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五章:アベリ平原
39 真面目に考えるべきことは意外と転がってる
しおりを挟むウェグニア中央部から西部にかけて広がる広大な平原。現在でこそ丘陵などの起伏も少ない草原として知られているが、魔海が出来た頃は地中の岩盤を丸ごと抉り出したかのような荒廃した剥き出しの大地だった。長い年月をかけて雨風が大地を潤し、徐々に緑を実らせ多くの生命を育む土地となった。極めて劣悪な環境を経て生態系を形成してきた経緯から、そこに棲むものはどれも一癖も二癖もある難物揃いだ。
見た目にはどこにでもある平野。視界を遮るものは少なく見晴らしは良好。
故に、その土地では単純明快な力こそが全てだ。
筆者においても取材の度に何度も命の危険に晒された。今でこそ笑い話ではあるのだが、左手の小指一本で済んだことが奇跡のように感じている。
地を駆ける獣、空を飛び獲物を掠め取る鳥、日中は地中に潜み夜間に油断した獲物を地面ごと丸のみにする地蟲……人にとっても実りが多いということは、その他の生命にとってもそうであるということ。ここはいわばある種の楽園だ。こと魔海において、不毛の大地と呼ばれていたウェグニアにとって、危険を賭してでも赴く価値のある豊穣の地。
彼の地が如何に豊かな大地であるかは後述するとして、本書を拝読頂いている諸氏へまず伝えておかなければならないことを記す。
決して水辺に近づいてはならない。
奴らは獲物が近づいて来るのを息を殺して虎視眈々と待ち構えている。
――『魔海道楽紀行』より抜粋 著:エスコード・ゲロ・ビガス
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見渡す限りの青い空。地平線まで見える緑生い茂る草原。少し目を凝らせば動物や魔物が闊歩する姿を直接見ることも出来るくらいには見晴らしがいい。
自然という名の原風景みたいだ、なんてらしく言ってみたらアルナミアさんは呆れた表情を浮かべた。言う前からずっとそんな顔はしてたけど。
ラスタの街を飛び出して丸一日経った。何もかも後で考えればいいと、とにかく街を離れたい一心で走り続けてようやく心の余裕が出来たってことで街道沿いを歩きながらお話していたところ。
内容は主に私の迂闊さについて。
珍獣亭へ駆け込んだとき、アルナミアさんもアイリスも私の右腕がないことには真っ先に気づいていた。アイリスはひどく取り乱して言動も支離滅裂に私に抱き着いてきた。アルナミアさんは冷静に「後で全部聞かせて」と手際よく私の分まで身支度を済ませてくれた。でもすごく物申したい雰囲気は包み隠さず解き放ってたね。アルナミアさんが静かに怒るタイプだとは思わなかったから気まずくてものすごく話しかけ辛かったんだけど、このまま何も話さないのは信頼してないみたいで嫌だった。怒られそうだから話しかけたくなかったんだけど。
案の定、というか当たり前に怒られた。
割と本気で怒ってた。胸倉掴まれて凄まれたときは冗談抜きで怖かった。目とかオーラで人間くらいならショック死させそうな雰囲気してたもん。かわいいのにアルナミアさんもれっきとした魔族なんですね、って言ったら目を見開いて顔を真っ赤にしながら平手打ちしてきた。当たらなかったけど。手を上げた瞬間にビリっとしてその場に蹲ってたけど。隷属の術式も早いとこ解除しないといけないのに。悪いのは全部私だから本当に申し訳ない。返す言葉もないぐらいには反省しなきゃと思った。
「……本当にごめんなさい」
「あつつ……この術式、しれっと対障壁貫通の式まで組みこんでるのね。身体全体を覆ってたのに全然効いてなかったわ」
「……ごめんなさい」
何度も謝る私を、やはり呆れたような表情で見る。
失望……させちゃったかな。何とかゼロになりかけてた好感度ががくっとマイナスに戻ってたりしてもおかしくない。
「……どうせ迷宮に潜ってるんだろうって思ってたけど、あんたなら大丈夫だって助けに行かなかったから……そんな顔しないでよ」
それはアイリスを宿屋で一人にさせておけないから残ってくれてただけで助けに来なかったこととは話が違うと思う。
私が迂闊だったって話なのに。アルナミアさんが引け目を感じる必要はないのに。
<何と言いますか、お互い面倒な性格してますよね>
気まずい雰囲気をぶち壊すように頭に呑気な声が響く。
<いや、『俺が迂闊だった!すまなかった!』『そうね!次からは気を付けてね!』ぐらいで済む話じゃないですか。何をぐちぐちと引き摺ってるんですか。あれですか。青春真っ盛りなお年頃ですか>
二十数年生きてきた性格を今更どうこう言われても変えられないよ。っていうか、幻聴じゃなかったんだ。
<あれだけお話しておいて幻聴だと思ってたんですか御主人は!? ルヴィ、ちゃんと転生のことも喋ってましたよね!?>
極限状態になるとそういうこともあるってよくある話じゃん?
<ルヴィを走馬燈の類と一緒にしないで欲しいですね。これでも空気読んで話かけるの我慢してたんですよ>
今そこわざとルビ振ったろ。
<翻訳のミスじゃないですかね。それより御主人、ちょっと糸出してもらっていいです?>
糸って、あれか。指輪から出るやつ。誰の?
<そちらの魔族の方のをバレないようにこっそりと。ちょっと確認です>
一瞬出すだけなら繋がらないしそれでいいか。これでいい?
<……はい。もういいです>
なんか色が変わってたような……前って黒だったよね?
<見事にオレンジ色になってますね。それはそうと、このまま気まずい雰囲気で旅をされても面白くないので一つアドバイスしましょう>
ルヴィって突然会話の流れぶった切るよね……アドバイス?
<御主人に足りなかったのは偏に備えです。持ち得る手札は多いのにそれを取るべき手段を知りません。迷宮での一連の出来事にしても今この状況においても。ファンタジーが好きなのは大いに結構ですが、もう少しご自身のことをよくお考えになってはどうでしょうか>
分かってる、なんて言うのはただの反発心かな。色々足りてないのは自覚してる。いや、自覚した。
<差し当たっては余計なことを考えずに御主人が今一番思っていることを深く考えてみては?>
そうする。ありがとう。
<いえいえ。それではルヴィはしばらく作業に入りますので。御主人の腕がぶった斬られた弊害で体内の魔素が妙にざわつき始めて居心地悪いんですよ>
魔素……? 魔力じゃなくて?
<その辺はおいおい説明します。幸い迷宮のように余裕のない戦闘に身を置いている訳でもないですし。それでは>
腕……か。全力で治癒術はかけたんだけど傷口を塞いだだけだったな。
右肩に手を伸ばす。傷口はもうない。完全に塞がってしまっていて昔からそうだったみたいに滑らかな肌がそこにあるだけ。
正直なところ治癒術でいくらでも治るだろうって高を括っていた。右手がスプラッタな感じにひしゃげた瞬間も、自分で腕を吹き飛ばしたときも、心のどこかでたかが腕一本失ったところでって思ってた。
浅はかだったんだろう。現実をファンタジーの一部だと勘違いしていた。
考えなきゃいけないのはそういうところだろう。なまじゲームのような目線で見ているせいか甘く考えていた。軽視していた訳じゃない。考え方が甘すぎたんだ。
少し前にルフさんにどうこう言っていたのが恥ずかしく思える。世界を甘く見ていた奴があんなことを……なんて見下されても仕方ない。
うん。気持ちを切り替えよう。今回の件は手痛い授業料ということで次へ生かそう。腕一本で済んでよかったと後から思えるように。
情報が要る。知識が、常識が。この世界のことを私はあまりにも知らない。
そのためには誰かに話を聞かなければいけない。幸いにも、私にはいつでもそばにいる魔族が一人いる。
「アルナミアさん」
「……なによ」
「教えてください。この世界のことを。何も知らない馬鹿な冒険者がこの先無茶をしないように」
「……長くなるわよ?」
「構いません。とっくに必要に迫られていたのに、考えが甘かったんです」
知ろう。一つずつでも。
何はともあれまずは自分のために。
生きるために。
「いいわ。で、何から話せばいいのかしら?」
「魔海大戦。その経緯をお願いします」
「うん。それ長すぎてこっちが無理」
いきなり躓いた。
見るとアルナミアさんは呆れを通り越して無理やり納得するようにうんうんと何度も頷いている。顔を伏せているのは目の前の事実から目を背けたいからか。
人がそれを何と呼ぶか知ってる。
諦め。
……そんなに何かを諦められるようなことを訊いただろうか。
私が常識知らずなのは認めるけど。
「ようやく真面目に考えるようになったと思ったら斜め上のことを訊くのね……じゃなくて、戦争の経緯よりも先に考えることがあるでしょ」
「というと?」
「ああ……ちょっとはマシな顔するようになったと思ったのにやっぱりあんたはあんたか……腕ぶっとばされても思ったよりはけろっとしてるし……」
「まあ、その、すみません?」
これでも結構真面目に考えた末の質問だったりする。
む……アルナミアさんの中で私はいったいどんな人物に見えてるのか気になってきた。
常識知らずで考え無しってのは確定だけど……他にも色々とありそう。
「あのね……最低限の荷物を抱えて街を飛び出して今はここアベリ平原の街道沿い。外に出る準備なんて全くしてなかったし、食糧だって全然ないし、水だって同じく全くない。この意味は分かる?」
「食べ物飲み物に困るってことですよね。でもぱっと見ただけで魔物の類は結構いますし水だってどこかにあるだろうからそんなに慌てることでもないと思うんですが」
「じゃあ訊くけど、あんたは魔物のどの部位が食用に適していてどの部位に猛毒があるとか、飲み水に適した水場の選択とか、そういうの分かるの?」
「それは分かりませんけど、毒があったって私は別に――あっ」
そうだ。ぱっと見ただけでそこら中に食べ物なんて転がってると思ったけど、よくよく考えたらそんなに単純な問題じゃなかった。
私は平気だとしてもアルナミアさんとアイリスはいたって普通の人。龍毒すら空気のように感じる私と違って毒なんか口にしたらひとたまりもない。ある程度は治癒術でなんとかするつもりで考えてたけど、それだって対応外の代物を引き当てたら対処のしようがない。
飲み水だってそうだ。普通にきれいな水場があると勝手に思ってる。実際見渡せる平原のあちこちにそれらしき水源は見えるんだけど、当然魔物なんかもそこら中にたむろしてる。毒性を持ってる魔物が口をつけた水源の水なんか、汚染されて飲めないかもしれない。
それに、これまで一度もなかったけど、普通に魔物の襲撃を受けることだってある筈。その際にどうやってアイリスを守りながら処理するか、戦闘を避ける方法自体はないのか、そういうことを全く考えてなかった。
なんとなく力押しでどうにかなるだろうって慢心してた。
それだって途方もない数の暴力で押されたらどうしようもなくなる。
本当に何も考えてなかった。
「ん。やっと気づいたかしら?」
「ちょっと、無防備過ぎましたね」
「そういうのは無防備じゃなくて無計画って言うの」
「はい……」
反省します。
「規格外なことばっかりするくせに常識的な意味では論外。あんたってほんと笑えるわ」
「まあ……頑張って汚名返上していきたいです」
「笑えるついでにアレを愉快な感じで処理とかしてみない?」
アレ。
アルナミアさんが顎でしゃくった先を見ると、何やら戦闘らしき光景が見えた。
馬車が数十台に護衛らしき武装した人がこれまた数十人。荷台で縮こまってるのと御者は馬車一台あたりにつきその三倍の数。だいたい百人ちょっとか。
見たところ隊商だろうか。隊商なんてみたことないけど、なんとなくそう感じた。
戦っている相手は……ゴブリン?
子供ぐらいの大きさで緑色の肌。個体差があるのか若干くすんで灰色っぽいのもいる。やたらでかいのもいるね。
それらが遠目にも粗末な武器を手に隊商を襲っていた。
人数差はほぼ無し。お互いの総人数では、という意味だけど。
「なんかゴブリンっぽいのが見えるんですけど、あれも魔物ですか?」
「ホルグよ。群れで動いて数で勝てそうな相手なら何でも襲う低級の魔物。人と比べて知性はほとんど無いも同然だけど、あんたからしたらあれも一応亜人の枠に入るのかしら?」
「私ってそこまで見境なく見えます?」
「あっちを助けようなんて言ったらそういう目で見るけど」
うん。普通に魔族の人達に助太刀しよう。ゴブリン……じゃなかった、ホルグには悪いけどそっちは攻略対象外。仲良くするだけなら別にいいけど、ルフさん達に向けていた感情を向けているって勘違いされるのは私の沽券に関わる。
いや、確かに人型だし話さえ出来ればって思う節はあるよ。あるけど……それとこれとはまた別の話。
「助けに行くのはいいんですけど、私だけ行くと逆に襲われませんかね?」
「殲滅派は確かに見境なく人間を殺すけど、それでも分かりやすく助けてくれるなら一応の尊重はするわよ?」
「そういうものですか?」
「そんなもんよ。だから、ちゃんと事情を話せば迷宮の件だって情状酌量の余地は十分あった筈よ。もう逃げちゃったから仕方ないけど」
「そっか……それなら無理に飛び出さなくてもよかったのかな」
「まあ十中八九感謝しながら殺されるだろうけどね」
「うん。殲滅派の人には基本的に近づかない方針で安定ですね」
それはそうとして、アレを助ける分にはたぶん問題ない。全然大した強さでもなさそうなホルグに苦戦してる人達だ。飛び交う魔術や剣技のキレはあまりに温くて欠伸なんか出てきそう。
あの人達が束になってかかってきたところで、手加減して戦闘不能にするぐらいは全然余裕だと思う。
左手に持っていた長杖をアルナミアさんに渡して軽く腕を回す。
「ん。杖要らないの?」
「誤射したら後が面倒なので安全に殴ってきます」
「その距離は全然安全じゃないんだけどね」
格闘戦は不得手だけど、これぐらいの相手なら怪我をする気もしない。
まずは一番近いところから撃破して、その後は接敵次第かな。
とりあえずローブを脱ぎ捨てて接近。数百メートルほど先で隊商の護衛を一人倒した集団がこちらに気づいて気味の悪い笑みを浮かべる。
あ。なんかゲスい感じする。露骨に手の動きがゲスい感じする。腰の動きとか特に露骨。
生理的な嫌悪感が背筋に悪寒となって走る。
うん。遠慮とか情けとか考えずにさくっと吹き飛ばそう。
適当に詠唱して“聖霊の威光”を一基展開する。
展開場所は自分の背中。発射する向きも自分。かなり魔力を抑えて、やや太めに。
何をするのかって? 撃つに決まってる。
アクレウスの盾を背面に全力で展開。と同時に聖霊の威光も放つ。ついでに地面を蹴って初速を獲得。
かなり乱暴なやり方だけど、高速で移動しつつ背面の障壁で拡散したレーザーが付近のホルグを乱雑に焼き払う。
魔力を抑えた上で一度障壁にぶつけてるから威力はかなり下がっている。それでも直撃したホルグは焼き切られて物言わぬ焼肉と化した。
ある程度の距離まで接近したところで聖霊の威光を停止、破棄する。
知性は低くても本能的にヤバイと察したのか、ホルグから気味の悪い動作は消えていた。
「ゲゲ、――グゲ!」
「一応訊いてみるけど、言葉って通じたりする?」
「グゲゲグゲ――エグ!」
小型の斧を振りかぶったホルグに問いかけてみるけど返答は無し。つまり戦闘止む無し。とっくに手は出してるから今更何をって感じだけど。
力いっぱい振り上げた斧を振り下ろしてくる前に、最短の動作でホルグの腹部に拳を突き出す。
打撃自体は大した威力でもない。筋力もひ弱な女の子が殴った程度の衝撃しかないだろう。実際殴られたホルグも「あれ、ものすごい勢いで飛んできた割に弱くね?」といった表情で次の動作に移ろうとしている。
いや、移ろうとしていた。次の瞬間に見たのは不自然な形の氷に貫かれて四散する己の身体だった。
「うん。氷華散月晶も調子いいね。絶対に誤射しないようにって考えたらこれしかないもんね。今の私には」
他は漏れなく余波がひどい。たぶんだけど、掠っただけでも死ぬ。
護衛の人達はギリギリで大丈夫だと思うけど、わざわざ護衛を雇ってる隊商の人達が障壁を展開出来るとも思えない。
誤射しなければいい話でもあるけど、聖霊の威光なんかで貫いたホルグの陰にうっかり隊商の人がいたら漏れなくキル数に追加だ。俯瞰視点で戦闘を見れる訳でもないからやらないほうが賢明。
杖を置いてきたのは単純に片手で扱えないから。利き腕じゃない左手で振り回したって戦力ダウン以外のなんでもないしね。
周囲のホルグが動揺するのが見て取れる。
だよね、直前にゲスいこと考えてただろうに。その相手が目の前で仲間を即死させたら、まあ、そうだよね。
でも悪いけど手は止めない。逃げたら他の人を襲うんでしょ。だったら今止める。
直線機動で何のひねりもないダッシュで近づく。ホルグは各々が武器を持っているけど、単に武器として振っているだけの技量では何の障害にもならない。
別に私が特殊な訳じゃない。普通に見てわかるんだ。今から振りますよーって感じがすごく見える。行動が遅いってわけでもなくて……うん、単純に動作が大袈裟なんだ。
護衛の人達もだいたい同じことを感じているみたい。一対一なら特に問題ない動きで圧倒しているし。ただ、囲まれるとどうにも途端に不利になるっぽい。
「ゲガグガ――!」
「背後を取ってもテンション上がりすぎて叫んじゃうのは、なんともお粗末だよね」
背後からとびかかってきた一体を障壁で受け止める。別に魔物に戦闘の何たるかを期待するわけでもないけど、何かおざなりすぎて気が抜ける。
迷宮で色々あったから感覚がズレたのかな。心に余裕が出来てるのは普通にありがたいんだけど。
心の余裕ついでにちょっと実験。
直接触れないと発動しない氷華散月晶の謎解きをしてみる。
本来は氷柱を飛ばして、直撃した相手を内側から串刺しにするもの。
どうにもこの氷柱を飛ばす過程を経ると本命の串刺しが発動しない。前から気にはなっていたんだけど、余裕のないぶっつけ本番であれこれ探るのも躊躇われたから、言っちゃなんだけどホルグは実験相手に都合がよかった。
とりあえず基本の確認。殴る蹴る体当たりする……色んな接触を試みる。
殴ると蹴るの部分は概ね発動した。正拳突き、手刀、肘打ち、前蹴り、膝蹴り、サマーソルト……露骨に掠っただけのやつでも発動したから、たぶん接触判定さえあれば問題ない。
体当たりに関しても一応発動した。一応、と付くのは多少自分も巻き込まれたから。手足で発動させるのと違って氷の拡散方向に統一性がなかった。平たく言えば自分の方にも氷柱が伸びてきた。障壁を張っているおかげで怪我とかはしなかったけど、普通にびびった。
「おい、あんた!遊んでるぐらいならこっち助けてくれよ!」
そんなこんなで三十匹程と戯れていたら何やら呼ばれた気がした。
そうだよ。この人達の助太刀に来たのに私は何をしてるんだろう。
死に物狂いで飛び掛かって来た一体を地面に打ち付けて振り返ると、護衛を失った馬車から悲痛な叫びと血飛沫を上げる商人の姿が見えた。
聖霊の威光で加速して荷台に乗りあがっていた一体を蹴り飛ばす。
身を縮こませていた商人の合間を縫って荷台の後方から外へ弾きだされたホルグが空中で四散する。
「か、金は出す!こいつらを何とかしろ――いや、してくれ頼む!」
む。上から目線なのはどうかと思ったけどすぐに自分の態度を改めた様子。私も別に気に食わないから見捨てるなんてことはしないけどさ。
荷台の前後に幅広の氷の刃を突き刺して侵入を塞ぐ。とりあえずこれで安全は確保したってことで。外を片付け終えたら砕きに来よう。
幸いにも他の馬車はなんとか抵抗を続けていた。壊滅してたのはここの馬車だけらしい。
私にホルグが殺到してたおかげで戦力差も大してない。けど、余計な負傷者を出すのもなんだしさっさと終わらせよう。
目算で残り五十体くらいかな。
気づいたらでかいのが姿を消していたけど、逃げ出したんならそれはそれで手間が減ってよかった。
終わるころには氷華散月晶の性能評価も済むだろう。
アルナミアさんが遠くの方をのんびり歩いて来てるのが見えて、助けた礼金とかの交渉を考えているんだろうなあとか思いながらホルグを蹴り飛ばす。
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