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#94 数え歌
「一つとや、数えられれば終わりの印……」
その不気味な数え歌は、どんな民謡集にも載っていなかった。深夜の帰り道、酔いの回った足元で、小さな古びた人形が歌い始めたのだ。
恐怖よりも興味が勝り、人形を拾い上げて一緒に歌ってみる。
「一つとや……」
途端、地面が崩れ、暗闇が僕を呑み込んだ。
目を覚ますと、そこは見知らぬ異世界だった。空は血のように赤く、歪な岩肌が広がる荒野。奇妙なことに、頭の中にはあの数え歌が響いて止まらない。
「一つとや、数えられれば終わりの印……」
「おい、そこの者!」
振り向くと、鎧に身を包んだ男が駆け寄ってきた。
「お前、どこでその歌を聞いた!」
「いや、突然現れた人形が歌ってて……」
男の顔が青ざめた。
「まずい。歌い終える前に止めなければ、世界が崩壊する!」
事情を聞くと、この世界では数え歌が「呪詛」そのものであり、歌い終える者は世界そのものを終わらせてしまうという。過去に数人の「数え歌持ち」が召喚され、皆、途中で命を落としたらしい。
「だから俺も殺されると?」
「違う。だが一つでも数を間違えれば、歌は止まらず、世界が滅ぶ。」
恐ろしい話だが、僕には抜け道がある気がした。数え歌に取り憑かれてしまったのなら、それを逆手に取るしかない。
冒険の途中で僕は、ついに「十つ」の歌詞に到達した。目の前には巨大な歪みが広がり、世界が崩壊を始めている。
歌を止める方法は一つ。「十つ」の次に続くはずの「数」を歌うことだった。しかし、この世界の住人たちは「十一」という概念を持たない。「十」を超えた数を認識する者は、神ですらいないという。
「十一とや……!」
最後の一節を歌うと、歪みがピタリと止まり、赤い空が青に変わった。
「お前……『十一』とは何だ?」
住人たちは僕に問いただすが、それをどう説明すればいいか分からない。ただ、僕が「数」を超えた「概念」を持っていることが、この世界を救ったことは確かだった。
その日から僕は「十一の神」として崇められることになるが、あの人形が再び現れるのではないかと、気が休まらず、安心できない日々を過ごしている。
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