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「出て行ってくれ」勇者はそう言った
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「魔王を討伐し世界を救った英雄、ここに眠る」
勇者の身体は納められてはいないが彼の業績を称えた、真新しい立派な墓石が王都に建てられていた。それを蹴り飛ばす大男と彼のそばにいた女がいた。
「馬鹿野郎! 俺たちを残して逝きやがって! 「誰かを犠牲にする勝利なんて勝利じゃない」って散々言ってたくせに!」
「あなた、辞めて。もう死んじゃったからどうしようもないし……」
「……けど!」
「おお、お前たちか。元気そうだな」
その2人のもとにしわがれた老人がやってくる。この3人はかつて世界を救った勇者と一緒に冒険していたパーティメンバーだった。
「もう1年になるのか。あの小僧、オレみたいな老人より先に逝きやがって……」
3人が集まるとあの日の出来事、勇者と過ごした最後の夜が鮮やかによみがえる。
「おいテメェ、どういうつもりだ!?」
いよいよ明日魔王を討伐する。という日になってパーティリーダーの勇者が言い出したのは、パーティメンバーへの突然の「追放通告」だった。
「言葉通りだ。魔王は俺1人で倒す。手柄を横取りされたらたまったもんじゃないからな」
「お前! 俺たちはそんなことやる奴じゃないって長い間旅してきたからわかってるだろ!? それをいまさら!」
「人間ってやつはいつ化けの皮がはがれるかわかったもんじゃないからな。だから追放だ」
あまりにも唐突な追放宣告に戦士であった大男は憤りを隠せない。それは魔女も同じだった。
「ちょっと! さすがにそれはあんまりじゃないの!? 私たちも十分協力したじゃない!」
「当然だ。それにお前たちは結婚するのを誓った仲なんだろ? 戦闘中片方を人質に取られて同士討ちになったらたまったもんじゃない。
負ける可能性は少しでも排除するに越したことはないからな」
「だからってそんな言い方はないんじゃないの!?」
「……」
勇者は魔術が書き込まれた羊皮紙を取り出し、魔法を発動する……眠りの魔法だった。不意を突かれたのか戦士も魔女も抵抗することなく眠りについた。
「ジジィ、あんたも追放だ。年々足腰が弱って予定では3日で踏破する距離を5日もかかっている。もう年なんだから無理してついてくるな。俺の故郷で国王の相談役でもやってろ」
「小僧、お前死ぬ気か?」
勇者から「ジジィ」と呼ばれ、彼の事を「小僧」呼ばわりする、御年70を超える賢者は彼に突っかかる。
「俺の犠牲で世界が救われるのなら安い費用さ」
「お前散々言ってたよな? 「誰かを犠牲にする勝利なんて勝利じゃない」と。だったら自分自身を犠牲にすることなく勝利を収めるというのが筋なのでは?」
「俺が止まってしまったら世界中の人間が絶望してしまう。どんな手を使ってでも魔王を倒さないと、希望が失われてしまうんだ」
「フン。だったらオレがやるよ。死ぬのはこんな老いぼれジジィに任せて、若いお前は生きるんだ」
「それは絶対にできない。誰かを犠牲にする勝利なんて勝利じゃない。そんな勝利なんて欲しくない。それにそんな身体じゃ魔王の城にたどり着けるかどうかも怪しいじゃないか。
昔と違って年老いてだんだん体力がなくなっているのは分かってるんだぞ?」
「……そうか。そこまで読めているのなら止めやしない。止めたところで無理してでもやるし、オレにも止められないのは目に見えている。やりたいようにやるがいい」
「そう言ってくれると助かる。じゃあな」
勇者は真夜中、伝説の武器防具を宿屋において、国の一般兵とそう変わらない装備品を身に着け草木も眠る時間に宿を発った。
◇◇◇
魔王の城の奥にある魔王の寝室。そこに勇者が「転がって」いた。
出血は止まっているものの右腕は人体の構造上、普通ならあり得ない個所からありえない方向に曲がっており、左足も太ももから下が切断されて無くなっており、もはや立つことすらできない。
「余の軍の幹部を全て倒せた、と聞いているから少しは骨があると思っていたがこの程度か。仲間もおらず武装も一般兵と大して差がない。それで余を倒せると思ったのか?」
「……例え伝説の武器防具があっても、仲間たちがいても、俺たち人類ではお前には勝てない。それくらいわかるさ」
「やれやれ。死ぬとわかってて余に挑むか。到底理解しがたい思考だな」
「だからこそだ!」
そう言って左腕で懐から魔術が書き込まれた巻物を取り出し、魔法を起動する。
「!? この魔法は、まさか!?」
魔王は勇者が使った魔法を瞬時に読み取る。
自らを殺せるほぼ唯一の魔法……「出来損ないの太陽」とでもいうべき、術者の魂と肉体を光と熱と爆風に変え、周囲数キロにいる生き物を「蒸発させる」自爆魔法だ。
自らを殺せる可能性があるゆえに術者や資料は徹底的に排除し、失われた魔法となっていたはずなのだが……。
「これでいい……俺の勝ちだ」
その日、魔王の城は跡形もなく消し飛び、勇者も魔王も逝った。敵の襲撃に備えて頑丈な造りになっている城すら跡形もなく吹き飛ばす魔法。
それを使うがゆえにパーティメンバーを追放し、伝説の武器防具もあえて使わず、自分が死ぬのを前提にして戦いに挑んだのだ。
勇者は自分の死後、仲間たちに残すものはきっちりと残していた。
戦士と魔女の夫婦には彼が使っていた伝説の武器防具を丸々残しており、売ってカネに換えれば老後の心配をする必要もないほどの財産を残していた。
賢者には勇者にとっての父親である国王を説き伏せて、彼の相談役としての仕事を作ってくれていた。
この日、魔王は死んだ。世界に平和が戻ったのだ。
勇者の身体は納められてはいないが彼の業績を称えた、真新しい立派な墓石が王都に建てられていた。それを蹴り飛ばす大男と彼のそばにいた女がいた。
「馬鹿野郎! 俺たちを残して逝きやがって! 「誰かを犠牲にする勝利なんて勝利じゃない」って散々言ってたくせに!」
「あなた、辞めて。もう死んじゃったからどうしようもないし……」
「……けど!」
「おお、お前たちか。元気そうだな」
その2人のもとにしわがれた老人がやってくる。この3人はかつて世界を救った勇者と一緒に冒険していたパーティメンバーだった。
「もう1年になるのか。あの小僧、オレみたいな老人より先に逝きやがって……」
3人が集まるとあの日の出来事、勇者と過ごした最後の夜が鮮やかによみがえる。
「おいテメェ、どういうつもりだ!?」
いよいよ明日魔王を討伐する。という日になってパーティリーダーの勇者が言い出したのは、パーティメンバーへの突然の「追放通告」だった。
「言葉通りだ。魔王は俺1人で倒す。手柄を横取りされたらたまったもんじゃないからな」
「お前! 俺たちはそんなことやる奴じゃないって長い間旅してきたからわかってるだろ!? それをいまさら!」
「人間ってやつはいつ化けの皮がはがれるかわかったもんじゃないからな。だから追放だ」
あまりにも唐突な追放宣告に戦士であった大男は憤りを隠せない。それは魔女も同じだった。
「ちょっと! さすがにそれはあんまりじゃないの!? 私たちも十分協力したじゃない!」
「当然だ。それにお前たちは結婚するのを誓った仲なんだろ? 戦闘中片方を人質に取られて同士討ちになったらたまったもんじゃない。
負ける可能性は少しでも排除するに越したことはないからな」
「だからってそんな言い方はないんじゃないの!?」
「……」
勇者は魔術が書き込まれた羊皮紙を取り出し、魔法を発動する……眠りの魔法だった。不意を突かれたのか戦士も魔女も抵抗することなく眠りについた。
「ジジィ、あんたも追放だ。年々足腰が弱って予定では3日で踏破する距離を5日もかかっている。もう年なんだから無理してついてくるな。俺の故郷で国王の相談役でもやってろ」
「小僧、お前死ぬ気か?」
勇者から「ジジィ」と呼ばれ、彼の事を「小僧」呼ばわりする、御年70を超える賢者は彼に突っかかる。
「俺の犠牲で世界が救われるのなら安い費用さ」
「お前散々言ってたよな? 「誰かを犠牲にする勝利なんて勝利じゃない」と。だったら自分自身を犠牲にすることなく勝利を収めるというのが筋なのでは?」
「俺が止まってしまったら世界中の人間が絶望してしまう。どんな手を使ってでも魔王を倒さないと、希望が失われてしまうんだ」
「フン。だったらオレがやるよ。死ぬのはこんな老いぼれジジィに任せて、若いお前は生きるんだ」
「それは絶対にできない。誰かを犠牲にする勝利なんて勝利じゃない。そんな勝利なんて欲しくない。それにそんな身体じゃ魔王の城にたどり着けるかどうかも怪しいじゃないか。
昔と違って年老いてだんだん体力がなくなっているのは分かってるんだぞ?」
「……そうか。そこまで読めているのなら止めやしない。止めたところで無理してでもやるし、オレにも止められないのは目に見えている。やりたいようにやるがいい」
「そう言ってくれると助かる。じゃあな」
勇者は真夜中、伝説の武器防具を宿屋において、国の一般兵とそう変わらない装備品を身に着け草木も眠る時間に宿を発った。
◇◇◇
魔王の城の奥にある魔王の寝室。そこに勇者が「転がって」いた。
出血は止まっているものの右腕は人体の構造上、普通ならあり得ない個所からありえない方向に曲がっており、左足も太ももから下が切断されて無くなっており、もはや立つことすらできない。
「余の軍の幹部を全て倒せた、と聞いているから少しは骨があると思っていたがこの程度か。仲間もおらず武装も一般兵と大して差がない。それで余を倒せると思ったのか?」
「……例え伝説の武器防具があっても、仲間たちがいても、俺たち人類ではお前には勝てない。それくらいわかるさ」
「やれやれ。死ぬとわかってて余に挑むか。到底理解しがたい思考だな」
「だからこそだ!」
そう言って左腕で懐から魔術が書き込まれた巻物を取り出し、魔法を起動する。
「!? この魔法は、まさか!?」
魔王は勇者が使った魔法を瞬時に読み取る。
自らを殺せるほぼ唯一の魔法……「出来損ないの太陽」とでもいうべき、術者の魂と肉体を光と熱と爆風に変え、周囲数キロにいる生き物を「蒸発させる」自爆魔法だ。
自らを殺せる可能性があるゆえに術者や資料は徹底的に排除し、失われた魔法となっていたはずなのだが……。
「これでいい……俺の勝ちだ」
その日、魔王の城は跡形もなく消し飛び、勇者も魔王も逝った。敵の襲撃に備えて頑丈な造りになっている城すら跡形もなく吹き飛ばす魔法。
それを使うがゆえにパーティメンバーを追放し、伝説の武器防具もあえて使わず、自分が死ぬのを前提にして戦いに挑んだのだ。
勇者は自分の死後、仲間たちに残すものはきっちりと残していた。
戦士と魔女の夫婦には彼が使っていた伝説の武器防具を丸々残しており、売ってカネに換えれば老後の心配をする必要もないほどの財産を残していた。
賢者には勇者にとっての父親である国王を説き伏せて、彼の相談役としての仕事を作ってくれていた。
この日、魔王は死んだ。世界に平和が戻ったのだ。
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