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第二章
クソゴリー②
しおりを挟む「お前ら!ペースを落とすなっ!」
「は、はひっ...ぃ...!」
グレゴリーの胴間声が響き、遅れていた生徒数人のうち、一人が悲鳴のような返事を返す。
他の人はその余裕すら無さそうだ。ちなみに、アルもその中にいる。
今日は長期休みが明けてから三日目の授業日、そして座学補習の翌日だ。
俺はダンジョンや鍛錬があったからよかったけど、さすがに体が鈍ってる生徒も多い。その上、心なしかいつもより鬼畜っぷりに拍車がかかっているような気がする。
俺は余裕を残しながら言われていただけの周回を終え、鍛錬場の隅にゆっくりと歩いて向かおうとする。
が、突然ガシッと肩を掴まれる。見るまでもない、ゴリ...グレゴリーだ。
こ、この雰囲気は...愚痴がバレて引きずられていく時の...な、なんで、まだ何も言ってないのに...!?
冷や汗をかきながらゆっくりと顔だけで振り向くと、鬼畜教官はニヤリとした笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。
「随分と余裕そうだな」
「え...?」
いや、確かに疲労困憊ってわけじゃないけど...。
言わんとしていることがよく分からずに困惑していると、彼は片手で俺の肩をがっしり捕まえたまま、もう片方の手で何かを押し付けて来た。
え、なんか怖いんだけど...!?てか何これ?リストバンド...?
「それつけてまた走ってこい」
「?...わかりました」
何をやらされるかとビビってたけど、まあ別にそれくらいなら何の問題もないな。
若干拍子抜けしつつも言われた通りにリストバンドを両腕に着けていく。軽くて柔らかい布で、別に何も───
「っ...え?」
そのまま走り出そうとした俺は、しかし、体勢を崩して地面に倒れ込んでいた。
え、なんか急にめっちゃ重いんだけど!?
さっきまでは軽く何の変哲もなさそうだったリストバンドが、突然鉛に変質したかのように重くなり、俺の両腕を地面に縫い付けてしまう。
困惑してグレゴリーを見上げると、奴はニヤリと口元を歪めた。
「ああ、あとこれは足用だ」
そう言って追加で同じものを二つ放り投げて寄越してくる。
ぇ?嘘でしょ??立つのすらむずそうなのに...?
「まあ、流石に最初はきついだろうからな、俺も鬼じゃない。50周だな」
「は?」
言っている意味がわからず、呆然とグレゴリーを見上げ、しばし見つめ合う。「何か問題でも?」とでも言いたげな表情で首を小さく傾げている。
「ああ、」
すると彼は何かに気がついたように声を上げた。
困惑のあまり言葉が出ないが、そんな俺の思いを読み取ってくれたのだろうかと一瞬、淡い期待を抱く。
「腕が重くて付け辛いのか」
が、奴はそう言っていそいそと俺の足に重りを装着し始めた。
「よし。行っていいぞ。ああそれから、歩いたら鍛錬にならんからな。一分以内に一周出来なかったら、二周追加だ」
いや「行っていいぞ」じゃないんだけど...!?
「か、かひゅ...はぁっはぁ...」
「...死にそうな顔してるぞエル。大丈夫か?」
「だい、はぁっ、じょぅぶ、ごほっうぇ、じゃない...」
途中で何度か理不尽なありがたいペナルティをくらってもう死にそう...。
重りを外すのすら億劫でしばらくそのまま倒れ伏す。少しずつ息が整って来ると、徐々に怒りが込み上げて来る。
走ってる最中はしんどすぎてそれ以外の感情が湧かなかったけど、落ち着いたら文句の1つ、いや100個でも言いたい。
「あのクソバカ脳筋アホゴリラ...まじで1回しばきたい」
「ははは、わかる」
同意するようにアルが笑うが、すぐに何かに気付いたように、
「あ」
と短かく声を発すると、みるみる顔を青くさせていく。
背後から感じる重厚なプレッシャーに嫌な予感。ギギギとゆっくり振り向くと、そこにはなんと当たり前のようにグレゴリー。
「どうやら、まだまだ元気が有り余っているようだなぁ」
「い、いや」
なんとか言い逃れを試みるも問答無用でガシッと足を掴まれる。
「こ、このクソゴリラ!地獄耳すぎんだろっ!!」
「え、ちょ、なんで俺ま──く、くそがぁぁー!」
「またかよあいつら」
鍛錬場に響き渡った二人の断末魔の叫びを聞き、周囲の生徒たちは、座り込んで肩で息をしながら笑うのだった。
「離れててよかったねフランツ」
「まあ、いつものことだからね...」
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