126 / 127
激闘 ヴェルガノン帝国
最終話 ヴリトラ殺しの偉業
しおりを挟む
戦いが始まって3時間余り。ちょうど昼間のころだった。
「グァ……ガ……」
ヴリトラの全身から力が抜け、ヴァジュラを手放す。直後ヴリトラの身体がぐらりとよろめき、そのまま重力に引かれてズズーン。という大きな音を立てて地面に横たわる。
ヴァジュラは無事に着地でき、下敷きになるのは避けられた。
ヴリトラが倒れて動かなくなると、口から薄くて黒い霧状の何かが噴き出し、それは天へと昇っていく。すると容赦なく太陽が照りつける空が徐々に、徐々に暗くなっていく。
ゴロゴロゴロ……
ゴロゴロゴロ……
しばらくして、空から雷鳴が聞こえてくる。その音に兵士たちがざわめきだす。
さらにしばらくして……
ポツリ。
ポツリ。
顔に水滴が当たる感触が伝わってくる。
「雨……か?」
水滴の量は次第に増えていく。それに比例するように疑問は確信へと変わる。
「雨だ……雨だあ! 雨だぞおおおお!!」
勝利を告げる神の涙に割れんばかりの歓声が挙がり、地響きと化して辺りを轟かせる。
勝ったのだ。
我々は、古の厄災を討ったのだ。その歓喜を爆発させた。
わずか一代で西大陸再統一を果たすという伝説を残した偉大なる王、マコト=カトウ。彼が生前に成し遂げた偉業の中でも最も大きなものとされている、「ヴリトラ殺し」を成し遂げた瞬間であった。
ペク国に戻った老師は3ヶ月ぶりに降る雨を見て、これはマコトからの吉報だというのを感じ取っていた。
「おお……マコトの奴、やりおったか」
「老師様。濡れると風邪をひいてしまいます。中へ」
「待て。もう少しだけ見させてくれ」
老師はそう、3度ほど繰り返し、雨を浴びていた。
雨の降る中、マコトの軍はヴァジュラを先頭に王都へと帰還する。
「お帰りなさい! あなた!」
雨である程度ぬれた身体のままメリルは夫であるマコトの元へと飛び込んでいく。
「ただいま、メリル。もう当分の間は戦争はしないから安心してくれ。全部終わったよ」
「わかったわよ。その分子育ても少しは手伝ってちょうだいね」
「わかったわかった。手伝いでも何でもするからさ」
「本当に? 嘘じゃないでしょうね?」
「疑り深いなぁ。本当だって」
2人は無事再会できた喜びを分かち合った。全ては終わったと彼は妻に告げたのだ。
「お帰り、オヤジ。ついにやったんだな」
「俺一人じゃこんな事できなかったけどな」
城の中に入るともしもの時に備えて待機命令を出していたクルスとケンイチが出迎える。
「もう当分の間戦争は起きないだろうからゆっくりするんだな」
「あーあ。あと2~3年早く産まれりゃ戦争で活躍できたんだがなぁ」
「ケンイチ、お前あのヴリトラを見てまだそんなことが言えるのか?」
戦で活躍する機会が生きてる間中は無いだろうと思われる今はケンイチとクルスにとっては退屈だった。オーガなのか好戦的な性格をしているケンイチは特に。
無論、戦続きよりも平和な世の中の方がいいとは教えてはいるのだが。
その日の夜。マコトの夢の中にこれで3回目となる「彼女」……万色の神が出てきた。
「マコトよ、本当にありがとうございます。これで私の世界が脅威にさらされることはないでしょう。本当によくやってくれました」
「いや、例を言われるようなことはしてないさ」
「あまり言いたくないのですが……あなたの故郷、確かチキュウのニホンと言ったでしょうか? そこへ帰す手段は無いのです。この世界に骨をうずめる以外にありません。その辺は……怒ってますか?」
「別に。怒ってなんかないさ。日本にいたらできないことをいろいろとさせてくれたよ。ありがとな」
「私の事を憎むどころか許してくれるのですか? 私はあなたを故郷から無理やり引きはがした張本人じゃないですか。それを本当に許してくれるのですか?」
本来なら、彼女は1発や2発殴られる覚悟で現れた。それを「怒ってはいない」と意外な言葉を返してくれることに拍子抜けを食らっていた。
「まぁ親の死に目に会えないってのと、会社で引継ぎもせずにいきなり消えたってのは引っかかるけどこれだけでかい事やったんだ。大目に見てくれるだろうさ」
「そうですか……チキュウのニホンジン、でしたっけ? あなたたちは心の広い者たちですね」
「まぁな。また何か世界の危機でもあったら伝えてくれ。できるだけの対処はするからな」
「分かりました。でもその日が来ないことを願っています」
そう言うと彼女の姿は次第にぼやけ、やがて消えていった。
「う~ん……」
マコトは気づくと秋の冷たい雨が降る朝を迎えていた。ワーシープの毛でできた布団で寝ていたから久しぶりに深い眠りについて目覚めはバッチリだ。
「昨日からずっと雨降ってんのか」
「みたいね。私が起きたころには既に降ってたわ。今朝は炊き込みご飯を作ってみたの。新しいレシピを使ってるから口に合うかどうかは分からないけどね」
「そうか。楽しみだな」
マコトは平和な世の中が来たのを少しずつではあるが実感していた。
ヴリトラ討伐後のハシバ国はそれ以降、特に大きな戦争も無い平和な世を謳歌した。
また、マコトは死に忌み嫌われたのか、はたまた万色の神の加護があったのか齢100を超えて生き、その長き統治により西大陸統一国家ハシバ国の大いなる繁栄の礎となったと言われている。
- 終 -
「グァ……ガ……」
ヴリトラの全身から力が抜け、ヴァジュラを手放す。直後ヴリトラの身体がぐらりとよろめき、そのまま重力に引かれてズズーン。という大きな音を立てて地面に横たわる。
ヴァジュラは無事に着地でき、下敷きになるのは避けられた。
ヴリトラが倒れて動かなくなると、口から薄くて黒い霧状の何かが噴き出し、それは天へと昇っていく。すると容赦なく太陽が照りつける空が徐々に、徐々に暗くなっていく。
ゴロゴロゴロ……
ゴロゴロゴロ……
しばらくして、空から雷鳴が聞こえてくる。その音に兵士たちがざわめきだす。
さらにしばらくして……
ポツリ。
ポツリ。
顔に水滴が当たる感触が伝わってくる。
「雨……か?」
水滴の量は次第に増えていく。それに比例するように疑問は確信へと変わる。
「雨だ……雨だあ! 雨だぞおおおお!!」
勝利を告げる神の涙に割れんばかりの歓声が挙がり、地響きと化して辺りを轟かせる。
勝ったのだ。
我々は、古の厄災を討ったのだ。その歓喜を爆発させた。
わずか一代で西大陸再統一を果たすという伝説を残した偉大なる王、マコト=カトウ。彼が生前に成し遂げた偉業の中でも最も大きなものとされている、「ヴリトラ殺し」を成し遂げた瞬間であった。
ペク国に戻った老師は3ヶ月ぶりに降る雨を見て、これはマコトからの吉報だというのを感じ取っていた。
「おお……マコトの奴、やりおったか」
「老師様。濡れると風邪をひいてしまいます。中へ」
「待て。もう少しだけ見させてくれ」
老師はそう、3度ほど繰り返し、雨を浴びていた。
雨の降る中、マコトの軍はヴァジュラを先頭に王都へと帰還する。
「お帰りなさい! あなた!」
雨である程度ぬれた身体のままメリルは夫であるマコトの元へと飛び込んでいく。
「ただいま、メリル。もう当分の間は戦争はしないから安心してくれ。全部終わったよ」
「わかったわよ。その分子育ても少しは手伝ってちょうだいね」
「わかったわかった。手伝いでも何でもするからさ」
「本当に? 嘘じゃないでしょうね?」
「疑り深いなぁ。本当だって」
2人は無事再会できた喜びを分かち合った。全ては終わったと彼は妻に告げたのだ。
「お帰り、オヤジ。ついにやったんだな」
「俺一人じゃこんな事できなかったけどな」
城の中に入るともしもの時に備えて待機命令を出していたクルスとケンイチが出迎える。
「もう当分の間戦争は起きないだろうからゆっくりするんだな」
「あーあ。あと2~3年早く産まれりゃ戦争で活躍できたんだがなぁ」
「ケンイチ、お前あのヴリトラを見てまだそんなことが言えるのか?」
戦で活躍する機会が生きてる間中は無いだろうと思われる今はケンイチとクルスにとっては退屈だった。オーガなのか好戦的な性格をしているケンイチは特に。
無論、戦続きよりも平和な世の中の方がいいとは教えてはいるのだが。
その日の夜。マコトの夢の中にこれで3回目となる「彼女」……万色の神が出てきた。
「マコトよ、本当にありがとうございます。これで私の世界が脅威にさらされることはないでしょう。本当によくやってくれました」
「いや、例を言われるようなことはしてないさ」
「あまり言いたくないのですが……あなたの故郷、確かチキュウのニホンと言ったでしょうか? そこへ帰す手段は無いのです。この世界に骨をうずめる以外にありません。その辺は……怒ってますか?」
「別に。怒ってなんかないさ。日本にいたらできないことをいろいろとさせてくれたよ。ありがとな」
「私の事を憎むどころか許してくれるのですか? 私はあなたを故郷から無理やり引きはがした張本人じゃないですか。それを本当に許してくれるのですか?」
本来なら、彼女は1発や2発殴られる覚悟で現れた。それを「怒ってはいない」と意外な言葉を返してくれることに拍子抜けを食らっていた。
「まぁ親の死に目に会えないってのと、会社で引継ぎもせずにいきなり消えたってのは引っかかるけどこれだけでかい事やったんだ。大目に見てくれるだろうさ」
「そうですか……チキュウのニホンジン、でしたっけ? あなたたちは心の広い者たちですね」
「まぁな。また何か世界の危機でもあったら伝えてくれ。できるだけの対処はするからな」
「分かりました。でもその日が来ないことを願っています」
そう言うと彼女の姿は次第にぼやけ、やがて消えていった。
「う~ん……」
マコトは気づくと秋の冷たい雨が降る朝を迎えていた。ワーシープの毛でできた布団で寝ていたから久しぶりに深い眠りについて目覚めはバッチリだ。
「昨日からずっと雨降ってんのか」
「みたいね。私が起きたころには既に降ってたわ。今朝は炊き込みご飯を作ってみたの。新しいレシピを使ってるから口に合うかどうかは分からないけどね」
「そうか。楽しみだな」
マコトは平和な世の中が来たのを少しずつではあるが実感していた。
ヴリトラ討伐後のハシバ国はそれ以降、特に大きな戦争も無い平和な世を謳歌した。
また、マコトは死に忌み嫌われたのか、はたまた万色の神の加護があったのか齢100を超えて生き、その長き統治により西大陸統一国家ハシバ国の大いなる繁栄の礎となったと言われている。
- 終 -
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる