そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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三人の王子

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 着替えを済ませ、部屋を出る。最初に向かう先は、ウィリアムの執務室。

「ウィリアム様、あずさ様をお連れ致しました」

 ノックをして、簡潔に用件を話す。入りなさいという声を確認した後、扉をゆっくりと開ける。

「あずさ様、こちらに」

 あずさをソファーに座らせ、自分はその後ろに立つ。ここで初めて、彼女の安全以外のことに目を向ける。部屋にいたのは、第一王子ウィリアムだけではなかった。

「初めまして、聖女様。自分は第二王子のルーカスと申します」

 銀色の髪に、四角い眼鏡。エルヴィンとは反対に冷たい印象を受ける青年。

 あずさは訝しむようにこちらを見る。多分彼の見た目、銀髪のことだろう。確かに他の二人と比べたら異様かもしれない。

「……ええと、シリウス王国の王子は全員異母兄弟なんです」

 あずさにしか聞こえないように囁く。別に聞かれて問題のあることではないが、彼の機嫌を損ねる可能性はゼロではないのだ。

「エステルー、あずさと何を話してるの?」

 っと、このお馬鹿ぁ。なんで気付いちゃうんですか、というか空気読んでください。

「……」

「いえ、構いませんよ。やはりこの髪の色のことでしょう? よく聞かれますので。ただ、まさか第三王子殿の専属メイドが聖女のお付きになるとは……」

 彼は眼鏡のフレームに触れながら考えこむ。

「ルーカス、私の判断に文句でも?」

「そうだそうだ! エステルはスゴいんだぞ!」

「反論などございません。ウィリアム殿がそう言うのであれば、自分はそれに従うだけですよ」

 一瞬表情が歪んだように見えたが、多分気のせいだろう。ルーカスはウィリアムを一方的に敵視しているらしいから、きっと私の中のイメージが作り出した幻覚だ。

「エステルー、あずさとは上手くやってる? 歳が近い女の子同士って、なんか上手くいかない時は本当に上手くいかないって聞くけど」

 あずさが軽く自己紹介を済ませた後、軽いノリでエルヴィンが私に話を振ってくる。頼むから、ちゃんと空気を読んでください……。

「エルヴィン様、仕事中ですので……」

「良いじゃないか、定時報告ってことで」

 悪ノリにもっともらしい理由を付けないでほしいです。あなた絶対楽しんでますよね。

「ウィリアム様まで……。はぁ、報告すべきことは何もありませんよ」

「あずさ殿からは何かあるかい?」

「その、エステルさんにはとてもお世話になってます……はい」

「なら良かった」

 やっぱり万人|(私を除く)を魅了する笑顔だ。あずさがこいつの手に落ちてしまう前に、なんとかしなければ。

「……ウィリアム様。予定も押してますし、そろそろ」

「ああ、そうだな。お前達も一緒に行くか?」

 ウィリアムはルーカスとエルヴィンを誘う。もちろん結果は予想出来ているけれど。
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