傷跡傭兵の強制結婚-実子かどうかはどうでもいいので義理の息子を溺愛します-

同軸

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4.side:ジャスパー_妻が毒で倒れた

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 やむを得ずレピドの専属騎士まで連れていくこととなった遠征は想定より早く終わった。レピドは元気にしているだろうか、そしてあの日自分の妻となった男はどう癇癪を起こして過ごしているだろうか。レピドに手を上げていないか心配だったのだが、使用人からの報告は邸宅を思うままにうろついてレピドに取り入ろうと必死になっているとのことだ。以前妻になった女は癇癪が酷く、財を壊れた蛇口のように使い、邸宅に男を連れ込む上レピドに手を上げるとんでもない女だった。更に前の女はどうだったか……酷い様であったことは覚えている。そのせいか、手を上げていないだけマシに思える。だが少し関心を寄せただけで何をし始めるか分からないのが人間というものだ。数々の経験からレピドに害なす者か否かという点以外とことん無関心を貫いた。使用人もその前例から新たな妻には冷たく当たっている可能性があるが……節度は保っていると信じておこう。
 この邸宅に戻るのも久方ぶりだ。邸宅という名のほぼ城だが、城は別に持っていたため区別するために邸宅と言っている。その城の存在ももちろん新たな妻には明かしていない。即刻遠征に駆り出された自分にはそんな暇もなかった。
 扉が開き使用人たちが両サイドにズラリと並び、その奥にレピドと黒に身を包んだあの美しい男が立っていた。レピドは元気そうにしているようで何よりだが、まだこの大勢が揃う空気感には慣れていないようだ。そんな中妻は緊張するでもなく、この邸宅での扱いに嘆き縋り付くでもなく、ただ静かにレピドの隣に佇んでいた。この邸宅に足を踏み入れたものはその財に目が眩み、どれだけ淑やかな者もすぐに豹変するが、あの服を見るにそういう訳ではないようだ。それどころか、どれほど着飾った派手で絢爛な女どもより数倍美しく見えて少々感嘆した。服の力やいくつもの宝石をあしらえた胸飾りの力を借りて己を美しく見せようとはせず、華奢な己の美しさをより際立たせる黒と刺繍と僅かな飾り。あれを意図してやっているなら相当の手練だろう、今回は中々に手強そうだ。
 あれから食事ではレピドと十分に話し、妻とは日中の生活に満足しているかと形式的なもののみといった会話をする日々が続いた。妻は一貫して満足しているという言葉のみを聞かせてくるが、そんな訳があるかと眉をひそめた。妻のことをまだ試している部分がある。しかし彼から受けた要望は金のことでもなく、待遇のことでもなくレピドのことだけだった。それは俺が帰還した夜のこと。妻本人と護衛のカルセドが「レピドに異様な執着心を見せている使用人がいる」と報告をしてきた。カルセドの証言もあるのだから、妻がレピドを出汁に俺の気を引くと言う考えを持っている訳ではなさそうだ。注意深く見ておこう。
 思いのほかレピドが妻に懐いており、また妻もレピドを目にかけており、翌日の修練の約束を取り付けるなどしていた。俺が妻に大して気を使えていないことに何の不満も持っていないのだろうか。今回は異世界からの使徒であるため、今までの勝手が通用しない。それからと言っていいもの、俺は妻のことが気になって仕方がなかった。気を引くという点でのみ、今回の妻は狙わずとも成果を出していたのだ。

「妻の様子はどうだ。先月はどれほど散財しているんだ?」
 妻は使徒として月の下旬に顕現したから先月といっても数日だ。ただこれでとてつもない金額が飛んでいるのならそいつは本物であろう。だが前回の妻の傾向とは全くといって良いほど外れていた。
「その……散財というものは無いに等しく」
「なんだと?服は何着買ったんだ、貴金属は」
「こちらでご用意しておいた服以外、購入した形跡はございません、ああ、強いていえばレピド様の修練剣とダミーを注文されました」
 どうやら今回の妻は自分を着飾ることに興味がないのかもしれない。男女の性の差というものもあるかもしれないが。
「……普段はどう過ごしている」
「邸宅を散策されたり、レピド様の剣をみたり、それから騎士団の訓練も見ておられます。それに影の物の指導まで」
「なぜ影に気付いている。それが妻の神聖力なのか?」
「神聖力は恐らく未だ発現しておりません」
 気を引きたいだけなのか、クロムの言うそれが本来の妻の姿なのか。前者であれば数週間もすれば本性を現すだろう。
 しかし影のこととなると妻の異常さが垣間見える。影は使用人たちでは行き届かない監視を行ったり、汚れ仕事を任されたりしている存在だ。基本的には気配を消した上で行動しているのだから、自分以外が彼らに気づくことはまず無い。
「引き続き様子を見ておけ」
「かしこまりました」
 クロムが退室し、腕を組んで窓から修練場を見た。妻が騎士たちと対戦形式で訓練を行っており、騎士が次々と負かされていくのを見て思わずため息を吐いてしまった。騎士は精鋭の者たちで構成しており日々過酷な訓練を抜かりなく進めているため、戦場でも十分経験を積んでいるはずなのだが。
「メニューを強化する他ないか」
 息をのむほど美しい剣捌きにしばらく見入ってしまっていると、妻が急に動きを止めた。
「なんだ……?」
 妻が膝をついて踞り
 血を吐いて倒れた。

 修練場にたどり着くと、騎士のうち1人がこちらに気付いて慌てて状況を説明した。妻のそばでレピドが必死に師匠と呼んでいる。
「隊長!奥様が急に血を吐いて倒れてしまい……」
「どの剣か、毒は塗られていないか」
「それがまだ誰も奥様には修練剣で触れることすら出来ておらず、遠距離から針が刺さった形跡もありません!」
「なら蓄積による可能性がある。体制はそのまま、妻を寝室に運べ。寝室には俺と医者以外入れるな」
「はっ!」
 騒然として運ばれる中、妻が少し声を出した。
「ジャス……パー……」
「!おい、お前のその症状に何か心当たりは――」
 この時、妻の名前すら把握していないことに気付いてしまった。
「この、世界の、ゲホッ……毒に……耐性が……」
「もういい、喋るな」
 血を吐きながら必死に伝えようとしている様子を見ると流石にいたたまれなくなる。

 後日、妻の体内から「ラディアの毒」が検出されたと報告があがった。
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