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#93 公式に導かれた異世界
僕は数式が好きだった。特にシンプルな公式には、宇宙そのものが凝縮されているように感じていた。
だから、大学の数学科で研究に没頭する日々は、まさに天国だった。少なくとも、研究室で例の「公式」に出会うまでは。
それは奇妙な公式だった。ゼミの教授が「未解明の古代数学」として話題にしたが、論文の出典すら曖昧だった。見た目は単純な三角関数のようだが、解こうとするとまるで歪むように振る舞い、どれだけ計算しても結果が一致しない。まるで解そのものが揺れているかのように。
ある夜、キャンパスで一人、黒板に向かってその公式と格闘していると、不意に現実が揺らいだ。文字通りだ。黒板の公式が輝き、次の瞬間、僕の体は光に包まれた。
目を覚ますと、そこは異世界だった。見渡す限り広がる白砂の大地、青い双月が空に浮かんでいる。だが、それよりも驚いたのは、目の前に立つ女性だった。銀髪の美しい顔立ちにローブをまとい、杖を手にしている。
「あなたが“公式”に導かれし存在なのですね?」
彼女の声には驚きと期待が入り混じっていた。
「公式……?」
僕は混乱して聞き返した。
「はい、この世界では『魔法の公式』と呼ばれるものです。それを解読できる者が現れると、異世界から召喚されると伝えられていました。」
どうやら僕が異世界召喚された原因は、あの解けない公式らしい。この世界では、公式を解くことが「魔法」を生み出す鍵であり、数学者や魔法使いたちが何世紀にもわたり挑戦してきたが、いまだ成功者はいなかったという。
「で、僕に何をさせたいんです?」
「公式を解いて、この世界を救ってほしいのです!」
期待に満ちた瞳が僕を射抜く。だが、ふと気づいた。彼女が見せたその「公式」は、僕があの夜、研究室で見たものと同じだった。そして、ひらめきが閃光のように頭を貫いた。
「あ……わかった!」
僕は石の地面に手を伸ばし、指で公式を描き始めた。魔法陣のように数字と記号が並んでいく。最後に一つの答えを導き出すと、空間が震え、光が溢れた。
「すごい……!」
彼女は目を見開いてつぶやく。
その瞬間、公式から放たれた光が僕を再び包み込み、気がつくと、また研究室の黒板の前に立っていた。
時計を見ると、異世界での出来事は一瞬の出来事だったようだ。だが、黒板の公式を見ると、そこには新たな解が浮かび上がっていた。その解をもとに研究を進めた結果、後に僕はフィールズ賞を受賞することになるのだが、それはまた別の話である。
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