決まらない進路

藤原アオイ

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白紙の進路希望調査書

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 将来の夢って、なんですか?

 そもそも夢って、なんですか?

 真っ白な進路調査書、シャープペンシルはホームルームが終わってから一ミリも動いてはいない。

 書き込まれているのはクラスと出席番号と名前だけ。私はこれからどうすればいいんだろう。

「うーん……」

 固い椅子の背もたれ。そこに背中を預けて気分転換に伸びでもすれば、思い浮かぶのだろうか。

 いや、そんなはずはない。これまでだってずっとそうだったから。

 小学生の時は「中学生になったら見つけるから」、中学生の時は「高校入ったら考える」と言って。高校生になった今も決まらないのはどうしてなのだろう。

「私の将来の夢は夢を見つけて追いかけること。なんてね」

 黒板には『提出期限は本日17時まで。締切厳守』って書いてあって。

 教室の外からは運動部に加入している生徒達の声が聞こえてきて。

「……そろそろ、ちゃんと決めなきゃいけないのかなぁ」



 私は小さい頃、正義のヒーローに憧れていた。悪い怪人をバンバン倒して、みんなが幸せになっていく。ありきたりな勧善懲悪。私はそんなヒーローみたいな存在になりたかった。

 でも、いろんな人と関わっていくうちに、絶対的な悪なんて存在しないことを知ってしまった。あれはあくまでもフィクションの中のお話なんだって。

「あはは。……でもさ、それでもさ。絶対的な正義になれないとしても、誰かの役に立てる大人にはなりたいな」

 私は将来の夢を書く欄に『誰かの役に立てる人』と書き込んで――――消しゴムで消した。

 先生達が求めている答えはこれじゃないって思ったから。私はもうすぐ大人になる……いいや、ならなきゃいけないんだから。

 わかってるよ。こんな漠然とした答えじゃ駄目なんだよね。もっと具体的で、実現出来そうなものじゃないと。

 現在時刻は16時50分。

 そろそろ提出時間。

 なのに私の夢は、まだ見つからないまま。

「白紙でもいいから出さないと。先生に何か言われるのは嫌だし」

 ペンケースにシャープペンシルと小さくなった消しゴムをしまって、私は学生カバンを肩にかける。提出場所は職員室にある先生の机だったかな。

「みんなはもう見つけてるのに。私、やっぱりどこかおかしいのかなぁ……」

 将来の夢ってなんですか?

 そもそも夢って、なんですか?
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