そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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朝食

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 彼女が、あずさが召喚されてから一日。初めてのことが多すぎたのだろう。直接見たわけではないが、彼女は部屋で一人泣いていたみたいだ。

 きっと、まぶたは真っ赤に腫れていることだろう。後で厨房から氷と薬草を調達しなければ。

「あずさ様、朝食はこちらのお部屋でお召し上がりに?」

「はい、お願いします……」

「では、十分後にお持ち致しますね」

 あずさを新しい部屋に送り届けてから、私は一度も彼女と顔を合わせていない。入ってすぐ、しばらく一人にして欲しいと言われたからだ。

 ……エルヴィン様なら、彼女を元気にすることが出来るのだろうか。いや、考えても仕方ないことだろう。気持ちを切り替えて、厨房へと向かう。

「エステルちゃんまだ若いんだから、ちゃんと食べな。ね?」

 厨房でお盆を運んでいると、料理人のおばさんに話しかけられる。確かに仕事の関係上、抜くことも少なくないけどさ。

 まぁ、そのせいで同年代の女性よりは小さいかもだけど、いつか大きくなるし。

「お気持ちだけ頂いておきます」

「わかってるとは思うけど、お気持ちじゃいつまで経っても大きくなれないよっ!」

 豪快に笑う女性。別に、小柄なのを気にしてなんかいないし。っと、危ない危ない。早く戻らないと、十分なんてあっという間に過ぎてしまう。

 行きよりも速く歩いて、あずさの部屋に戻る。

「あずさ様、朝食をお持ち致しました」

「……ありがとう、ございます」

「お部屋に入っても、よろしいでしょうか?」

「ど、どうぞ……」

 肘で扉を押し、体を隙間に滑り込ませる。本当に夜通し泣いていたのだろう。予想通り、あずさのまぶたは真っ赤に腫れていた。

「こちら、パンとスープとスクランブルエッグでございます。何がお口に合うかわからなかったので、メニューの方は昨日の夕食の際に手を付けられたものを組み合わせたものとなっております」

「あっ……これ、日本にもあるやつだ……。それに、名前まで同じ」

 ニホンというと、あずさが元々いた国のことか。知っているものだと安心して食べられるのだろう。彼女は少しずつスクランブルエッグを口に運んでいく。

 私はその間ずっと、お盆を持って入口付近で待機している。

「エステル……様?」

「私は立場上ただのメイドですので、様付けはちょっと」

 聖女とメイドの上下関係は、考えるまでもなく聖女の方が上。ここを間違えると、あらぬ誤解を招くことになる。

「えっ、あっ、うん。そうだよね……。じゃあ、えっと、エステルさん?」

「……まぁ、それで良いでしょう。それであずさ様、どうされましたか?」

「その、一人で食べるの、ちょっと寂しくて」

 ……なるほど。私はずっとここに立っているわけだが、彼女が求めているのはそういうことではないのだろう。

「……」

「あっ、無理だったら今のままで大丈夫です……。いきなり変なこと言っちゃってごめんなさいっ!」
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