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第16話 地竜討伐 後編
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訓練所での打ち合いが終わり、吉次郎とレオナルドの2人は上機嫌のまま仕事にかかる。領民からのワームの目撃情報が多数寄せられる場所へと向かった。
道と言えばケモノ道程度しかない、柴やヤブの茂った未開の森だ。エクムントは剣をナタのように使って切り開きながら進む。
「これは……ワームが通った跡だな」
エクムント一行は何か太いものが2~3度通ったような跡を見つけた。素人が見たらケモノ道のように見えるが、よく見ると長い時をかけてケモノ達が地面を踏みならした跡はない。
ワームは一般的にはヘビのような細長い体、と言われているものの実際の身体は人間の胴体程の太さがあり、体長は人間の軽く倍以上はある巨体だ。それが通ると必ず特徴的な跡が残る。
本来はワームを「避ける」ためのノウハウだがエクムント達はワームを「見つける」為に使っていた。
ワームの通り道を発見してしばらく……3メートルほどの高さにある木の皮がむけて鋭利な何かでついた傷がある木を見つけた。
「これは……爪とぎをした跡だな。傷の高さからしてワームだ……この辺りにいる可能性が高いな」
普通の人間からしたら見上げないと見えない位置にある爪とぎの跡。この辺りでは長い事クマの出没情報が無いし、そもそも余程大きなクマでさえ手の爪が届かない位置だ。
ほぼ間違いなくワームの仕業だろう。その傷の深さからして、業物と言える剣や刀ですら勝てない位の鋭さを持つことが想像できる。
「間違いない。すぐ近くにワームがいるな。いつでも戦えるように準備していてくれ」
エクムントは連れにそう指示する。そう言いながらも彼は望遠鏡で辺りを警戒するように見回す。そして……
「!! いたぞ!」
望遠鏡でその姿をとらえた。茶色と灰色を混ぜ合わせたような色をした鱗に覆われた、ヘビのように細長い体。依頼に出てきたワームの姿、そのままだった。
「今だ! かかれ!」
「おっしゃ行くぜ!」
3人はワームが後ろを向いている隙を見て死角から2人、いや『2匹の猛獣』が襲い掛かる!
レオナルドが「鋼の塊」と言える分厚く長い大剣を振り、ワームに襲い掛かる!
ワームの尻尾に近い場所に剣がぶつかり、ゴギボギッ! という何か硬いものが砕けるような音とともに、鱗をへし折り肉を折り曲げ、骨にまで達する1撃を食らわせる。
次いで吉次郎がレオナルドの背後から現れ、大剣が当たった場所にピタリと合わせて愛刀「村正」の斬撃を食らわせる。
「村正」はただでさえ彼の祖国では屈指の業物と言える切れ味を持つ。
その上で吉次郎が手にしてから30年以上魔物を斬り続け血を吸ったためか一種の「妖刀」と化しており、ドラゴンの身体すら切り裂く切れ味を持っていた。
それを存分に生かしてレオナルドが負わせた傷と合わせてワームの胴体を切断する。切断面から鮮血がドバドバと吹き出た。
「キシャアアア!!」
ワームは興奮状態になったのか、それともおびえをかき消すためか、大きく吠える。そして口から灼熱の火球を飛ばして反撃してくる!
だがそんな攻撃に当たるほど3人は間抜けではない。難なく避けて次の手を打つ。
レオナルドが再び剣を振るい、ワームの胴に強烈な1撃を食らわせる。その衝撃でほんのわずかの時間だが、ワームの頭が下を向く。その隙を吉次郎は逃しはしなかった。
ワームの頭の上まで跳び上がり、脳天を叩き割るように村正を振るう! 刀は相手の頭部を深々と叩き斬り、脳にまで達する斬り傷を作る。
「ガッ……」
いくらワームと言えど脳にまで達する深い斬撃を食らったら致命傷だ。力を無くしてドサッ。という音とともに倒れ、動かなくなった。
「やったか?」
「手ごたえありでしたな。念のため首を斬り落としましょう」
念には念を入れて、彼らはワームの首を斬り落とす。これで死んだふりなどは出来ないはずだ。
「さて、ここからは私の番ですな」
エクムントは『知り合い』の召喚に使う本を広げる。
報酬については依頼主と交渉し「ワームの死体は全てエクムント達の物。その代わり現金による報酬は無し」ということになっていた。
下級とはいえドラゴンはドラゴン。鱗も牙も爪も武器や防具の素材としては1級品だし、骨も1本残らず武器防具どちらにも利用できる。
肉も血も内臓もその全ての部位が高級食材で、噂では食べると寿命が延びると言われており金持ちたちが欲してやまない。
とはいえ死体からの剥ぎ取りに、剥ぎ取った素材の流通経路の確保、素材を加工する職人の手配などを考えると、
冒険者だけでは「素材を生かすことは出来なくはないが超絶に面倒くさい」部分もあるので『普通は』冒険者には相応の報酬を与えて、死体は討伐クエストの依頼主が引き取るケースが多い。
そう……『普通の冒険者の場合は』である。エクムントはその点において普通ではなかった。
「召喚……トニオ=タベルスキー!」
「召喚……グレイグ=スミス!」
「召喚……」
エクムントは先日通話で話をしていた知り合い達を次々と召喚していく。
高級食材であるドラゴンの肉を買い取る料理人達、鱗や骨を求める鎧職人達に、牙や爪が欲しい武器職人達。
総勢9名を呼び出し素材を剥ぎ取らせ、あるいは素材と引き換えにカネをもらう。
彼らは皆素材を積み込めるように台車を引きながら召喚されており、次々と収穫物を積み込んでいく。
ワームの死体は30分程度で殺した証として領主に提出する牙を1本残らず抜かれたワームの頭部を除いて全て解体され無くなり、
代わりにエクムントの手には何通もの「かなり良い額」が書かれた小切手が残った。彼は財布に小切手を丁寧にしまった。
「はぁ~……しっかしまぁエクムント。お前、本当に顔が広いんだなぁ」
「私も付き合って数年経ちますがこういうのは初めてですな。たった1人で経済を回すとか、なかなか見れたものではござりませんな」
レオナルドも吉次郎も、親友の顔の広さに目を丸くしていた。
「何せ長年世界各地を旅していると知り合いが多くなるのでね。では帰りましょうか」
エクムントに先導されるように3人は「領主への手土産」を持って帰路に就いた。
【次回予告】
ようやく当面の目標であるイスターナ国にたどり着いたエクムント。だがそこではとある重大な問題を抱えていた。
第17話 「イスターナの姫君 エリン」
道と言えばケモノ道程度しかない、柴やヤブの茂った未開の森だ。エクムントは剣をナタのように使って切り開きながら進む。
「これは……ワームが通った跡だな」
エクムント一行は何か太いものが2~3度通ったような跡を見つけた。素人が見たらケモノ道のように見えるが、よく見ると長い時をかけてケモノ達が地面を踏みならした跡はない。
ワームは一般的にはヘビのような細長い体、と言われているものの実際の身体は人間の胴体程の太さがあり、体長は人間の軽く倍以上はある巨体だ。それが通ると必ず特徴的な跡が残る。
本来はワームを「避ける」ためのノウハウだがエクムント達はワームを「見つける」為に使っていた。
ワームの通り道を発見してしばらく……3メートルほどの高さにある木の皮がむけて鋭利な何かでついた傷がある木を見つけた。
「これは……爪とぎをした跡だな。傷の高さからしてワームだ……この辺りにいる可能性が高いな」
普通の人間からしたら見上げないと見えない位置にある爪とぎの跡。この辺りでは長い事クマの出没情報が無いし、そもそも余程大きなクマでさえ手の爪が届かない位置だ。
ほぼ間違いなくワームの仕業だろう。その傷の深さからして、業物と言える剣や刀ですら勝てない位の鋭さを持つことが想像できる。
「間違いない。すぐ近くにワームがいるな。いつでも戦えるように準備していてくれ」
エクムントは連れにそう指示する。そう言いながらも彼は望遠鏡で辺りを警戒するように見回す。そして……
「!! いたぞ!」
望遠鏡でその姿をとらえた。茶色と灰色を混ぜ合わせたような色をした鱗に覆われた、ヘビのように細長い体。依頼に出てきたワームの姿、そのままだった。
「今だ! かかれ!」
「おっしゃ行くぜ!」
3人はワームが後ろを向いている隙を見て死角から2人、いや『2匹の猛獣』が襲い掛かる!
レオナルドが「鋼の塊」と言える分厚く長い大剣を振り、ワームに襲い掛かる!
ワームの尻尾に近い場所に剣がぶつかり、ゴギボギッ! という何か硬いものが砕けるような音とともに、鱗をへし折り肉を折り曲げ、骨にまで達する1撃を食らわせる。
次いで吉次郎がレオナルドの背後から現れ、大剣が当たった場所にピタリと合わせて愛刀「村正」の斬撃を食らわせる。
「村正」はただでさえ彼の祖国では屈指の業物と言える切れ味を持つ。
その上で吉次郎が手にしてから30年以上魔物を斬り続け血を吸ったためか一種の「妖刀」と化しており、ドラゴンの身体すら切り裂く切れ味を持っていた。
それを存分に生かしてレオナルドが負わせた傷と合わせてワームの胴体を切断する。切断面から鮮血がドバドバと吹き出た。
「キシャアアア!!」
ワームは興奮状態になったのか、それともおびえをかき消すためか、大きく吠える。そして口から灼熱の火球を飛ばして反撃してくる!
だがそんな攻撃に当たるほど3人は間抜けではない。難なく避けて次の手を打つ。
レオナルドが再び剣を振るい、ワームの胴に強烈な1撃を食らわせる。その衝撃でほんのわずかの時間だが、ワームの頭が下を向く。その隙を吉次郎は逃しはしなかった。
ワームの頭の上まで跳び上がり、脳天を叩き割るように村正を振るう! 刀は相手の頭部を深々と叩き斬り、脳にまで達する斬り傷を作る。
「ガッ……」
いくらワームと言えど脳にまで達する深い斬撃を食らったら致命傷だ。力を無くしてドサッ。という音とともに倒れ、動かなくなった。
「やったか?」
「手ごたえありでしたな。念のため首を斬り落としましょう」
念には念を入れて、彼らはワームの首を斬り落とす。これで死んだふりなどは出来ないはずだ。
「さて、ここからは私の番ですな」
エクムントは『知り合い』の召喚に使う本を広げる。
報酬については依頼主と交渉し「ワームの死体は全てエクムント達の物。その代わり現金による報酬は無し」ということになっていた。
下級とはいえドラゴンはドラゴン。鱗も牙も爪も武器や防具の素材としては1級品だし、骨も1本残らず武器防具どちらにも利用できる。
肉も血も内臓もその全ての部位が高級食材で、噂では食べると寿命が延びると言われており金持ちたちが欲してやまない。
とはいえ死体からの剥ぎ取りに、剥ぎ取った素材の流通経路の確保、素材を加工する職人の手配などを考えると、
冒険者だけでは「素材を生かすことは出来なくはないが超絶に面倒くさい」部分もあるので『普通は』冒険者には相応の報酬を与えて、死体は討伐クエストの依頼主が引き取るケースが多い。
そう……『普通の冒険者の場合は』である。エクムントはその点において普通ではなかった。
「召喚……トニオ=タベルスキー!」
「召喚……グレイグ=スミス!」
「召喚……」
エクムントは先日通話で話をしていた知り合い達を次々と召喚していく。
高級食材であるドラゴンの肉を買い取る料理人達、鱗や骨を求める鎧職人達に、牙や爪が欲しい武器職人達。
総勢9名を呼び出し素材を剥ぎ取らせ、あるいは素材と引き換えにカネをもらう。
彼らは皆素材を積み込めるように台車を引きながら召喚されており、次々と収穫物を積み込んでいく。
ワームの死体は30分程度で殺した証として領主に提出する牙を1本残らず抜かれたワームの頭部を除いて全て解体され無くなり、
代わりにエクムントの手には何通もの「かなり良い額」が書かれた小切手が残った。彼は財布に小切手を丁寧にしまった。
「はぁ~……しっかしまぁエクムント。お前、本当に顔が広いんだなぁ」
「私も付き合って数年経ちますがこういうのは初めてですな。たった1人で経済を回すとか、なかなか見れたものではござりませんな」
レオナルドも吉次郎も、親友の顔の広さに目を丸くしていた。
「何せ長年世界各地を旅していると知り合いが多くなるのでね。では帰りましょうか」
エクムントに先導されるように3人は「領主への手土産」を持って帰路に就いた。
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