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第19話 嵐の前の静けさ
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エリン姫との謁見を終えて、彼の仕事が始まった。石板のような魔導器具を起動し、知り合いと通話をする。
「トニオ、元気か? ワームの肉の件は上手くいったか?」
「よおエクムント、またお前か。ワーム肉のステーキやもつ煮込みは大盛況だったぜ、ありがとな」
社交辞令にも似たお礼の話をしつつ、本題を切り出す。
「トニオ、仕事の依頼だ。明日の昼に子牛の肉を使ったビーフシチュー、ビーフステーキ、そしてハンバーガーを作ってくれ。
悪いがこれを最優先で作ってくれ。他の仕事は全て断ってほしい。キャンセル料は全額払うよ」
「俺を呼んでそれらを作れってことは『彼女』を呼ぶって事か? まるで専属シェフになった気分だな。まぁ悪くねえけどな」
「いいじゃないですか『彼女』の食事を作るなんて人によっては末代まで誇りに思える最高の名誉なんですし。厨房は現地の城の物を使うよう手配しておきます」
「分かった。明日はちょうど店が休みだから仕事のキャンセルは無いぜ。じゃあ明日会おうな」
トニオとの通信を終え、直後別の者と通信を開始する。
「お久しぶりです。そちらはお変わりありませんでしょうか?」
「あら、その声は……確かエーちゃんね。お久しぶりね」
聞こえてくるのはかわいらしい少女の声。だがエクムントはその正体を知っている。並の信仰者ではその姿を拝めることすらできないという伝説の存在だ。
「『貴女』のお力をどうしてもお借りしたいのですがよろしいでしょうか? もちろん最高品質の牛肉料理も手配いたします。明日の昼でよろしいでしょうか?」
「分かったわ。久しぶりの運動になりそうね、明日の昼に会いましょうね」
通信を終えた。
翌日……エクムントは城の厨房を少しの間貸してほしいと頼み込み許可をもらう。許可を取れた後、彼は城の中庭で召喚を行う。彼は召喚魔法が刻まれた本を広げる。
「召喚……トニオ=タベルスキー!」
現れたのは中年の男、それも腹が出た恰幅の良い男だ。
「よおエクムント、また会ったな。『彼女』を呼び出すってことは相当な大事件なんだな? まぁいいや、さっさと始めようか。30分したら『彼女』を呼んでくれ」
そう言って彼は仕入れたばかりの料理の材料をもって厨房の中に入って料理を始める。
「あら? エクムント、ここで何してるの?」
「ああ、これはこれはエリン姫様、これからあなたを救える力を持った者を呼び出すところです。見せましょうか?」
「私を救える人……? わかった。見せてちょうだい」
エリンがエクムントに気づいたのはトニオを召喚してから大体30分が経っていた。
「分かりました。では……」
彼は本を広げる。文字が光りだし召喚の儀式が行われる。
「召喚……純白の聖母!」
現れたのは銀色の髪と黄金色の瞳をして、日常生活を送る上では少し邪魔になりそうな多めの金の飾りがついた服を着た、8~9歳程度の少女……
その割には胸は並の大人より大きいという妙な子供だった。
ほがらかな雰囲気に満ちていて蝶や花が周りを飾っていそうな可愛らしい女の子だった。
「久しぶりね。エーちゃん」
「ご無沙汰しております」
「私を呼ぶってことは、トニオ君も来てるって事よね?」
「ええまぁ。既に準備は整っております。今なら出来立ての料理を食べられますよ」
「相変わらず手際が良いわねぇエーちゃんは。行きましょ」
メイドや執事たちが食事をとる部屋を借りてそのメニューは用意された。まだ労働を知らない子牛の肉を使ったビーフシチュー、ビーフステーキ、そしてハンバーガー。
彼女はスプーンでシチューをすくい、口に運ぶ。
「やっぱりこの味よねぇ。人間は弱いけど弱いからこうして知恵を絞るのね。それには私も敬意を払わないとね」
「貴女のようなお方に食事を提供する場所としては似つかわしくないかもしれませんがどうかお許しください」
「大丈夫よエーちゃん。気にしてないから」
「……何か人間じゃないような言い方だけど本当にこんな女の子1人で何とかできるものなの?」
エリンはエクムントと少女とのやり取りを聞いてる最中に感じた違和感を疑問という形でエクムントにぶつける。
「貴女も感づいているかもしれませんが『彼女』は人間に警戒心を与えないようにあの姿をしているだけです。
考古学者の意見が正しければ少なくとも『彼女』は3000年以上前から人類を見守っていながら生きているそうです」
「さ、さん……!?」
突拍子もない言葉に耳を疑った。
「い、一体あの子は何者なの!?」
「乱暴に言いくるめて言えば……『神』ですかな」
「!?」
意味が分からなかった。この後、毒竜を討伐する彼女の姿を見て納得するのだが、この時の彼女はまだわからなかった。
【次回予告】
準備は整った。後はあの忌まわしき毒竜を討伐するのみ。
第20話 「毒竜討伐戦」
「トニオ、元気か? ワームの肉の件は上手くいったか?」
「よおエクムント、またお前か。ワーム肉のステーキやもつ煮込みは大盛況だったぜ、ありがとな」
社交辞令にも似たお礼の話をしつつ、本題を切り出す。
「トニオ、仕事の依頼だ。明日の昼に子牛の肉を使ったビーフシチュー、ビーフステーキ、そしてハンバーガーを作ってくれ。
悪いがこれを最優先で作ってくれ。他の仕事は全て断ってほしい。キャンセル料は全額払うよ」
「俺を呼んでそれらを作れってことは『彼女』を呼ぶって事か? まるで専属シェフになった気分だな。まぁ悪くねえけどな」
「いいじゃないですか『彼女』の食事を作るなんて人によっては末代まで誇りに思える最高の名誉なんですし。厨房は現地の城の物を使うよう手配しておきます」
「分かった。明日はちょうど店が休みだから仕事のキャンセルは無いぜ。じゃあ明日会おうな」
トニオとの通信を終え、直後別の者と通信を開始する。
「お久しぶりです。そちらはお変わりありませんでしょうか?」
「あら、その声は……確かエーちゃんね。お久しぶりね」
聞こえてくるのはかわいらしい少女の声。だがエクムントはその正体を知っている。並の信仰者ではその姿を拝めることすらできないという伝説の存在だ。
「『貴女』のお力をどうしてもお借りしたいのですがよろしいでしょうか? もちろん最高品質の牛肉料理も手配いたします。明日の昼でよろしいでしょうか?」
「分かったわ。久しぶりの運動になりそうね、明日の昼に会いましょうね」
通信を終えた。
翌日……エクムントは城の厨房を少しの間貸してほしいと頼み込み許可をもらう。許可を取れた後、彼は城の中庭で召喚を行う。彼は召喚魔法が刻まれた本を広げる。
「召喚……トニオ=タベルスキー!」
現れたのは中年の男、それも腹が出た恰幅の良い男だ。
「よおエクムント、また会ったな。『彼女』を呼び出すってことは相当な大事件なんだな? まぁいいや、さっさと始めようか。30分したら『彼女』を呼んでくれ」
そう言って彼は仕入れたばかりの料理の材料をもって厨房の中に入って料理を始める。
「あら? エクムント、ここで何してるの?」
「ああ、これはこれはエリン姫様、これからあなたを救える力を持った者を呼び出すところです。見せましょうか?」
「私を救える人……? わかった。見せてちょうだい」
エリンがエクムントに気づいたのはトニオを召喚してから大体30分が経っていた。
「分かりました。では……」
彼は本を広げる。文字が光りだし召喚の儀式が行われる。
「召喚……純白の聖母!」
現れたのは銀色の髪と黄金色の瞳をして、日常生活を送る上では少し邪魔になりそうな多めの金の飾りがついた服を着た、8~9歳程度の少女……
その割には胸は並の大人より大きいという妙な子供だった。
ほがらかな雰囲気に満ちていて蝶や花が周りを飾っていそうな可愛らしい女の子だった。
「久しぶりね。エーちゃん」
「ご無沙汰しております」
「私を呼ぶってことは、トニオ君も来てるって事よね?」
「ええまぁ。既に準備は整っております。今なら出来立ての料理を食べられますよ」
「相変わらず手際が良いわねぇエーちゃんは。行きましょ」
メイドや執事たちが食事をとる部屋を借りてそのメニューは用意された。まだ労働を知らない子牛の肉を使ったビーフシチュー、ビーフステーキ、そしてハンバーガー。
彼女はスプーンでシチューをすくい、口に運ぶ。
「やっぱりこの味よねぇ。人間は弱いけど弱いからこうして知恵を絞るのね。それには私も敬意を払わないとね」
「貴女のようなお方に食事を提供する場所としては似つかわしくないかもしれませんがどうかお許しください」
「大丈夫よエーちゃん。気にしてないから」
「……何か人間じゃないような言い方だけど本当にこんな女の子1人で何とかできるものなの?」
エリンはエクムントと少女とのやり取りを聞いてる最中に感じた違和感を疑問という形でエクムントにぶつける。
「貴女も感づいているかもしれませんが『彼女』は人間に警戒心を与えないようにあの姿をしているだけです。
考古学者の意見が正しければ少なくとも『彼女』は3000年以上前から人類を見守っていながら生きているそうです」
「さ、さん……!?」
突拍子もない言葉に耳を疑った。
「い、一体あの子は何者なの!?」
「乱暴に言いくるめて言えば……『神』ですかな」
「!?」
意味が分からなかった。この後、毒竜を討伐する彼女の姿を見て納得するのだが、この時の彼女はまだわからなかった。
【次回予告】
準備は整った。後はあの忌まわしき毒竜を討伐するのみ。
第20話 「毒竜討伐戦」
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