21 / 26
第21話 テッド=ヴラド
しおりを挟む
オレ様は『魅了スキル』を持ってこの世に生まれた。両親や兄はもちろんの事、メイドや庭師に至るまで全員オレ様の下僕だ!
アイツもコイツも全部オレ様の手のひらの上! 最強だ! 無敵だ! 神だ! オレ様は新世界の神になったんだ!
ヴラド王国家次男、テッド。彼は『王国の法律に基づいて合法的に』国王の権利を譲渡され、弱冠12歳で王の座に就いた。
だが人の上に立つための教育をまともに受けておらず、肩書上はテッドが15歳になるまで代理で国を治める側近も全員魅了スキルで操り人形。
遊んでばかりの贅沢三昧な日々を送るテッドにまともな統治などできるはずもなく、あっという間に国土は荒れていった。
それでも魅了スキルの効果は絶大で、誰も逆らうものはいなかった……テッドが自分の魅了スキルに気づいてそれを使うようになった7歳の時から数えて6~7年ほどまでは。
魅了スキルは『耐性』がつく。同じ人間を長期間魅了しているとだんだん利かなくなってくる。しかも魅了スキルで操られていた時、何をされたかも覚えているというオマケつき。
となると、魅了スキルによって操られた者たちは反撃してくるはず。だがそうはならなかった。
テッド自身、この魅了スキルの欠点に気づいていた。だから殺すことにしたのだ。まず最初は実の両親。そして血のつながった兄。彼は13歳の頃に親類を処刑したのだ。
テッドは彼らを「魅了スキルが効かなくなった」というのを「神様であるオレ様に逆らった罪」として『王国の法律に基づいて合法的に』ギロチン台へと送ったのだ。
オレ様は無敵だ! オレ様は最強だ! 神であろうと魅了して見せる! うやまえ! へつらえ! こびを入れろ! 新世界の神であるテッド様のお通りだ!
「……」
テッドに関する夢を見るのは、彼にとって最悪の目覚めだ。その日、神を信じていないエクムントは珍しく朝から教会へと足を運んだ。
かれこれ1時間ほど祈りを捧げ続ける彼を見て、神父が話しかけてきた。
「冒険者の方ですな。随分熱心に神に祈りを捧げておりますな」
「……あいにく私は信心深いわけではありません。むしろ逆で神なんて信じていません。
もしも神というのが本当に居るのなら、私のような大罪人は今すぐ裁きの炎に焼かれるべきなのに一向に来やしませんからね。
こうして1人の人間としてのうのうと呼吸をし、のうのうと食事を食べ、のうのうと水を飲み生きている。
それ自体が大間違いなほどの罪を犯しているのに何年もの間誰にも裁かれませんからね。神というのはおそらく人間が作ったまやかしでしょう。
それでもこうしてせめてもの贖罪として神に祈りを捧げてしまうのは不思議なものですね」
「……」
沈黙が辺りを支配する。
「旅の方、これだけは覚えていてください。神はあなたを愛しています。たとえこの世にあなたの味方が誰一人いなくなったとしても神は常にあなたの傍にいます。
神に祈れば現世で犯した罪は清められ、その魂は神の元へと導かれるでしょう。最も救いようの無い悪人にこそ、神が必要なのです」
「……これはご内密にしてほしいのですがよろしいでしょうか? 神に誓って誰にも口外しない、と」
「良いでしょう。お話しください」
エクムントは周りに自分たち2人以外に誰もいないことを確認したうえで語りだす。
「私は父を殺しました。母も殺しました。兄も殺しました。その他数えきれない程の人を殺し続けてきました。
どれも傲慢でおごり高ぶる自分の身を守るためという酷くワガママで身勝手な理由でです。犯した罪の大きさ、重さは、一生かけても償いきれるものではないのだと思います。
せめてもの罪滅ぼしとして身銭を切って3つの孤児院の経営を陰から支えていますし、世界を旅して困っている人の役に立つように仕事をしていますが、
その程度では到底犯した罪の深さを埋めるほどには至らないでしょう」
そう言った後、再び互いに黙った。
「……善行を積んでいますな。たいそう立派ではありませんか、3つの孤児院に出資しているとは!」
「私が今現在積んでいる善行なんて、殺してきた人数や迷惑をかけた人数に比べれば屁みたいなものですよ。一生涯かかっても到底償いきれるものではないですよ。
では私はここで失礼させていただきます。お話を聞いてくださってありがとうございました。神のご加護を」
そう言ってエクムントは教会を去った。
エクムントは本当のところは、救われたいのだろう。
だからせめてもの罪滅ぼしに孤児院に資金を提供し、世界を旅して人材を使い困っている人の役に立つようにしているが、彼の犯した罪の重さ……
具体的に言えば圧政の維持のために殺し続けてきた人間の数や、その人たちの周りにいる人にかけた迷惑の重さに比べたら、到底自分は救われるに値しない人間だろう。
今更善人ぶって罪滅ぼしだと善行を積んだところで何になる? 殺した人間はどんな能力でも生き返らせることなどできないというのに。
【次回予告】
エクムントは『捨てた故郷』へと戻ってくる。迎え入れてくれたのは、かつての妻だった。
第22話 「エルフィーナ」
アイツもコイツも全部オレ様の手のひらの上! 最強だ! 無敵だ! 神だ! オレ様は新世界の神になったんだ!
ヴラド王国家次男、テッド。彼は『王国の法律に基づいて合法的に』国王の権利を譲渡され、弱冠12歳で王の座に就いた。
だが人の上に立つための教育をまともに受けておらず、肩書上はテッドが15歳になるまで代理で国を治める側近も全員魅了スキルで操り人形。
遊んでばかりの贅沢三昧な日々を送るテッドにまともな統治などできるはずもなく、あっという間に国土は荒れていった。
それでも魅了スキルの効果は絶大で、誰も逆らうものはいなかった……テッドが自分の魅了スキルに気づいてそれを使うようになった7歳の時から数えて6~7年ほどまでは。
魅了スキルは『耐性』がつく。同じ人間を長期間魅了しているとだんだん利かなくなってくる。しかも魅了スキルで操られていた時、何をされたかも覚えているというオマケつき。
となると、魅了スキルによって操られた者たちは反撃してくるはず。だがそうはならなかった。
テッド自身、この魅了スキルの欠点に気づいていた。だから殺すことにしたのだ。まず最初は実の両親。そして血のつながった兄。彼は13歳の頃に親類を処刑したのだ。
テッドは彼らを「魅了スキルが効かなくなった」というのを「神様であるオレ様に逆らった罪」として『王国の法律に基づいて合法的に』ギロチン台へと送ったのだ。
オレ様は無敵だ! オレ様は最強だ! 神であろうと魅了して見せる! うやまえ! へつらえ! こびを入れろ! 新世界の神であるテッド様のお通りだ!
「……」
テッドに関する夢を見るのは、彼にとって最悪の目覚めだ。その日、神を信じていないエクムントは珍しく朝から教会へと足を運んだ。
かれこれ1時間ほど祈りを捧げ続ける彼を見て、神父が話しかけてきた。
「冒険者の方ですな。随分熱心に神に祈りを捧げておりますな」
「……あいにく私は信心深いわけではありません。むしろ逆で神なんて信じていません。
もしも神というのが本当に居るのなら、私のような大罪人は今すぐ裁きの炎に焼かれるべきなのに一向に来やしませんからね。
こうして1人の人間としてのうのうと呼吸をし、のうのうと食事を食べ、のうのうと水を飲み生きている。
それ自体が大間違いなほどの罪を犯しているのに何年もの間誰にも裁かれませんからね。神というのはおそらく人間が作ったまやかしでしょう。
それでもこうしてせめてもの贖罪として神に祈りを捧げてしまうのは不思議なものですね」
「……」
沈黙が辺りを支配する。
「旅の方、これだけは覚えていてください。神はあなたを愛しています。たとえこの世にあなたの味方が誰一人いなくなったとしても神は常にあなたの傍にいます。
神に祈れば現世で犯した罪は清められ、その魂は神の元へと導かれるでしょう。最も救いようの無い悪人にこそ、神が必要なのです」
「……これはご内密にしてほしいのですがよろしいでしょうか? 神に誓って誰にも口外しない、と」
「良いでしょう。お話しください」
エクムントは周りに自分たち2人以外に誰もいないことを確認したうえで語りだす。
「私は父を殺しました。母も殺しました。兄も殺しました。その他数えきれない程の人を殺し続けてきました。
どれも傲慢でおごり高ぶる自分の身を守るためという酷くワガママで身勝手な理由でです。犯した罪の大きさ、重さは、一生かけても償いきれるものではないのだと思います。
せめてもの罪滅ぼしとして身銭を切って3つの孤児院の経営を陰から支えていますし、世界を旅して困っている人の役に立つように仕事をしていますが、
その程度では到底犯した罪の深さを埋めるほどには至らないでしょう」
そう言った後、再び互いに黙った。
「……善行を積んでいますな。たいそう立派ではありませんか、3つの孤児院に出資しているとは!」
「私が今現在積んでいる善行なんて、殺してきた人数や迷惑をかけた人数に比べれば屁みたいなものですよ。一生涯かかっても到底償いきれるものではないですよ。
では私はここで失礼させていただきます。お話を聞いてくださってありがとうございました。神のご加護を」
そう言ってエクムントは教会を去った。
エクムントは本当のところは、救われたいのだろう。
だからせめてもの罪滅ぼしに孤児院に資金を提供し、世界を旅して人材を使い困っている人の役に立つようにしているが、彼の犯した罪の重さ……
具体的に言えば圧政の維持のために殺し続けてきた人間の数や、その人たちの周りにいる人にかけた迷惑の重さに比べたら、到底自分は救われるに値しない人間だろう。
今更善人ぶって罪滅ぼしだと善行を積んだところで何になる? 殺した人間はどんな能力でも生き返らせることなどできないというのに。
【次回予告】
エクムントは『捨てた故郷』へと戻ってくる。迎え入れてくれたのは、かつての妻だった。
第22話 「エルフィーナ」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる