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ノアキ光

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#13 ゴーストライター (オカルト)

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 田中はヘッドフォンを外すと、驚いた表情で私を見た。

「……いやぁ、素晴らしい。こんなにも心に響く曲を作ることが出来るなんて、キミの才能は恐ろしいね」

 私は「いや」と小さく首を横に振る。

「ありがとう、と言いたいところなんだけどね、実はこの曲は、私が作ったんじゃないんだよ」

「え? そうなのかい?」

「ああ。キミから依頼を受けた時、忙しくて時間がなくてね、友人の中村くんに頼んだんだ」

「へえ、そうなのかい。でも、この曲は本当にいいよ。ぜひ一度、こんな素晴らしい曲を作れるというその中村くんに、会ってみたいんだけど」

「ならこれから会う予定があるから、キミもついてくるといいよ」

 私が田中を連れて中村くんの家を訪ねると、中村くんは田中を見て「えっと」と視線で私に説明を求めた。

「ああ、この人は私の音楽仲間の田中だよ。ほら、この間キミに曲作りを頼んだだろ。あれは元々、田中から依頼されたものだったんだ。だけど、私が忙しかったからキミに頼んだのさ」

 中村くんは「なるほど」と納得した様子で頷いた。すると田中は、半歩前に出る。

「いやー、あんな素晴らしい曲を作れるなんて、凄い才能ですね」

 すると中村くんは、「いやー」と苦笑を浮かべ、後頭部に手を当てる。

「恐縮です、と言いたいところなのですが、実はあの曲、自分も忙しかったんで、知り合いに頼んだんですよ」

「え? じゃあ、あの曲は誰が?」

「先輩の、佐藤さんって人です」

 すると田中が、「えっと」と訊ねる。

「その佐藤さんの連絡先を教えて貰ったりすることって出来ますか? これだけ素晴らしい曲を作れる人に、ぜひ一度、お会いしてみたいのですが」

「あ、それなら今から会いに行きますか? 佐藤さんの家、すぐそこなんです。歩いて行けますよ」

「ならぜひ、お願いします」

 私、田中、中村くんの三人は、素晴らしい曲を作ったという佐藤さんの家に向かった。

 中村くんがインターホンを押すと、『はいはい』と応答のあと、すぐに玄関の扉が開いた。

 そして佐藤さんが出てきたその時、「え?」と田中が驚くような声を出した。

「ちょ、ちょっと待ってください。佐藤さんって、あの佐藤さんだったんですか」

「知り合いなのか?」

 私が問いかけると、田中は「ああ」と頷く。

「そもそも、僕がキミに曲作りを頼んだのは、僕がこの佐藤さんから曲作りの依頼を受けたけど忙しくて……あれ?」

 数秒間の沈黙を経て、私と田中は「嘘だろ」とそれに気付いた。

「……じゃあ一体、あの曲は誰が作ったんだ?」

 すると、「え?」と佐藤さんは驚き、中村くんをじっと見つめる。

「そういや中村、お前、確か交通事故に遭ったんじゃ……」

 私と田中が中村くんに視線を向けると、中村くんは口の端に不敵な笑みを浮かべた。

 彼は、軽症で済んだのだったか、それとも、ゴーストライターだったのか……。
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