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アレク編
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「とにかく魔法使いの協力を得る必要がある」
というのが、兄の親友を名乗った男——ジョージの言だった。
「さっきも言ったけど、トラップを無効化できるのは魔法使いか招待状だけだ。招待状は発行されるまで何日かかかるし、そもそも申請できるのは魔法使いだけだから、協力者を見繕って連れてきた方が早い。
当てがあるから案内しよう。たぶん力を貸してくれるんじゃないかな。フリードのことは俺も気になっていたから、同行させてもらうよ。いいよね?」
彼がそう言って返事を待たずに歩き出したので、アレクは慌てて後を追った。
長身の彼とは歩幅に差があるはずだが、ゆったりとした歩調だったので、あっさり追いついて無理なく並んで歩くことができた。
「その……ホーネットさん!」
「ジョージでいいよ、アレク」
「……ジョージさん、ええと、いろいろ教えてくださってありがとうございます。森に入れなくて、どうしようかと思ってたんです」
「あぁ、もう試してたのか。知らないで行ったら混乱したろう。
他にも、この街は『外』とは違って魔法使いが基準になっているから、そうじゃない人間が不自由することはよくあるんだ。初めてなら尚更さ。ま、俺と一緒にいる間は安心していいよ」
アレクは彼の人好きのする笑顔を見ていると、徐々に自分の緊張がほぐれていくのを感じた。相手の所作を観察する余裕すら出てくる。
(なんというか、堂々とした人だな)
アレクの故郷の村には時折旅の芸人一座がやってくる。村人たちの数少ない娯楽の一つだ。ジョージの大仰な仕草や話し方は、なんとなく芝居の演者に似ているような気がした。ついでに見目の良いところなど、いかにもといった感じだ。
ジョージは今のところは社交的で、立ち居振る舞いが洗練されているように見える。同じ魔法使いでもないのに、どちらかというと閉鎖的な兄とどのように知り合ったのか? アレクの頭に疑問の芽が出た。
アレクにとって兄のフリードは、優しいけれどおっとりとしていて野暮ったい、地味な男だった。手紙によると兄はほとんど家を出ない生活をしているようだし、この二人が親しくしているところはどうにも想像しにくかった。
(本当に親友なんだろうか?)
もしかして自分は担がれているのでは? 疑いだしたら止まらない。そう簡単に騙されないぞと言わんばかりに、アレクは矢庭に警戒を強めた。
歩いているうちに、徐々に人通りが増えてきた。街の中央へと続く通りである。
(どこに連れて行く気だろう)
恩人を疑うのは心が痛んだが……いや、そもそも仕組まれたものかもしれない。これから人気のないところに連れて行かれて、さっきの乱暴な魔法使いに感動の再会、なんてこともありうる。
平和な田舎育ちにしては、アレクは用心深かった。
「ジョージさん」
振り返ったジョージは、ただならぬ様子のアレクを見て不思議そうに眉を上げた。
「なんだい?」
「兄さんとはどういう関係なんですか?」
ジョージがいよいよ目を丸くする。
「うん? どういうって……友達だよ。それはもう長い付き合いのね。あいつのことは君が生まれる前から……おっと、失礼。すぐに追いつくからそのまま、まっすぐ歩いていてくれ」
ふとアレクの背後に目をやったかと思うと、ジョージはそう言い残して離れていってしまった。
「え? ちょっと!」
アレクは後を追おうとしたが、すれ違う人に行く手を阻まれてしまう。まだ人混みの中を歩き慣れていないのだ。結局、流れに任せて直進するしかなかった。
やきもきしていると、数分後にひょっこりジョージが戻ってきた。
「ごめんごめん、久しぶりに見る露店があったから、寄ってきた。
はい、君の分。ランチまだだろ?」
返す言葉に迷ってぽかんとしているアレクに向かって差し出されたのは、大きなサンドイッチだ。
反射的に受け取ってしまったが、疑念はまだ残っている。
(まさか毒入りなんてことは……)
「遠慮するなって。うまいよ」
言ってすぐ、ジョージは「あっ」と声をあげて天を仰いだ。
「しまった。そのサンドイッチ、ピクルスが入ってるんだ」
「それがどうかしたんですか?」
アレクが聞くと、ジョージは驚いた顔をした。
「好きなの?」
「まぁ、はい」
彼は眉根を寄せて、アレクの顔と、その手の中のサンドイッチを交互に睨んだかと思うと、次の瞬間には相好を崩して、ふっと笑った。
「顔はそっくりなのに好みは似てないんだな」
アレクはハッとした。
(そう言えば兄さん、ピクルスだけは苦手だったな)
ジョージは懐に抱えた大きな紙袋から、アレクが持っているものと同じサンドイッチを取り出して、口いっぱい頬張った。ゆっくりと咀嚼してごくりと飲み込み、サンドイッチを見つめたままのアレクをちらりと見下ろしてくる。
「ところで、なんの話をしてたんだっけ?」
「……さぁ、なんでしたっけ」
アレクは言いながら、サンドイッチを口元に持っていく。かじりつくと、包み紙とレタスがパリパリと音を立てた。何度か噛むと、ハンバーグの肉汁と酸味のあるソースが口いっぱいに広がった。
「……うまいです」
「だろう? もう一つ食べる?」
「いただきます」
というのが、兄の親友を名乗った男——ジョージの言だった。
「さっきも言ったけど、トラップを無効化できるのは魔法使いか招待状だけだ。招待状は発行されるまで何日かかかるし、そもそも申請できるのは魔法使いだけだから、協力者を見繕って連れてきた方が早い。
当てがあるから案内しよう。たぶん力を貸してくれるんじゃないかな。フリードのことは俺も気になっていたから、同行させてもらうよ。いいよね?」
彼がそう言って返事を待たずに歩き出したので、アレクは慌てて後を追った。
長身の彼とは歩幅に差があるはずだが、ゆったりとした歩調だったので、あっさり追いついて無理なく並んで歩くことができた。
「その……ホーネットさん!」
「ジョージでいいよ、アレク」
「……ジョージさん、ええと、いろいろ教えてくださってありがとうございます。森に入れなくて、どうしようかと思ってたんです」
「あぁ、もう試してたのか。知らないで行ったら混乱したろう。
他にも、この街は『外』とは違って魔法使いが基準になっているから、そうじゃない人間が不自由することはよくあるんだ。初めてなら尚更さ。ま、俺と一緒にいる間は安心していいよ」
アレクは彼の人好きのする笑顔を見ていると、徐々に自分の緊張がほぐれていくのを感じた。相手の所作を観察する余裕すら出てくる。
(なんというか、堂々とした人だな)
アレクの故郷の村には時折旅の芸人一座がやってくる。村人たちの数少ない娯楽の一つだ。ジョージの大仰な仕草や話し方は、なんとなく芝居の演者に似ているような気がした。ついでに見目の良いところなど、いかにもといった感じだ。
ジョージは今のところは社交的で、立ち居振る舞いが洗練されているように見える。同じ魔法使いでもないのに、どちらかというと閉鎖的な兄とどのように知り合ったのか? アレクの頭に疑問の芽が出た。
アレクにとって兄のフリードは、優しいけれどおっとりとしていて野暮ったい、地味な男だった。手紙によると兄はほとんど家を出ない生活をしているようだし、この二人が親しくしているところはどうにも想像しにくかった。
(本当に親友なんだろうか?)
もしかして自分は担がれているのでは? 疑いだしたら止まらない。そう簡単に騙されないぞと言わんばかりに、アレクは矢庭に警戒を強めた。
歩いているうちに、徐々に人通りが増えてきた。街の中央へと続く通りである。
(どこに連れて行く気だろう)
恩人を疑うのは心が痛んだが……いや、そもそも仕組まれたものかもしれない。これから人気のないところに連れて行かれて、さっきの乱暴な魔法使いに感動の再会、なんてこともありうる。
平和な田舎育ちにしては、アレクは用心深かった。
「ジョージさん」
振り返ったジョージは、ただならぬ様子のアレクを見て不思議そうに眉を上げた。
「なんだい?」
「兄さんとはどういう関係なんですか?」
ジョージがいよいよ目を丸くする。
「うん? どういうって……友達だよ。それはもう長い付き合いのね。あいつのことは君が生まれる前から……おっと、失礼。すぐに追いつくからそのまま、まっすぐ歩いていてくれ」
ふとアレクの背後に目をやったかと思うと、ジョージはそう言い残して離れていってしまった。
「え? ちょっと!」
アレクは後を追おうとしたが、すれ違う人に行く手を阻まれてしまう。まだ人混みの中を歩き慣れていないのだ。結局、流れに任せて直進するしかなかった。
やきもきしていると、数分後にひょっこりジョージが戻ってきた。
「ごめんごめん、久しぶりに見る露店があったから、寄ってきた。
はい、君の分。ランチまだだろ?」
返す言葉に迷ってぽかんとしているアレクに向かって差し出されたのは、大きなサンドイッチだ。
反射的に受け取ってしまったが、疑念はまだ残っている。
(まさか毒入りなんてことは……)
「遠慮するなって。うまいよ」
言ってすぐ、ジョージは「あっ」と声をあげて天を仰いだ。
「しまった。そのサンドイッチ、ピクルスが入ってるんだ」
「それがどうかしたんですか?」
アレクが聞くと、ジョージは驚いた顔をした。
「好きなの?」
「まぁ、はい」
彼は眉根を寄せて、アレクの顔と、その手の中のサンドイッチを交互に睨んだかと思うと、次の瞬間には相好を崩して、ふっと笑った。
「顔はそっくりなのに好みは似てないんだな」
アレクはハッとした。
(そう言えば兄さん、ピクルスだけは苦手だったな)
ジョージは懐に抱えた大きな紙袋から、アレクが持っているものと同じサンドイッチを取り出して、口いっぱい頬張った。ゆっくりと咀嚼してごくりと飲み込み、サンドイッチを見つめたままのアレクをちらりと見下ろしてくる。
「ところで、なんの話をしてたんだっけ?」
「……さぁ、なんでしたっけ」
アレクは言いながら、サンドイッチを口元に持っていく。かじりつくと、包み紙とレタスがパリパリと音を立てた。何度か噛むと、ハンバーグの肉汁と酸味のあるソースが口いっぱいに広がった。
「……うまいです」
「だろう? もう一つ食べる?」
「いただきます」
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