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第二章
命の値段と人助け
しおりを挟む-----冒険者side-----
「くそっ...!何でよりにもよってこんな時にッ─── !!」
俺は、周囲を囲み今にも飛びかからんとするウルフどもを睨みつけながら悪態をつく。
その数八匹。
普段の俺たちであれば取るに足らない相手だが、今戦えるのは二人だけ......。その上、背後からはゴブリンの集団も追いついてきやがった...。
森の奥地に出現したダンジョン。俺たちは指名依頼を受けてその調査を行なっていたのだが、トラブルに見舞われ、ポーション類を使い果たした末に撤退を決めた。
魔物は、弱った冒険者を執拗に狙う。
撤退途中、何度も魔物の襲撃にあった。
回復薬もない中での連戦で、一人、また一人と戦えなくなっていった。
パーティ唯一のAランクであるリーダーも、仲間を庇い深い傷を負いながらも動けなくなった一人を抱えてここまで走ったが、到着するなり倒れ込んでしまった。
森の出口には常に馬車が一台、護衛とともに止まっている事になっているため、そこまで辿り着ければ大丈夫だと思っていたのに...!
─── どういうわけか、その護衛がいなかった。
しかし奴らに苛立っている暇はない。
戦えるのは俺ともう一人のみ。
消耗した俺たちで切り抜けられるのか......?
背後の馬車で横たわっている仲間たちの姿を一瞥し、覚悟を決める。
「やるぞビンス......!」
「うおおおおお!!」
俺たちが叫ぶと同時に、一斉にウルフどもが跳躍した─── 。
~~~~~~~~~~~~~~
全力疾走で馬車に近付く。
戦っている冒険者は二人のようだ。御者は御者台の上から一心不乱に群がるゴブリンに鞭を振るっている。
数はそれほど多くはないが、彼らが劣勢に見える。
「フレイムランス」
彼らや馬車に当てないように、彼らから最も離れたウルフに狙いを定める。
炎の槍は鍛錬の結果、以前よりも速度も威力も増しており、ウルフは直前で気が付いたものの避ける事ができずに爆散した。
さらに魔法でもう一匹を撃破しながら接近する。
彼らは驚いた様子だったがすぐに状況を認識したようで、俺に言葉を投げてくる。
「反対側を!」
彼はそう叫びながら魔法でウルフの進行方向を変えさせ、待ち構えていたもう一人がそれを斬り伏せた。
(流石の連携だ)
内心で感心しながら、御者に群がるゴブリンに標的を定めて速度を上げる。馬車が近くて魔法は使えない。
剣を抜き放って突進し、数匹を屠りながら御者台に飛び乗って、御者を守りながらゴブリンを倒していく。
「ひぃぃぃ!...き、きみはっ─── !?」
驚く御者を尻目に剣を振い、それほど時間をかけずにゴブリン十数匹を片付ける。
反対側に回るとまだ三匹のウルフが残っていたので加勢する。
「うぐっ...す、すまねぇ、助かったよ......」
「流石に死ぬかと思ったぜ...」
魔物を倒し切ると、彼らは糸の切れた人形のように座り込んだ。
まさに満身創痍といった様子だ。身体は傷だらけで防具もボロボロだ。
─── さっきの連携...ベテランだと思うけど、何があったんだろう...?
だがまずは傷の治療が先だ。そう思って口を噤んだが、彼らは肩を上下させて座り込んだままだ。
疑問に思っていると、
「...すまねぇが、ポーション持ってないか?切らしちまってな。もちろん、金は多めに払う」
俺は頷いて二本のポーションを腰のポーチから取り出した。
男はそれを受け取ると、ポーチから大銀貨三枚を取り出して俺に手渡してくる。
俺が渡した中級ポーションは街で買えば一つあたり銀貨五枚の代物なので、相場の三倍の金額だ。
「多すぎる...!こんなに─── 」
「いや、妥当だ」
男はそう言うと、話は後だという感じでポーションを持って馬車に向かった。
自分には使わないのか?
そう思って馬車の中を見てみると、三人の男が横たわっていた。
彼は二本ともその三人に振りかけると、俺に向き直って口を開いた。
「おかげで助かった。代金に関してだが......見たところ、冒険者学校の生徒か?」
「あ、ああ」
「そうか。冒険者にとってこういうのは大事なんだ。それに今回は助力までしてくれたんだ、もっと要求したってバチはあたらねぇさ」
続けて、
「要はこれは感謝の印で、命の値段でもあるんだ。覚えときな。...まあ、俺が言うのも変な話だとは思うが」
「そうで...そうか、なら受け取っておくよ」
俺がそう答えると男は一瞬首を傾げながらも深く頷いた。
先輩然りといった感じだったので、つい敬語が出てしまいそうになった。
この世界では、敬語は基本的に地位が上の人間に対してのみ使うものなのだ。
でもなんというか、自分が尊大になったような感覚がしてむずむずする......。
その後は、全員で馬車に乗って街まで戻る事になった。
街にはさほど時間がかからずに着いたのだが、結局三人が目を覚ます事はなかった。中級では治しきれなかったのだ。
そのまま街の門を潜り、ギルドの手前で止まる。職員や冒険者が駆けつけ、彼らを建物の中に運んでいく。
手伝おうとする間もなかった。
後から知った事だが、冒険者ギルドには治療室というものがあるらしい─── 。
三人が運ばれ、動ける二人も肩を借りて馬車を降りた。
「本当に助かった。あんたがいなきゃ全員死んでた」
「ああ...」
じっと建物を見つめる俺の視線に気が付いたのか、男が言う。
「ん?あー、あいつらはちゃんと生きてるから安心しろ。ポーションがなきゃ危なかったがな」
再び俺に感謝してから、彼らはギルドの中に入っていった。
助けられて良かったぁ......。そういえば、結局何があったんだろう。帰ったら父さんに聞いてみよう。
でも、相場の三倍、命の値段、かぁ...。
なんだか...足元を見ているようで嫌な感じがするけど、そういうものなんだろうな...。
「けど、無事でよかった」
モヤモヤとした気持ちを抱えつつも、俺は少しばかり誇らしい気持ちで帰路に着いた─── 。
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