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激闘 ヴェルガノン帝国
第124話 ヴリトラ
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「閣下。『渇き』……じゃないや、確か「ヴリトラ」とか言いましたっけ? そいつが夏に出現して以降、各地から水不足の訴えが届いています。それに、一部の水車が川の水位の低下で止まっている模様です」
ヴリトラが現れてから各地で異常な干ばつが続いている。ここ3ヵ月ほど1日も雨が降ってない。本格的に干からびる前に秋の収穫の時期を迎えられたのは不幸中の幸いだが、これがもし春の種まきの時期だったらと思うとぞっとする。
川や湖の水はまだ完全には干上がってこそいないがこのままではいずれ……。事態を重く見て本来酒の蒸留に使う装置を買い占めて改造し、それを24時間フル稼働させてで海水から真水を作って貯蔵しているがほんのちょこっとの延命措置にしかならないだろう。
「それにしても閣下。なぜ『渇き』という名称を使わずに「ヴリトラ」という名で呼ぶのですか?」
「相手の力を少しでも弱めるためさ。まぁほとんどゲン担ぎのようなものだがな」
名前とは、人類が持つ中で最古にして今でも強い力を持つ「呪い」である。マコトの息子、ケンイチという名前にも「健康第一で育ってほしい」という「願い」……言い換えれば「呪い」がある。
『渇き』という、何か得体のしれない恐ろしいもの。というイメージを「ヴリトラ」という既知のキャラクターに置き換えることで恐怖を紛らわせる。
マコトが『渇き』という言葉を使わずに「ヴリトラ」というインド神話の怪物から借りた名前を付けているのは言葉の呪いを有効活用した例だ。もちろん、実際には願掛け程度の効果しかないであろう、というのは承知の上だが。
「国民には悪いが今年の収穫祭は無しだ。今はヴリトラに関する西大陸全土の緊急事態で祭りどころの騒ぎじゃない。各地の収穫が終わり次第、ヴリトラ討伐を行う」
「は、はぁそうですか……正直国民からの反発は免れませんがよろしいんですか?」
「無理を強いてばかりですまない。だが終わったらいくらでもねぎらうから今は耐えてくれと頼み込んでくれ」
「……承知いたしました。やってみます」
報告のために来た兵士と入れ替わるように今度はシスティアーノがマコトの元へとやってくる。
「システィアーノさん、どのようなご用件で?」
「うむ。わらわも『渇き』……今では「ヴリトラ」とか言ったかの? そいつの討伐に助力しよう。何せ奴とは昔、1度戦ったことがある身での。
ちょっとヴァジュラを改造してわらわ用のスペースと機材を作りたいが構わんかえ?」
「え、ええ。構いませんよ」
「うむ。じゃあ早速作業を始めるとするかの。4日程時間が欲しいが、良いかの?」
「良いですよ。あと他のメンツへの連絡も忘れないでくださいよ」
「安心せい。その辺も抜かりはないぞ。ではな」
システィアーノは去って行った。今度はハーピーの偵察隊が報告のためにやってきた。
「閣下。ヴリトラの居場所が分かりました。西大陸を南北に分ける山脈の中腹に台地があるのですが、そこに1週間前から陣取っている模様です」
「1週間前、からか。ヴァジュラとヴァジュラヘッドが進めそうな道はあるか?」
「道中にはっきりとした獣道があります。特にトラブルが無ければ進めそうな幅はあると思います」
そういえば先週からこの辺りの干ばつの被害が急に増え始めている。水を干からびさせる能力を使っているのだろうか?
何年も前に初めてペク国を訪れた際に老師がヴリトラの事を「ただそこに存在するだけで周りから水を干上がらせ、飢えと渇きで世界を覆い尽くす化け物」だと言っていたのを思い出した。
それから数日、軍会議が行われていた。
「作戦名は、ヴリトラ殺し。ヴリトラのいる山脈中腹の台地に軍を展開、攻撃を仕掛ける。
攻撃の主軸はヴァジュラとヴァジュラヘッドによる砲撃で、歩兵は魔術兵や僧兵で構成し、防御魔法を展開してヴリトラのブレスに対抗するのが主な仕事だ」
「前回の戦いでは空を飛ばれて逃げられてしまいましたがその辺りの対策は何かあるのでしょうか?」
「システィアーノさんが対策を考えているそうだ。具体的には……」
「……なるほど。それなら大丈夫そうですね」
それから話し合うことしばし、軍会議は無事に終わった。時刻はもう夕方。マコトは家族のいる部屋へと帰ることにした。
「あなた……今度は巨大なドラゴンと戦うんでしょ? 無事に帰ってくるよね?」
「分からん」
「分からないじゃなくて約束してよ! 帰って来るって!」
「……」
マコトは幾多の戦場をかいくぐる中で数えきれない死を見つめてきた。
人間、死ぬときは実にあっけなく死ぬ。
ほんの数分前まで会話をしていた相手に何本もの矢が突き刺さり、血を大量に噴き出して地面に転がっている。なんていうのは戦場では日常の風景だ。それは総大将であるマコトにとっても例外ではない。
「努力はするさ。でも無理な時もあるかもしれない。帰ってくる確率を上げることはするが100%確実に帰ってくる保証は、すまないができない」
「出来ればこれで最後にしてほしいわねぇ。いくら乱世とはいえ戦争続きだもの」
「戦争ばっかりだったのはヴェルガノン帝国、そしてヴリトラ対策のためだ。このために戦い続けてきたんだ。終われば少しはみんなのために時間を注ぐことにするよ」
ここ数年は毎年戦争続きだった。それもこれも今は亡きヴェルガノン帝国、および彼らが復活させたヴリトラ対策のためだ。
正真正銘、今度こそ最後の戦争だ。これに勝てば西大陸、いや放置すれば全世界の脅威にもなりうる存在はいなくなる。
そうなれば今まで放置気味だった家族や、無理強いをしてきた国民たちに報いることもしよう。そう思いながら夕飯を囲むことにした。
【次回予告】
マコトが国家拡大にまい進したのも、軍備の拡大を図ったのも、全てはコイツを倒すためだ。
第125話 「ヴリトラ討伐戦」
ヴリトラが現れてから各地で異常な干ばつが続いている。ここ3ヵ月ほど1日も雨が降ってない。本格的に干からびる前に秋の収穫の時期を迎えられたのは不幸中の幸いだが、これがもし春の種まきの時期だったらと思うとぞっとする。
川や湖の水はまだ完全には干上がってこそいないがこのままではいずれ……。事態を重く見て本来酒の蒸留に使う装置を買い占めて改造し、それを24時間フル稼働させてで海水から真水を作って貯蔵しているがほんのちょこっとの延命措置にしかならないだろう。
「それにしても閣下。なぜ『渇き』という名称を使わずに「ヴリトラ」という名で呼ぶのですか?」
「相手の力を少しでも弱めるためさ。まぁほとんどゲン担ぎのようなものだがな」
名前とは、人類が持つ中で最古にして今でも強い力を持つ「呪い」である。マコトの息子、ケンイチという名前にも「健康第一で育ってほしい」という「願い」……言い換えれば「呪い」がある。
『渇き』という、何か得体のしれない恐ろしいもの。というイメージを「ヴリトラ」という既知のキャラクターに置き換えることで恐怖を紛らわせる。
マコトが『渇き』という言葉を使わずに「ヴリトラ」というインド神話の怪物から借りた名前を付けているのは言葉の呪いを有効活用した例だ。もちろん、実際には願掛け程度の効果しかないであろう、というのは承知の上だが。
「国民には悪いが今年の収穫祭は無しだ。今はヴリトラに関する西大陸全土の緊急事態で祭りどころの騒ぎじゃない。各地の収穫が終わり次第、ヴリトラ討伐を行う」
「は、はぁそうですか……正直国民からの反発は免れませんがよろしいんですか?」
「無理を強いてばかりですまない。だが終わったらいくらでもねぎらうから今は耐えてくれと頼み込んでくれ」
「……承知いたしました。やってみます」
報告のために来た兵士と入れ替わるように今度はシスティアーノがマコトの元へとやってくる。
「システィアーノさん、どのようなご用件で?」
「うむ。わらわも『渇き』……今では「ヴリトラ」とか言ったかの? そいつの討伐に助力しよう。何せ奴とは昔、1度戦ったことがある身での。
ちょっとヴァジュラを改造してわらわ用のスペースと機材を作りたいが構わんかえ?」
「え、ええ。構いませんよ」
「うむ。じゃあ早速作業を始めるとするかの。4日程時間が欲しいが、良いかの?」
「良いですよ。あと他のメンツへの連絡も忘れないでくださいよ」
「安心せい。その辺も抜かりはないぞ。ではな」
システィアーノは去って行った。今度はハーピーの偵察隊が報告のためにやってきた。
「閣下。ヴリトラの居場所が分かりました。西大陸を南北に分ける山脈の中腹に台地があるのですが、そこに1週間前から陣取っている模様です」
「1週間前、からか。ヴァジュラとヴァジュラヘッドが進めそうな道はあるか?」
「道中にはっきりとした獣道があります。特にトラブルが無ければ進めそうな幅はあると思います」
そういえば先週からこの辺りの干ばつの被害が急に増え始めている。水を干からびさせる能力を使っているのだろうか?
何年も前に初めてペク国を訪れた際に老師がヴリトラの事を「ただそこに存在するだけで周りから水を干上がらせ、飢えと渇きで世界を覆い尽くす化け物」だと言っていたのを思い出した。
それから数日、軍会議が行われていた。
「作戦名は、ヴリトラ殺し。ヴリトラのいる山脈中腹の台地に軍を展開、攻撃を仕掛ける。
攻撃の主軸はヴァジュラとヴァジュラヘッドによる砲撃で、歩兵は魔術兵や僧兵で構成し、防御魔法を展開してヴリトラのブレスに対抗するのが主な仕事だ」
「前回の戦いでは空を飛ばれて逃げられてしまいましたがその辺りの対策は何かあるのでしょうか?」
「システィアーノさんが対策を考えているそうだ。具体的には……」
「……なるほど。それなら大丈夫そうですね」
それから話し合うことしばし、軍会議は無事に終わった。時刻はもう夕方。マコトは家族のいる部屋へと帰ることにした。
「あなた……今度は巨大なドラゴンと戦うんでしょ? 無事に帰ってくるよね?」
「分からん」
「分からないじゃなくて約束してよ! 帰って来るって!」
「……」
マコトは幾多の戦場をかいくぐる中で数えきれない死を見つめてきた。
人間、死ぬときは実にあっけなく死ぬ。
ほんの数分前まで会話をしていた相手に何本もの矢が突き刺さり、血を大量に噴き出して地面に転がっている。なんていうのは戦場では日常の風景だ。それは総大将であるマコトにとっても例外ではない。
「努力はするさ。でも無理な時もあるかもしれない。帰ってくる確率を上げることはするが100%確実に帰ってくる保証は、すまないができない」
「出来ればこれで最後にしてほしいわねぇ。いくら乱世とはいえ戦争続きだもの」
「戦争ばっかりだったのはヴェルガノン帝国、そしてヴリトラ対策のためだ。このために戦い続けてきたんだ。終われば少しはみんなのために時間を注ぐことにするよ」
ここ数年は毎年戦争続きだった。それもこれも今は亡きヴェルガノン帝国、および彼らが復活させたヴリトラ対策のためだ。
正真正銘、今度こそ最後の戦争だ。これに勝てば西大陸、いや放置すれば全世界の脅威にもなりうる存在はいなくなる。
そうなれば今まで放置気味だった家族や、無理強いをしてきた国民たちに報いることもしよう。そう思いながら夕飯を囲むことにした。
【次回予告】
マコトが国家拡大にまい進したのも、軍備の拡大を図ったのも、全てはコイツを倒すためだ。
第125話 「ヴリトラ討伐戦」
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