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ノアキ光

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#14 人生が約束されたこの幸運 (切なく温かい)

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 ふと気がついたら、そこにいた。何故かは解らない、どうしてそこにいるのかもわからない。解っているのは、確かにあったぬくもりが無くなってしまっていると言う事だけだった。

 心細さに身動きすると、誰かの身体に触れた。これは誰だろう、と思って思いつく。これは多分兄弟の身体。そしてふいに記憶がよみがえった。

 確か自分と兄弟は、母さんの側にいたはずだった。母さんが美味しいお乳をくれるのに、競い合って飲んでいたのだ。では母さんはどこに? 母さんがいない、泣き声が出てしまった。隣で兄弟も同じく鳴いている、どうすればいいのだろう?

 ふと、何かの気配がしたので顔を上げてみた。びっくりするほど大きくて、多分顔だろうけど鼻が低くて凄く変な顔が見えた。

「この子たちまだ小さいから、譲渡用にしたほうがいいだろう」

「母犬は仕方ないな、可哀想だが」

 何故その言葉の意味が分かったのか、それこそよく解らないけど、でも母さんのことも言っているのは解った。

「子供たち、笑いなさい。尻尾を振りなさい、この人間たちに気に入られなさい。そうして生き延びて」

 いきなり母さんの声がした。兄弟全員それが聞こえたのは事実で、「母さん」と全員が鳴いた。

「元気で生きるのよ」

 それきり母さんの声は、途絶えた。どうしよう、どうすればいい? 兄弟全員で目を合わせて相談する。母さんの言う事に従うのが一番いい、と上の兄さんが言った。笑って、尻尾を振る。母さんがいないのに、でも笑って尻尾を振れば。

「この子たちも譲渡犬ですか?」

「そうです、昨日保護したばかりです」

「可愛いですね、1匹もらって行こうか」

「欲しいなあ」

「貰っていただけるのは嬉しいですが、しっかりと世話が出来る自信のある方にお願いしています。途中で飼えない
と、またここに出戻りになるので、それは絶対にやめてください」

「出戻りって、でも」

「ここは勿論、犬や猫を保護しますが、保護しきれない子たちは」

「まさか」

「処分です。なので絶対に最後まで面倒みられる方にしか、渡せないんです」

「この子たちも引き取り手がいなければ?」

「殺処分になります」

「パパ、私面倒見るよ。絶対にそんなことにならないように面倒見る」

「お嬢ちゃん、この子たちが大きくなって死ぬまでに沢山お金もかかるんだよ」

「お小遣い、減らしてもいい」

「どうしますか」

「わかりました、しっかりと最後まで面倒見ます」

「良かった、ではどの子に?」

 手が伸びてきて、頭を撫でられた。初めてなのに、なぜか懐かしい感じがした。尻尾が自然に振れた。人間と言うものに抱き上げられて、凄く安心してる自分がいた。

 ふと見ると、兄弟たちがこっちを見ていた。「さよなら、元気で」

と呟くとみんなが尻尾を振ってくれた。

「では引き取りの手続きを」

 小さな人間が、頭を撫でてくれた。自分の幸運が信じられなくて、他の犬たちに申し訳なくて。でもみんなが尻尾を振ってくれた。

「さようなら」

切なくて、でも温かった。
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