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第6話 エクムント先生のレッスン
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「!! 信じられん! 1年もの間首を縦に振らなかったあの頑固ジジィをたった数日で!?」
1年以上仕事を拒み続けていたグラッドが別人になったかのように仕事を引き受けてくれると言った。そんな報告を「信じられない!」という表情をしながら国王は聞いていた。
「エクムントと言ったか!? お前は一体どうやって説得したんだ!? 一体どんな魔術を使ったんだ!?」
「なに、私は閣下のご命令に従ったまでです。特別なことは何1つしていませんよ」
「そんなわけないだろ! 1年もの間何をやっても一切動こうとしなかったあの偏屈者のグラッドをたった数日で説き伏せるなんて絶対何かあるはずだろ!
その秘密を教えてくれ! カネはいくらでも出す! 言い値で良いぞ! 頼む!」
国王はエクムントの偉業に対しものすごい勢いで食らいついてきた。なぜあの偏屈で頑固なドワーフを説得できたのか? 知りたくて知りたくて仕方がなかった。
「別途契約を交わせばお教えいたしましょう。よろしいですか?」
「あ、ああ。わかった」
エクムントはその場で契約書を作成し、国王のサインを書かせる。
「ではお教えしましょう。と言っても単純な事ですがね。ほぼ全ての人間というのは『自分の事』にしか興味がないんです。
だから『他人に興味を持つ』事で大抵の問題は解決できます。小説だってそうです。
読者が1番読みたいものは『主人公の活躍』つまりは『お話の中において1番自分が活躍出来る場』で、
作者が1番書きたいものは『設定』つまりは『お話の中において1番自分が活躍出来る場』なんです。
小説に名作が少ないのはこれが理由です。読者も作者も『自分自身』にしか興味が無いのですからすれ違いが起きるんです。
読者は作者の活躍の場である『設定』には最も興味が無いし、作者は読者の活躍の場である『主人公の活躍』を最もないがしろにするんです。
どちらもお互いにとって『お話の中で1番他人事に見える』のであって、お互いにとって『最もどうでもいい話』ですからね」
冒険者は国王に向かって、長年の間培われてきた秘訣を話す。
「?? そんな事が秘訣なのか?」
「ええそうです。閣下、私の予想ですがあなたは「武器を納品してくれないと『俺達が』困る」と言ったりしませんでしたか?
グラッドにとっては他人の事、つまりは『閣下の事情や国の事情』なんて最もどうでもいい事なんです。あくまで他人の事ですからね。
それと同時に閣下も「国の台所事情」にしか興味が無くて何故彼が仕事を断るのか、なぜ言う事を聞かなくなったのか、全く興味が無かったんじゃないんですか?」
「!! う……な、なぜ分かった?」
「ズボシでしたな。それこそが人間は『自分の事』しか興味がない事の最もたるものです。だから1年以上も説得できなかったんでしょうね。
なにご安心を。人間というのは『自分自身の事にしか興味がない』というのが当たり前でそれに「気づくことすら出来ない」のが普通なんです。閣下が劣っているわけではございませんよ」
エクムントはフォローも忘れない。
「他にも「盗人にも三分の理あり」という言葉がございまして、たとえ盗人という「誰がどう考えても悪い事をしている人」でも
それに至るまでの経緯を見れば必ずしも純粋な悪というわけではないのですよ。だからそこを正論で責めて論破しても論破した側が気持ちよくなるだけで事態は良くなりません。
閣下にお聞きしますが「完膚なきまでの正論で論破されて『そうか俺が悪かったのか!』と改心したことはありますか? おそらくないでしょう。
それどころか論破してきた相手を「屁理屈で俺のメンツをつぶしやがって!」と憎悪してはいませんでしたか?」
「!! う……」
「これもまたズボシでしょうな? 「夫婦喧嘩に勝ち負けはない。勝っても負けても同じ『敗北』だ」とは誰が言ったかは忘れてしまいましたが夫婦喧嘩以外でも言えることです」
「……こう言われれば簡単なことに思えるんだが、そんな簡単なことが誰も出来ないものなのか?」
国王はエクムントに問う。
「ええ、出来ません。普通の人間というのは論破したいし裁きたいんです。論破される側や裁かれる側の人間などお構いなしに裁きたいし論破したいんです。それが普通です。
『論破せずに相手に興味を持つ』それさえできれば閣下もすぐに歴史に名を残せる名君になれるでしょう。
実際閣下はグラッドの意見に耳を傾けることは一切せずに1年以上自分の事情だけを言い続けてはいませんでしたか?」
「……言われてみれば確かにそうだな。俺は自分の事しか頭になかったな」
「そう素直に認められるだけあなたは名君の素質がありますよ。普通の人というのは「自分のメンツを守る」為に嘘までひねり出すものですから」
「そ、そうか。アドバイスありがとう。参考にしてみるよ」
国王は大体は理解してくれたみたいで師匠にそうお礼をする。
「閣下のお役に立てれば光栄です。それと『知っている事』と『出来る事』には天と地ほどの差がありますのでくれぐれもお忘れの無いようにしていただければなと思います。
先ほども言ったように「盗人にも三分の理あり」であって、法律にのっとれば100%の悪である盗人の意見を聞くというのは相当に根気のいる事です。
普通の人間というのは「犯罪者の言い訳なんて聞きたくない!」と断罪しますからね。
それをやらずに「なぜ盗まざるを得なくなったのか?」の理由を聞き出すのはとてつもなく苦労するものです。それを忘れないでください」
その言葉でエクムントによる講義は終わった。
エクムントのアドバイスを受け取った国王は、その後の歴史において全ての部下から「王国の至宝」と呼ばれるほどの名君になるのだが、それはまた別のお話。
【次回予告】
国王からの仕事は終わった。だが彼にはやることが残されていた。30半ばになっての冒険者を続けられる、その理由の核心に迫る部分だ。
第7話 「新たな知り合い」
1年以上仕事を拒み続けていたグラッドが別人になったかのように仕事を引き受けてくれると言った。そんな報告を「信じられない!」という表情をしながら国王は聞いていた。
「エクムントと言ったか!? お前は一体どうやって説得したんだ!? 一体どんな魔術を使ったんだ!?」
「なに、私は閣下のご命令に従ったまでです。特別なことは何1つしていませんよ」
「そんなわけないだろ! 1年もの間何をやっても一切動こうとしなかったあの偏屈者のグラッドをたった数日で説き伏せるなんて絶対何かあるはずだろ!
その秘密を教えてくれ! カネはいくらでも出す! 言い値で良いぞ! 頼む!」
国王はエクムントの偉業に対しものすごい勢いで食らいついてきた。なぜあの偏屈で頑固なドワーフを説得できたのか? 知りたくて知りたくて仕方がなかった。
「別途契約を交わせばお教えいたしましょう。よろしいですか?」
「あ、ああ。わかった」
エクムントはその場で契約書を作成し、国王のサインを書かせる。
「ではお教えしましょう。と言っても単純な事ですがね。ほぼ全ての人間というのは『自分の事』にしか興味がないんです。
だから『他人に興味を持つ』事で大抵の問題は解決できます。小説だってそうです。
読者が1番読みたいものは『主人公の活躍』つまりは『お話の中において1番自分が活躍出来る場』で、
作者が1番書きたいものは『設定』つまりは『お話の中において1番自分が活躍出来る場』なんです。
小説に名作が少ないのはこれが理由です。読者も作者も『自分自身』にしか興味が無いのですからすれ違いが起きるんです。
読者は作者の活躍の場である『設定』には最も興味が無いし、作者は読者の活躍の場である『主人公の活躍』を最もないがしろにするんです。
どちらもお互いにとって『お話の中で1番他人事に見える』のであって、お互いにとって『最もどうでもいい話』ですからね」
冒険者は国王に向かって、長年の間培われてきた秘訣を話す。
「?? そんな事が秘訣なのか?」
「ええそうです。閣下、私の予想ですがあなたは「武器を納品してくれないと『俺達が』困る」と言ったりしませんでしたか?
グラッドにとっては他人の事、つまりは『閣下の事情や国の事情』なんて最もどうでもいい事なんです。あくまで他人の事ですからね。
それと同時に閣下も「国の台所事情」にしか興味が無くて何故彼が仕事を断るのか、なぜ言う事を聞かなくなったのか、全く興味が無かったんじゃないんですか?」
「!! う……な、なぜ分かった?」
「ズボシでしたな。それこそが人間は『自分の事』しか興味がない事の最もたるものです。だから1年以上も説得できなかったんでしょうね。
なにご安心を。人間というのは『自分自身の事にしか興味がない』というのが当たり前でそれに「気づくことすら出来ない」のが普通なんです。閣下が劣っているわけではございませんよ」
エクムントはフォローも忘れない。
「他にも「盗人にも三分の理あり」という言葉がございまして、たとえ盗人という「誰がどう考えても悪い事をしている人」でも
それに至るまでの経緯を見れば必ずしも純粋な悪というわけではないのですよ。だからそこを正論で責めて論破しても論破した側が気持ちよくなるだけで事態は良くなりません。
閣下にお聞きしますが「完膚なきまでの正論で論破されて『そうか俺が悪かったのか!』と改心したことはありますか? おそらくないでしょう。
それどころか論破してきた相手を「屁理屈で俺のメンツをつぶしやがって!」と憎悪してはいませんでしたか?」
「!! う……」
「これもまたズボシでしょうな? 「夫婦喧嘩に勝ち負けはない。勝っても負けても同じ『敗北』だ」とは誰が言ったかは忘れてしまいましたが夫婦喧嘩以外でも言えることです」
「……こう言われれば簡単なことに思えるんだが、そんな簡単なことが誰も出来ないものなのか?」
国王はエクムントに問う。
「ええ、出来ません。普通の人間というのは論破したいし裁きたいんです。論破される側や裁かれる側の人間などお構いなしに裁きたいし論破したいんです。それが普通です。
『論破せずに相手に興味を持つ』それさえできれば閣下もすぐに歴史に名を残せる名君になれるでしょう。
実際閣下はグラッドの意見に耳を傾けることは一切せずに1年以上自分の事情だけを言い続けてはいませんでしたか?」
「……言われてみれば確かにそうだな。俺は自分の事しか頭になかったな」
「そう素直に認められるだけあなたは名君の素質がありますよ。普通の人というのは「自分のメンツを守る」為に嘘までひねり出すものですから」
「そ、そうか。アドバイスありがとう。参考にしてみるよ」
国王は大体は理解してくれたみたいで師匠にそうお礼をする。
「閣下のお役に立てれば光栄です。それと『知っている事』と『出来る事』には天と地ほどの差がありますのでくれぐれもお忘れの無いようにしていただければなと思います。
先ほども言ったように「盗人にも三分の理あり」であって、法律にのっとれば100%の悪である盗人の意見を聞くというのは相当に根気のいる事です。
普通の人間というのは「犯罪者の言い訳なんて聞きたくない!」と断罪しますからね。
それをやらずに「なぜ盗まざるを得なくなったのか?」の理由を聞き出すのはとてつもなく苦労するものです。それを忘れないでください」
その言葉でエクムントによる講義は終わった。
エクムントのアドバイスを受け取った国王は、その後の歴史において全ての部下から「王国の至宝」と呼ばれるほどの名君になるのだが、それはまた別のお話。
【次回予告】
国王からの仕事は終わった。だが彼にはやることが残されていた。30半ばになっての冒険者を続けられる、その理由の核心に迫る部分だ。
第7話 「新たな知り合い」
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