消滅のネバーランド

藤原アオイ

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失われたサンタクロース

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「ねぇ、大人ってなに?」

 今にも泣いてしまいそうなほど、弱々しい声。それは答えを得ること無く空へと消えていく。だって、本当の意味での大人なんてこの世には存在しないのだから。

「ねぇ、大人になるってなに?」

 サンタクロースの正体を知ることが出来たら大人になれるのだろうか。それとも、コウノトリが赤ちゃんを運んでこないと知ったときか。

 もしかしたら、時を重ねれば誰だって大人になれるのかもしれない。本人が望む望まないに関わらず。


 ――――それなら私はもう大人なのだろうか。


 純粋であることをやめ、わがままであることをやめ、社会の歯車として死ぬまで拘束される。それが彼女の脳内で結ばれたという虚像。

 希望を見いだすこと無く、ストレスによって自ら命を断った大人たち。中身は全く変わらないのに、だけが大人になってしまった子どもたち。

 彼女はそのどちらでもない。

 どちらにもなれなかったのだから。

「私は、大人になりたくない」

 彼女は、になることを、拒絶した。彼女自身が大人であることを、拒絶したのだ。

「ずっと純粋で、疑うことを知らない子どもでいたい。永遠に遊び続けたい。美味しいものだって、好きなだけ食べたい。好きなように歌だって歌って、寝たい時間に寝たい」

 人間ならば誰しも持つ当たり前の欲求。でも大人になったら、それは抑圧されてしまう。だって大人は歯車でしかないから。個という概念は社会に求められていないから。

 彼女が空を見上げた瞬間、天から涙が落ちてくる。白くて凍りついていて、まるで歯車のような形。空気抵抗によって壊れていくもの、摩擦に耐えられず解けていくもの。

「あと一週間で私はひとつ年をとって――」

 結晶が指先で踊り、水に還っていく。それが世界の摂理。解けた氷はもとの構造を取り戻すことはない。そのはずなのに、それが世界のはずなのに。

「――そうしてまたひとつ若返る。私は永遠に大人にはなれない。サンタクロースもこんな私には愛想をつかして、プレゼントをくれなくなった」

 彼女は大人で、それなのに永遠に大人にはなれない。だって彼女自身が永遠にであることを望んだのだから。

 その願いは半分叶って、そして半分叶わなかった。彼女は子どものまま、大人になってしまったのだから。

「私は……永遠に大人にはなれないんだ」

「それに、子どもにもなりきれない」

 サンタクロースにプレゼントを貰う側にも、子どもにプレゼントを渡す側にもなれない。永遠に十四歳を繰り返す。

「あの人たちみたいに偽りの大人になれれば、私も……」
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