42 / 60
第二章
何かの前兆
しおりを挟む「はぁ、はぁ...」
カマキリの魔物を倒してから、どれだけの時間が経ったのか。数分か、数十分か、はたまた一時間ほどか。
戦いの末、俺たちは魔物の群れを全滅させた。
四日間、戦闘らしい戦闘をしていなかったのでつい張り切ってしまった。
...言葉にするとちょっと中二病っぽいかもしれないけど、なんか脳筋というか戦闘中毒みたいな感じになってる気がする...。
日本では喧嘩すらしたことなかったのに。
大きく息を吐き、焚き火からやや離れた木に背中を預けてズルズルと座り込む。
焚き火の周りは魔物の死体で溢れていたし、戦闘後の火照った体に暖は不要だった。
改めて見ると酷いな...。
テントは軒並み踏み荒らされていて、その機能を保持している物は一つもない。
踏み倒されたテントの上に魔物の死体が横たわっている光景を見ると、それは元から解体用のシートだったんじゃないかとすら思える。
幸い、死者は見当たらない。しかし騎士の中で無事なものは一人もおらず、俺たちの参戦は本当にギリギリのタイミングだったようだ。
「よかった...」
安堵のため息を吐くと同時、戦闘の高揚感が抜け落ちていく。
───1人じゃあ、なんにも出来なかったな...。
助けたかった。戦いたかった。そして自分ならできると思った。
あの時、ビューラーが助けてくれなかったら。
多分、負けることはなかった...と思う。
けれどそのためには火魔法は何度も使うことになっただろう。もしもうまくいってあの魔物を倒せたとしても、大火災が起きていたかもしれない───。
リーチも手数も向こうが上だった。
頭の中で戦闘を思い返してみても、剣だけで勝てるイメージは全く浮かばない。
それは、あの戦いが無謀であったという厳然たる事実を突き付けられているようだった。
「くそ......」
悔しさや情けなさ、やり場のない憤り。
無視のできない感情が胸の中に渦巻く。
...そしてその中にあって、ちらちらと顔を覗かせる熱いモノがあった。
いつもなら声をかけてくるビューラーも寄っては来ず、俺はそれらのやり場に困って頭上を仰いだ。
風を受けてカサカサと揺れる枝葉の隙間から、疎な星々の瞬きが覗いていた。
───もっと...もっと、強くなりたい。
~~~~ビューラーside~~~~~
戦闘が終わった後。
俺は一人座り込む"エル"に声を掛けようとした。
元々あいつのことはついつい、らしくもなく気にかけていた。
最初は単純に気になっただけだった。
ギルドから直接依頼を受けて集まったのは誰もが熟練の冒険者だ。
そんな中に、まだ15にもなっていないような子供がいた。
雰囲気と話し方で悪い奴じゃないのはすぐにわかったので、多少の面倒は見てやろうという気になったのが始まりだった。
そうして関わるうち、たった数日の付き合いだったが、俺はあいつを気に入った。
面白い奴だったし、自信に満ち日々を楽しんでいるその顔は懐かしい記憶を刺激した。
面白いと言えば、何よりも可笑しかったのは暇つぶしのポーカーの時、貴族───本人はあれで隠せているつもりらしく、それがまた面白い───であるあいつがたかが銅貨数枚負けたくらいでムキになっていたことだ。
冒険者学校の生徒で、こういう場に呼ばれるほどの実力と信用のある人間はいない。であれば残る可能性は絞られる。
微かに滲む気品に、エルという名前。しかも不自然に言い淀んだ。すぐに思い至るのも必然だっただろう。
そんなあいつには、向こう見ずなところがあった。
騎士たちが魔物に囲まれているという知らせが届いた時には真っ先に駆け出そうとしたし、救援に駆けつけた時には俺の制止を振り切って一番に魔物に斬りかかった。
俺もかつてそうだったように、自分から望んで冒険者になった者は、誰もが通る道だ。
そしてその多くが無謀な戦いで命を落とし、生き残った者は学習して"冒険"をやめる。
あいつも、俺が助けに入らなければどうなっていたかわからない。
色々と、抱え込んでいるんじゃないか。そう思って声を掛けようとしたが、俺は自然と口を噤んだ。
あいつの表情を見たからだ。
エルは、何かを予感させるような顔で天を見上げていた。
どこか懐かしい感じがする。
(そうか...)
壁にぶち当たった時、ほとんどの冒険者はその壁を避けるように冒険をやめる。
しかし稀に、その壁を真っ向から乗り越えぶち破って、"本物の冒険者"になる奴らがいる。
───それは余韻、変遷の途上。
「はは、あれは化けるかもな」
俺は呟き、身を翻した。
~~~~~~~~~~~~~~
遅くなりました...!
季節の変わり目で体調を崩すという恒例行事でした。
寒くなったかと思えば暑くなったり、また寒くなったり...。
皆さんも体調には気をつけてください!
262
あなたにおすすめの小説
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる