伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ

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第二章

何かの前兆

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 「はぁ、はぁ...」

 カマキリの魔物を倒してから、どれだけの時間が経ったのか。数分か、数十分か、はたまた一時間ほどか。

 戦いの末、俺たちは魔物の群れを全滅させた。

 四日間、戦闘らしい戦闘をしていなかったのでつい張り切ってしまった。
 
 ...言葉にするとちょっと中二病っぽいかもしれないけど、なんか脳筋というか戦闘中毒みたいな感じになってる気がする...。

 日本では喧嘩すらしたことなかったのに。

 
 大きく息を吐き、焚き火からやや離れた木に背中を預けてズルズルと座り込む。

 焚き火の周りは魔物の死体で溢れていたし、戦闘後の火照った体に暖は不要だった。

 
 改めて見ると酷いな...。

 テントは軒並み踏み荒らされていて、その機能を保持している物は一つもない。
 
 踏み倒されたテントの上に魔物の死体が横たわっている光景を見ると、それは元から解体用のシートだったんじゃないかとすら思える。

 
 幸い、死者は見当たらない。しかし騎士の中で無事なものは一人もおらず、俺たちの参戦は本当にギリギリのタイミングだったようだ。

 「よかった...」

 安堵のため息を吐くと同時、戦闘の高揚感が抜け落ちていく。

 
 ───1人じゃあ、なんにも出来なかったな...。

 助けたかった。戦いたかった。そして自分ならできると思った。

 あの時、ビューラーが助けてくれなかったら。

 多分、負けることはなかった...と思う。

 けれどそのためには火魔法は何度も使うことになっただろう。もしもうまくいってあの魔物を倒せたとしても、大火災が起きていたかもしれない───。

 
 リーチも手数も向こうが上だった。
 
 頭の中で戦闘を思い返してみても、剣だけで勝てるイメージは全く浮かばない。

 それは、あの戦いが無謀であったという厳然たる事実を突き付けられているようだった。

 「くそ......」

 悔しさや情けなさ、やり場のない憤り。

 無視のできない感情が胸の中に渦巻く。
 ...そしてその中にあって、ちらちらと顔を覗かせる熱いモノがあった。

 いつもなら声をかけてくるビューラーも寄っては来ず、俺はそれらのやり場に困って頭上を仰いだ。

 風を受けてカサカサと揺れる枝葉の隙間から、疎な星々の瞬きが覗いていた。

───もっと...もっと、強くなりたい。




~~~~ビューラーside~~~~~


 戦闘が終わった後。
 俺は一人座り込む"エル"に声を掛けようとした。


 元々あいつのことはついつい、らしくもなく気にかけていた。

 最初は単純に気になっただけだった。
 
 ギルドから直接依頼を受けて集まったのは誰もが熟練の冒険者だ。
 そんな中に、まだ15にもなっていないような子供がいた。

 雰囲気と話し方で悪い奴じゃないのはすぐにわかったので、多少の面倒は見てやろうという気になったのが始まりだった。

 そうして関わるうち、たった数日の付き合いだったが、俺はあいつを気に入った。

 面白い奴だったし、自信に満ち日々を楽しんでいるその顔は懐かしい記憶を刺激した。

 面白いと言えば、何よりも可笑しかったのは暇つぶしのポーカーの時、貴族───本人はあれで隠せているつもりらしく、それがまた面白い───であるあいつがたかが銅貨数枚負けたくらいでムキになっていたことだ。
 
 冒険者学校の生徒で、こういう場に呼ばれるほどの実力と信用のある人間はいない。であれば残る可能性は絞られる。
 微かに滲む気品に、エルという名前。しかも不自然に言い淀んだ。すぐに思い至るのも必然だっただろう。

 
 そんなあいつには、向こう見ずなところがあった。

 騎士たちが魔物に囲まれているという知らせが届いた時には真っ先に駆け出そうとしたし、救援に駆けつけた時には俺の制止を振り切って一番に魔物に斬りかかった。

 俺もかつてそうだったように、自分から望んで冒険者になった者は、誰もが通る道だ。
 そしてその多くが無謀な戦いで命を落とし、生き残った者は学習して"冒険"をやめる。

 あいつも、俺が助けに入らなければどうなっていたかわからない。

 色々と、抱え込んでいるんじゃないか。そう思って声を掛けようとしたが、俺は自然と口を噤んだ。

 あいつの表情を見たからだ。

 エルは、何かを予感させるような顔で天を見上げていた。

 どこか懐かしい感じがする。

 (そうか...)
 
 壁にぶち当たった時、ほとんどの冒険者はその壁を避けるように冒険をやめる。

 しかし稀に、その壁を真っ向から乗り越えぶち破って、"本物の冒険者"になる奴らがいる。


 ───それは余韻、変遷の途上。

 「はは、あれは化けるかもな」

 俺は呟き、身を翻した。







~~~~~~~~~~~~~~
遅くなりました...!

季節の変わり目で体調を崩すという恒例行事でした。

寒くなったかと思えば暑くなったり、また寒くなったり...。

皆さんも体調には気をつけてください!







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