人魔共和国建国記

あがつま ゆい

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領土平定

第97話 魔導騎士団 壊滅

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 夏の到来を告げる慰民祭が終わってしばし、マコトは最後の詰めの作業に入っていた。

「ほとんどの国は降伏勧告を受け入れていますが、ストーレ国だけは最後まで抵抗するつもりだそうです。ここさえ叩けば西大陸南部の統一も現実的になるかと思われます」
「分かった。侵攻を開始するから準備してくれ」
「ハッ!」

 それから一ヶ月後。4200の軍勢を率いてマコトはストーレ国へと向かう。

「閣下。相手は魔導騎士団なる部隊を持っているそうですが、勝てますかね?」
「なぁに安心しろ。俺たちの圧勝で終わるだろうな」
「ずいぶんと自信がありますね」

 マコトは戦だというのに非常にリラックスした態度をとっていた。まるで自分たちの勝利を確信しているかのように。
 魔導騎士団……騎士と魔術師の2人乗り、あるいは両方を兼任する1名の騎馬隊で魔術師の火力と騎兵の機動力を併せ持つ平地においては最強の部隊……だそうだ。
 そんな部隊を相手にするというのにマコトの表情は緩かった。



「『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』か……我が魔導騎士団に対してずいぶんとまあ御大層な事をいうではないか。良いだろう。我らが英知を奴らに叩き込め。全軍前進!」

 自身も魔術師であるストーレ国王はそう言って配下に指示を出す。
 ストーレ国付近の平原で部隊と部隊が衝突する。だが……

「申し上げます……全滅です!」

 朝に交戦を開始して昼頃、ストーレ国王にそんなメッセージが届いた。

「ふむ、全滅か。マコトとか言ったか? 大したことなかったな。もう少し根性があると思ったんだが。ところで君はどうしてそんな恐怖におびえた顔をしているのかね?」
「ち、違います! 全滅したのは……全滅したのは我等が魔導騎士団です!」
「君、何ふざけた事を言ってるんだ? 魔導騎士団は無敵だ。敗れるわけがない」
「そ、それが、本当に全滅したんです! 自分も信じられませんが!」

 伝令兵からの「バカげた報告」を聞いて国王はいきどおる。

「信じられない、というわけですか。では行きましょう」

 兵は王を連れて戦場へと向かった。
 戦闘は中断されており、お互いの兵士たちは距離を置いてにらみ合っていた。

「バ、バカな! こんなことが!」

 驚がくの光景の前に彼の目はクワッと開かれた。
 戦場には魔導騎士団達の遺体がゴロゴロと転がっており、他の兵士の死体もすべてストーレ国の者でありハシバ国軍兵士の者はなかった。

「伝令! ハシバ国王マコト自ら閣下との交渉を望んでいるそうです! いかがなさいますか!?」
「何だと? 国王自らか? だから戦闘が中断されてたのか……う、ううむ。良いだろう、話をしよう」

 衛兵に守られながら、マコトはストーレ国王と交渉のテーブルに着く。



「それは……銃か?」
「ええそうです。もちろんその辺の銃とは違う我が国特別製でしてね、あなたたちが魔法を詠唱している間に我々は最低2発は銃弾を撃ち込めます。それも魔法の射程外から、です。
 その気になれば今すぐここであなたをハチの巣にすることも可能です」

 現代地球からもたらされた銃の技術は「現代地球で言う中世の文明に毛が生えた程度」の異世界文明にとっては絶望するしかないと言えるほど圧倒的な戦力差を産み出す。
 約100から150メートル先にいる人間の頭を楽々と撃ち抜ける銃の前では、敵の前までノコノコ歩いて一々呪文を詠唱する魔術師など敵ですら無い、ただの動く的だ。
 その一帯では最強と呼ばれた魔導騎士団たちは、マコトの銃の前に完膚かんぷなきまでに壊滅させられた。

「お前たちは他国を制圧こそすれ市民を奴隷化することは無いと聞いている。本当か?」
「本当です。加えて宗教の自由も認めています。ただ緊急時には徴兵いたしますし、平時でも税金は取りますがね。税額は本国と同じにしますのでその辺もご心配なく」
「わかった。国民を守ってくれるというのなら、我々はお前の元へ下ろう」

「ストーレ国がハシバ国に攻め込まれ滅亡しました」

 マコトのスマホには無機質なメッセージが書かれていた。



 現代銃の知識というのはこの世界においては文字通り既存の技術の何百年先を行く「超技術」の塊だ。

 例えばライフリング。
 銃弾を銃身内部に彫られた溝により回転させる事で弾道が安定し飛躍的に射程距離、命中精度を高める機構は銃の歴史からすれば浅い方で、アメリカからの王の登場までは誰も考えもつかなかった代物だ。

 例えば銃剣。
 既存の銃は弾丸の装填時間が長く、その間を攻撃される危険性が高かったが銃剣を装着することで槍のような使い方をして自力で身を守れるようになった。
 これにより護衛の為の槍兵を銃兵に転換し、弾の密度を上げて戦力強化が可能になった。

 例えばボルトアクション。
 地球の歴史においては登場時には連射速度の飛躍的進歩を促した革新的な機構であり、銃口から火薬や弾を込める先込めの銃とはけた違いの連射速度を実現し、既存の銃を過去の遺物にした。

 今のところ機械による加工技術は無く、また偏屈者が多いドワーフの職人たちが手作業にこだわって作っているため絶対数が足りない。
 だが、これらを組み合わせれば重たい鎧を着こんでいる兵士や馬に乗ってまっすぐ突っ込んでくる騎士なんぞ、ただの的にしかならない。
 その証拠に、騎兵の機動力と魔法の火力を併せ持つ魔導騎士団は銃の前に何もすることはできなかったのだ。



【次回予告】
数年ぶりに出会う1人と2匹。止まった時がまた動き始める。

第98話 「再会 1人と2匹」
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