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第二章
鉄剣のジーベルト
しおりを挟むなんとかグレゴリー先生の愛の特別指導を乗り越えた。
普段でさえ中々に厳しいのに、今日は重り付きだったので本気で死ぬかと思った。てか、あれは絶対殺しに来てた。
あんな目にはもう会いたくない。もう二度と文句は言わないようにしよう。俺はそう心に誓った(n回目)。
しかも、昨日は座学補修が終わってから夜遅くまで剣を振っていたので、若干寝不足で余計にきつかった。先のことを考えると不安だったし、一日全く体を動かさないのは落ち着かなかったのだ。
けどここまでスパルタなんだったらちゃんと寝とくんだった...。
ともかく、そんなこんなで基礎トレーニングを終えた後は、それぞれの使用武器ごとに分かれての授業になるのがいつもの流れだ。
俺もそのつもりで動こうとしたのだが。
「エルリック、お前はこっちだ」
そうグレゴリーに呼び止められた。なんなんだろうと思いながらも鍛錬場の隅までついていくと、休み明けの実技試験で俺の担当だった男がいた。
歳は二十代後半くらいだろうか。すらりとした鼻梁。無造作に分けられながらもどこか品のある金色の髪。やや青みがかった銀色の瞳は、うっすらと鋭利な輝きを湛えている。
単独Sランク、"鉄剣"のジーベルト。
───個人ランクS、それは国を代表する冒険者の一人であるということだ。
(試験の時も思ったけど、そんな人がなんでこんなとこに?)
「では、後はよろしく頼む」
「ああ」
グレゴリーはそう言ってジーベルトと握手を交わすと、困惑する俺の肩をポンと叩いて皆の方に戻って行った。
この感じだと、彼が俺に剣を教えてくれるんだろうか。もしそうなら有難い限りだ、と俺は期待に胸を膨らませる。
ここ最近伸び悩んでいた剣術のことも、何とかなるかもしれない。
なにせ彼は、鉄の剣一本でそこまで登り詰め、それゆえに"鉄剣"という二つ名で呼ばれるようになった男なのだ。しかも、この若さで。
フランツや、他の生徒たちから聞いた話を思い出す。
ともかく、彼の剣技に疑問の余地はない。
二人になると、ジーベルトが口を開いた。
「試験の時にも名乗ったが、ジーベルト・オルグレンだ。お前の父の依頼により、これから何日か、お前に本物の剣を教えてやる。ぬるい稽古などするつもりはない。覚悟しておけ」
「っ...エルリック・フォン・フェルディナントです。厳しいのは望むところです。よろしくお願いします!」
圧にやや気圧されながらも俺がそう返事をすると、彼は小さく鼻を鳴らして頷いた。
(父さんからの依頼?じゃあ試験の時に俺だけ担当がジーベルトだったのも、そういう理由だったのか。俺は何も聞いてないけど...)
いつまで教えて貰えるのか、どういう経緯でこうなったのか、そして何故父さんはこんな依頼を出したのか。
気になることは多かったが、俺は早く剣を教えてもらいたくてたまらなくなっていたため、一切の疑問は口にしなかった。
すぐに鍛錬が始まる。興奮と若干の緊張。
「まずは振って見せろ」
そう言われた俺は、その言葉に素直に従って素振りを始めた。
振り方は、入学前に父さんに教えてもらった頃からあまり変わっていない。数えきれないほど繰り返してきたその動作は、少し緊張しているくらいで乱れたりしない。
一通りの型を披露し終えると、今度は実際に剣を交えることになった。
「殺す気で打ち込んでこい」
「はいっ...!」
俺の実力を見るためか、積極的な攻勢は仕掛けてこなかったが、それでも俺の攻撃は悉くが最小の動きで的確に処理されていく。
(攻撃に集中できてこれか...いくらやっても届く気がしない)
鍛え上げてきたステータスに物を言わせて押し込もうともしてみるが、直線的になった剣撃は余計簡単にいなされてしまう。
ふいに繰り出されたカウンターの一撃は鋭く、そして重かった。
俺の剣は容易く弾かれ、気がつけば眼前に、陽光を受けてキラリと輝く剣先が突き付けられていた───。
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