呪殺王と読心姫 ~疎まれ者同士が一緒に歩むことになりました~

あがつま ゆい

文字の大きさ
9 / 53

第9話 クマ狩り

しおりを挟む
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……うぅ……」

「しっかりしろ! もう少しで王都だ! あとちょっとだ! がんばれ!」

 アランドル王家に仕える兵士2人が、ケガをした兵士1人に肩を貸して歩いていた。



 朝というには遅すぎ、昼と言うには早すぎる午前中、道路を巡回していた兵士がズタボロの体である負傷兵と共にアランドル国の城下町にたどり着く。
 ケガをした兵士は応急手当てを受けて出血こそ止まっているが革製の鎧を引き裂き、身体にまで達する巨大な爪痕つめあと、そして鎧にべっとりと付いた赤黒い血液が見ていて痛々しい。

「!? オイ! どうした!?」

「陛下に伝えてください……クマが……」

 ようやく人のいる場所にたどり着いた安心感から緊張の糸がブツリと切れて負傷兵はそのまま倒れた。



「クマが出ただと!? 襲われた兵士は大丈夫なのか!?」

「現在彼は病院に搬送されて治療を受けている最中です。大ケガを負ってはいるものの命を脅かすほどではないそうです。陛下、いかがいたしましょうか?」

「俺が出る。出没場所をその兵から聞き出してくれ」

「ハッ!」

 デニスは配下に指示を出すと自分の寝室へと寄る。
 自分だけが持っている合い鍵で隠し部屋の扉を開け、その中に保管されていた血で赤く染まったという紅色のルツェルンハンマー……
 槍のように長い柄の先端についが付いた、一言でいえば戦闘用の両手持ちハンマーを手に取った。

「よし、殺るぞ!」



「? デニスさん?」

 カレンはデニスを見かけたが、いつもの彼とは明らかに違う雰囲気に戸惑う。

「よぉカレン、ちょっと小熊ちゃんと遊ぶ予定ができたんだ。しばらく城を離れるぜ。小熊ちゃんの頭蓋骨ブチ折ったら今夜はクマ肉パーティだ。楽しみにしてろよ」

「は、はぁ……」

 自分の知ってるデニスとはなんか違う。まるで「何かが乗り移ったかのような」表情と雰囲気で、少し不安に思った。
 そんな彼女を一切気にすることなく、デニスは配下数名と共に馬に乗って現場へと向かった。



「で、ここが小熊ちゃんの出た場所か」

 デニスと数名の兵士がたどり着いた場所は城下町から歩いて1時間程度の地点。デニス一行は馬に乗っているので30分ほどでたどり着ける、まだまだ未開の森が広がる所だ。

「パーティの準備に抜かりはねえだろうな?」

「大丈夫です。準備いたしました」

 デニスは部下に指示してくず肉と豚の血を辺りに撒く。クマをおびき寄せるための撒き餌だ。しばらくして……



「!! いたぞ!」

 望遠鏡を持っていた騎士がクマに気づき、デニスの元へと戻る。

「よっしゃ! 見つけた! ブチ殺すぞー!」

 デニスはやたらとテンションを上げつつクマ……魔物を食い続けたせいか全身の皮膚が黒く変色した、血のように赤い瞳をしたモノ……に向かって突撃する。

 現代地球では一般的に「クマは人間を恐れる」と言われているが、それは人間が銃でクマを散々殺しまくった結果であり、銃器の未発達なこの世界においては人間は「エサ」に過ぎない。
 エサが向こうからやって来た! と思い2本足で立ったらデニスの伸長を越える高さになるクマが彼に襲い掛かろうとした、次の瞬間!


 メギャギッ!


 硬いものと硬いものとが衝突し、何かが割れてゆがむようないびつな音がクマの頭とデニスのルツェルンハンマーの衝突部から発せられた。
 衝撃で頭蓋骨が砕け、脳の一部がシェイクされたかのように潰れた。

「グ……キュウン、キュウン」

「ヘイヘーイ、どこへ逃げるつもりだい? 小・グ・マ・ちゃ・んミ★」

 脳がやられたからなのか、足取りがおぼつかない状態でフラフラになりながらも逃げようとしているクマ。それにデニスは不気味な微笑みを浮かべながら回り込み、無慈悲なさけむような2発目をクマの脳天におみまいする。
 標的の動きが鈍っているおかげか今度は脳天を正確に捉え、確実にあの世へと送った。

「グウゥ……」

 ドサリ。という音とともにクマの全身から力が抜け、倒れる。

「よーしテメェら! さっさと解体するんだな。今日はクマ肉でパーティでもするがいい。毛皮も大事に扱え、貴重な資源なんだからな」

 配下に指示してお楽しみの剥ぎ取りタイムだ。素早く血抜きをし、毛皮と肉とに解体する。内臓はその場に残して肉と毛皮はあらかじめ持ってきた袋に収納して持ち帰った。



「今日はクマの肉のステーキですか……なかなかワイルドな味ね」

「まぁ狩ったばかりの新鮮な肉だから美味いだろ?」

 昼の食事は狩ったばかりと言っていいクマの肉がメインだった。



「そう言えばデニスさん、狩りに行く前の様子がおかしかったのですが何かあったんですか?」

「俺が紅いルツェルンハンマーを持っていたのには気づいていたよな?」

「え、ええ。普段は剣なのにどうしてなのかとは思っていましたが」

「アレは呪われた武器で、普通の人間が持つと意識を乗っ取られて周りの人間を手当たり次第に叩き潰したくなるらしいんだ。俺はアレを持っても気が大きくなる程度で済んでるがな」

「気が大きくなる程度、ですか」

 それにしては別人のように雰囲気が変わっていると感じられる。まぁ本人が言うからには問題なさそうだとは思うのだが……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

処理中です...