく。
親睦会当日。大なべ1杯のクリームシチューが会場に運ばれてきた。
「フン。親睦会の料理にクリームシチューなんて馬鹿げてる。ワシ等が乳を飲めんというのは知っているだろうに。嫌がらせかね?」
相変わらず年長者たちは頑固だ。あからさまに拒否感を抱く彼にひ孫のエルルが声をかける。
「じーじー。このシチュー変なの。乳の臭いが全然しない」
「? 何?」
「じーじもたべないの? おいしいよ?」
「おじい様、騙されたと思って食べてみてください。後悔はしませんから」
孫とひ孫に言われるがまま、彼はシチューに口をつける。
「ヌウウ……!」
美味い。認めたくはないが、美味い。それだけは確かだ。
「……不味くはないが、もう一杯よこせ」
「おじい様ったら相変わらず頑固者ですねぇ」
「キーファー、変に意地を張っても良いことないぞ? 美味いのなら素直に美味いと言え」
「……フン」
その日、キーファーは3杯のクリームシチューを食べたが孫のエルフェンと尊敬するシスティアーノにも意地を張って決して美味いとは言わなかった。
翌日、エルフェンがマコトの元を訪れた。
「マコト様、昨夜は素敵な贈り物を送って頂きありがとうございます」
「そうか、気に入ってくれて何よりだ。レシピも渡したから今度は自分でも作ってみるといい。それと他のダークエルフ、特にキーファーはどうなんだ?」
「おじい様は相変わらず人間に対してあまり良い印象は持ってはなさそうです。ですが以前に比べれば多少はマシになっているかとは思いますね。それ以外の者たちはおおむね好意的に見てくれているようです」
「そうか。分かった、報告ありがとうな」
キーファーの頑固ぶりは変わらないが周りの者に影響があれば少しは変わってくれるだろう。
とりあえず1歩前進。といったところか。
【次回予告】
マコトの国、ハシバ国は順調に人口が増えていた。
それゆえに起こる問題をこの世界ならではの解決策があった。
第60話 「スライム型汚物処理施設」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる