伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ

文字の大きさ
56 / 60
第二章

クソゴリー②

しおりを挟む

「お前ら!ペースを落とすなっ!」

「は、はひっ...ぃ...!」

 グレゴリー脳筋ゴリラの胴間声が響き、遅れていた生徒数人のうち、一人が悲鳴のような返事を返す。

 他の人はその余裕すら無さそうだ。ちなみに、アルもその中にいる。

 今日は長期休みが明けてから三日目の授業日、そして座学補習の翌日だ。

 俺はダンジョンや鍛錬があったからよかったけど、さすがに体が鈍ってる生徒も多い。その上、心なしかいつもより鬼畜っぷりに拍車がかかっているような気がする。

 俺は余裕を残しながら言われていただけの周回を終え、鍛錬場の隅にゆっくりと歩いて向かおうとする。

 が、突然ガシッと肩を掴まれる。見るまでもない、ゴリ...グレゴリーだ。

 こ、この雰囲気は...愚痴がバレて引きずられていく時の...な、なんで、まだ何も言ってないのに...!?

 冷や汗をかきながらゆっくりと顔だけで振り向くと、鬼畜教官はニヤリとした笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。

「随分と余裕そうだな」

「え...?」

 いや、確かに疲労困憊ってわけじゃないけど...。
 言わんとしていることがよく分からずに困惑していると、彼は片手で俺の肩をがっしり捕まえたまま、もう片方の手で何かを押し付けて来た。

 え、なんか怖いんだけど...!?てか何これ?リストバンド...?

「それつけてまた走ってこい」

「?...わかりました」

 何をやらされるかとビビってたけど、まあ別にそれくらいなら何の問題もないな。

 若干拍子抜けしつつも言われた通りにリストバンドを両腕に着けていく。軽くて柔らかい布で、別に何も───

「っ...え?」

 そのまま走り出そうとした俺は、しかし、体勢を崩して地面に倒れ込んでいた。

 え、なんか急にめっちゃ重いんだけど!?

 さっきまでは軽く何の変哲もなさそうだったリストバンドが、突然鉛に変質したかのように重くなり、俺の両腕を地面に縫い付けてしまう。
 
 困惑してグレゴリーを見上げると、奴はニヤリと口元を歪めた。

「ああ、あとこれは足用だ」

 そう言って追加で同じものを二つ放り投げて寄越してくる。

 ぇ?嘘でしょ??立つのすらむずそうなのに...?

「まあ、流石に最初はきついだろうからな、俺も鬼じゃない。50周だな」

「は?」

 言っている意味がわからず、呆然とグレゴリーを見上げ、しばし見つめ合う。「何か問題でも?」とでも言いたげな表情で首を小さく傾げている。

「ああ、」

 すると彼は何かに気がついたように声を上げた。
 困惑のあまり言葉が出ないが、そんな俺の思いを読み取ってくれたのだろうかと一瞬、淡い期待を抱く。

「腕が重くて付け辛いのか」

 が、奴はそう言っていそいそと俺の足に重りを装着し始めた。

「よし。行っていいぞ。ああそれから、歩いたら鍛錬にならんからな。一分以内に一周出来なかったら、二周追加だ」

 いや「行っていいぞ」じゃないんだけど...!?
 


 

「か、かひゅ...はぁっはぁ...」

「...死にそうな顔してるぞエル。大丈夫か?」

「だい、はぁっ、じょぅぶ、ごほっうぇ、じゃない...」
 
 途中で何度か理不尽なありがたいペナルティをくらってもう死にそう...。


 重りを外すのすら億劫でしばらくそのまま倒れ伏す。少しずつ息が整って来ると、徐々に怒りが込み上げて来る。

 走ってる最中はしんどすぎてそれ以外の感情が湧かなかったけど、落ち着いたら文句の1つ、いや100個でも言いたい。

「あのクソバカ脳筋アホゴリラ...まじで1回しばきたい」

「ははは、わかる」

 同意するようにアルが笑うが、すぐに何かに気付いたように、

「あ」

 と短かく声を発すると、みるみる顔を青くさせていく。

 背後から感じる重厚なプレッシャーに嫌な予感。ギギギとゆっくり振り向くと、そこにはなんと当たり前のようにグレゴリー。

「どうやら、まだまだ元気が有り余っているようだなぁ」

「い、いや」

 なんとか言い逃れを試みるも問答無用でガシッと足を掴まれる。

「こ、このクソゴリラ!地獄耳すぎんだろっ!!」

「え、ちょ、なんで俺ま──く、くそがぁぁー!」

 


「またかよあいつら」

 鍛錬場に響き渡った二人の断末魔の叫びを聞き、周囲の生徒たちは、座り込んで肩で息をしながら笑うのだった。



「離れててよかったねフランツ」
「まあ、いつものことだからね...」












しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...