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#223 転生したら鋼の剣だった件
しおりを挟む目が覚めたとき、私は鋼だった。
鏡もないのに、それがわかった。重く、冷たく、ただまっすぐな自我があった。私は剣だった。
「おお……これは、喋る剣か?」
最初に私を拾ったのは、まだ十にも満たない少年だった。両親を魔物に殺され、復讐を誓ったという。私を鞘から抜き、目を輝かせて言った。
「強くなってやる。こいつで全部切り捨ててやる!」
私はその刃として、彼の腕となり、敵を討った。最初は獣。次に山賊。やがては兵士、そして国王。
血に濡れた刃が鈍ることはなかった。
だが、ある日ふと思った。
「私は、彼の手足なのか? それとも、彼の意志を導いているのか?」
言葉を発せば、少年は私を信じた。私が「切れ」と言えば切った。「許せ」と言えば許した。
人は剣を持つことで強くなるというが、剣に心があれば、それはもはや人ではない。
やがて彼は、世界の王になった。だが私は、鞘に収められたまま動かなくなった。
「なぜ使わない?」
と私は聞いた。
久々に意識を開いた少年――いや、今や偉大な王となった男は答えた。
「お前に頼りすぎた。いや、お前の声を、自分の声だと思い込んでいたのかもしれない」
「後悔しているのか?」
「わからない。ただ、すべてを切り捨てたこの手に、何が残ったのか……それを考えるのが、怖い」
彼は私を神殿に封じた。二度と誰にも持たせないように。
私は静かに眠る。鋼のまま、言葉もなく、意志もなく。
かつて語る剣だった私は、ようやく悟った。
沈黙こそが、刃(やいば)のあるべき姿なのかもしれない。
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