→🎊異世界転生が流行っているので1ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件

ノアキ光

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#239 視線を縫い留める

 目が合った瞬間、相手を“その場に縫い止める”能力。

 それが、俺が異世界転生で授かったスキルだった。

 スキル名は《監禁する視線(ロック・オン)》。

 厨二病くさいが、効果は絶大だ。
視線が交差した対象は、物理的にも魔法的にも一歩も動けなくなる。
まばたきするまでの間、完全拘束。
魔王軍の幹部だろうが、暴走ドラゴンだろうが、ピタリと止まる。

 ――ただし。

 相手も俺を見ている間は、俺も動けない。

 最初の実戦でそれを知った。

 王都を襲った黒騎士。
群衆をかき分け、俺はとっさに彼を見据えた。

「止まれ!」

 がちん、と空間が凍る。

 黒騎士は剣を振り上げたまま硬直。
だが俺もまた、腕を上げたまま像のように止まっていた。

「え、ちょ、これ解除どうやんの?」

 周囲の時間だけが流れ、俺と黒騎士だけがにらめっこ。
汗が頬を伝う。
まばたきしたら負けだ。
いや、勝ち負け以前に、まばたきした瞬間に斬られる。

 そのとき、背後から小さな声がした。

「勇者様、目薬です」

 王女だった。

 彼女は震える手で俺の瞳に一滴たらす。反射的に、俺は目を閉じた。

 ――ぱちん。

 拘束が解けたのは、俺ではなく黒騎士の方だった。

 彼はそのまま崩れ落ちる。
剣を振り上げた姿勢のまま、数十秒間、全身の筋肉が限界まで緊張していたらしい。

「……なるほど」

 俺は理解した。

 このスキルは、相手を閉じ込める力じゃない。

 “視線を交わした二人を、同じ場所に閉じ込める”力だ。

 それは戦場だけでなく、日常でも厄介だった。

 市場で値切ろうと商人を見つめれば、互いに固まる。
酒場で美女と目が合えば、永遠の沈黙。
魔王との最終決戦では、壮絶なにらめっこが三時間続いた。

 世界最強の勇者と、世界最悪の魔王。

 互いに一歩も動けず、ただ見つめ合う。

「……なあ勇者よ」

「なんだ魔王」

「これ、引き分けでよくないか?」

 俺たちは同時に吹き出し、同時にまばたきした。

 魔王の剣は振り下ろされず、俺の聖剣も届かない。

 ただ、世界は静かになった。

 視線は、人を縛る。

 だが同時に、同じ場所に立たせる。

 俺は王女と向き合う。今度は、意識してまばたきをする。

「世界を救った勇者様、ですね」

「いや。ただ、ちゃんと目を合わせただけだよ」

 この力の本当の名前は、きっと《対話》。

 監禁なんて、物騒な呼び名をしていただけなのだ。
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