龍戦記 第一巻

卯月桜

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第六章

紅葉

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周䂹が颯純と齋煇に長の屋敷に来るように伝え、颯純は齋煇に話しかけた。

「おい、長の屋敷に行くぞ。ついて来い。」

「あ、あぁ....」

齋煇は楓蘭に視線を移した。齋煇が何か言いたそうにしているのが明らかだった。

「楓蘭、その、」

彼女は優しく微笑んだ。

「おかえり、齋煇。元気そうで良かった。」

「お、おぉ。そういえば、さっきはお前が助けてくれたんだよな。ありがとうな。」

齋煇は思わず頬を赤めたが、先ほど楓蘭に助けられたことを思い出し、礼を述べてにかっと笑った。

「おい、さっさと行くぞ。」

颯純は長の屋敷へ歩き出した。それを見て楓蘭は、にこっと笑った。

「後で話しましょ、齋煇。」

「あ、あぁ。後でな!」

その様子を見ていた流瑋は、齋煇が去った後に不思議そうに楓蘭に声をかけた。

「楓蘭、お前彼奴と顔見知りなのか?」

「そうよ。子供の頃良く一緒に遊んだわ。懐かしいわね。」

「それでお前のことを知ってたのか。」

楓蘭はふと目線を流瑋の肩口に向けた。

「流瑋、あなたもしかして怪我してるんじゃない?」

流瑋は指摘されて思い出したように、反応した。

「あぁ、これか?いや、ほんの少しかすめただけだ。大丈夫だ、怪我はしてない。」

「そう、良かった。」

楓蘭の顔に安堵の色が広がった。

「私は持ち場に戻る。」

流瑋は村の入口の方へと目を向けた。その瞬間、彼は見知らぬ女が立っているのを見つけた。

「!、誰だ。」

その女は緊張した様子で立っていた。女は乳飲み子を抱えていた。

「あ、あの。ここは龍の村でしょうか。お、お医者様を、どうか、龍のお医者様に会わせて下さい!この子を治して下さい。」

流瑋は眉を釣り上げ、厳しい口調で言った。

「お前、勝手に門を通ったな!」

流瑋は荒ぶるように全身から龍術を湧き上がらせて女を威嚇した。

流瑋は村の守衛を任されてから、楓蘭を訪ねてくる村の外の奴らを山ほど追い返してきた。

その中には、赤ん坊を抱えた非力な母親や、妻の為に山を越えて、噂だけを頼りにこの村を訪ねて来る者もいた。

何度言っても聞く耳を持たないには先程の齋煇のように龍術を放つが、このようの非力な女にいきなり龍術を放つのは気が引けた。

今までの経験では、女は龍術全身にまとい、威嚇すれば、大人しく帰る場合もあった。

しかしその光景を見ていた楓蘭は咄嗟にそれを止めた。

「流瑋。落ち着いて。」

楓蘭が落ち着いた声で流瑋をなだめた。

「その子、私が看るわ。」

「楓蘭、今は外部の者と接触禁止だ。長の命令だぞ。」

その刹那、楓蘭の三つ編みを揺らすように、風が村の外から入ってきた。彼女は目の前に風に乗って運ばれたひらひら宙を舞う楓の葉を指先で摘んだ。

「…じゃあ触れなければ良いんでしょ?今から私が治すわ。」

楓の葉を手にし、しっかりした声音で、龍の医者は患者に向き合った。
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