魔法仕掛けのルーナ

好永アカネ

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アレク編

魔法使いの街 5

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 攻撃が止んだ。
 ダランが手を下ろし、声がした方に訝しげな視線を送る。その顔がさも不快そうに歪んだ。
 取り巻きの二人も同じように顔をしかめている。
「うわ、ミスター・ビーだ」
「まだこの街にいたのか」
(なんだ?)
 うずくまっていたアレクは、呼吸を整えながら目だけを動かそうとした。すると、不意に何者かの手のひらが視線を遮った。
「君、大丈夫かい?」
 声はすぐそばから聞こえた。いつの間に近付いていたのか、一人の男がアレクに手を差し伸べ、顔を覗き込んできた。
 少し癖のある金髪と、大きなコバルトブルーの瞳を持った美丈夫である。彼の愛嬌のある微笑につられて手を取ると、アレクはほんの一息のうちに二本の足で立つことができた。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
 並んでみると男の方が頭一つ近く背が高かったので、アレクはぎょっとした。アレクも決して背の低い方ではない。つまり男は相当の長身ということになる。
 男はニコニコとした表情を崩さぬままで、ダランに顔を向けた。
「また弱いものいじめか? 相変わらず悪趣味だなぁ」
「う、うるせぇ」
 ダランとその仲間二人は、すっかり及び腰になっているようだった。とくに、座っていた二人は半ば腰を浮かして、逃げるタイミングを窺っているようにすら見える。
 アレクは事の成り行きに戸惑っていたが、それはダランも同様だった。彼は切羽詰まった表情で、懐から素早く鉛筆大の尖った棒を取り出した。
「とっと失せろ!」
 ダランが叫ぶと、男は「わぁ、怖い」と言ってアレクにしがみつくように体を密着させてきた。
「魔法使いの杖だよ~。あいつ本気で魔法を使うつもりだよ。こっちは使えないのに、ひどいよねぇ。俺、あんまり運動神経が良くないから、当たっちゃうかもなぁ~。痛いんだろうなぁ~」
 男の声は明るく、緊張感のカケラもなかった。男の腕の中にいるアレクは、まともに身動きできないことに気付いて肝を冷やした。
(煽ってどうするんだよ!)
 だが、再び火の玉が飛んでくることはなかった。
 仲間二人が慌てて駆けてきて、ダランを両脇から取り押さえたからだ。
「ダラン、もう行こうぜ」
「なんだよお前ら!」
「あいつに関わるのはよそう、な?」
 彼らはそうやってもみ合いながら、街の中心に向かってじりじりと移動していった。
 三人の姿が見えなくなると、男はようやくアレクを解放した。
「やれやれ困った奴らだ。君、災難だったなぁ」
「……はい、まぁ。えぇと……ありがとうございました」
 アレクは彼にヒヤヒヤさせられた手前、素直に礼を言いにくかった。対して、男はけろっとしている。
「気にしなくていいよ。あいつをからかうのは俺の趣味みたいなものだから」
「……」
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