科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

文字の大きさ
5 / 151

第5話 迅 vs. リディア——科学と魔法の融合①

しおりを挟む
王宮の中庭。昼下がりの陽光が石畳を照らし、心地よい風が通り抜けている。
その中央、訓練場の円形闘技場に、異世界からの勇者と王国最年少の天才魔法士が向かい合っていた。

九条迅は両手を軽く上げて、困ったような笑みを浮かべる。

「あー……悪いけど俺、たった今覚えた”炎の矢フレア・リィス“しか使えないんだよな。」

「……それは困ったわね。」

リディア・アークライトは、まるで貴族の社交場で会話でもするような余裕の笑みを浮かべる。しかし、その紫紺の瞳は鋭く迅を見据えていた。

「でも、それなら私も”風の刃エア・ブリッツ“だけで相手をしてあげるわ。」

「は?」

周囲の魔法士たちがどよめいた。

「リ、リディア様まで!?」
「いやいや、さすがにそれは……」
「そもそも勇者殿は、まだ魔法の戦闘経験がほとんどないはず……!」

しかし、リディアはさらりと言ってのける。

「おかしな話ではないでしょう? 彼はたった一つの魔法しか使えない。だったら、私も一つに制限して戦えばフェアじゃない?」

魔法士たちがざわつく中、迅は腕を組んで考える素振りを見せた。

「……なんか、お前がそこまで言うと、俺の方が舐められてる気がするんだけど。」

「ふふっ、どうかしら?」

リディアは可愛らしく笑うが、その目は全く笑っていない。

(……この女、完全に俺を試しにきてるな。)

迅は内心で苦笑しつつ、興味が湧いてくるのを感じた。

「まぁ、いいぜ。どうせ魔法戦の経験も積んでおきたかったしな。」

迅が了承すると、ロドリゲスが訓練場の端で腕を組み、満足げに頷いた。

「よし、ならば正式な模擬戦としよう!」

こうして、異世界の勇者と王国の天才魔法士の模擬戦が決まった。



訓練場は静寂に包まれていた。
王宮の魔法士たちが見守る中、迅とリディアは石畳の上に立つ。

リディアはスッと杖を構えた。

「準備はいい?」

迅は特に構えもせず、周囲をじっくりと見回していた。

(この訓練場、石畳は整備されてるが、あちこちにかなり砂や埃が溜まってるな。)
(陽の角度は……風向きは南東寄り。湿度は低め。)

「……ねぇ、何してるの?」

リディアが微かに眉をひそめた。

「いや、戦う前に環境を確認してるだけだ。」

「環境?」

「戦闘において、地形を把握するのは基本だろ?」

「……」

リディアはわずかに口角を上げる。

(言ってることは正しいわね。でも、今の彼の表情……)

まるで実験前の研究者のような、冷静で分析的な目——。

(本当に……異世界の人間なのね。)

ロドリゲスが手を上げた。

「——始め!」

その瞬間——


「うおおおお!? 逃げろおおおお!!!」

迅が訓練場を全速力で駆け出した。


「……え?」


リディアの思考が一瞬フリーズする。

(な、なにそれ!?)

「ちょ、ちょっと!?」

バタバタと地面を蹴り上げ、大げさに砂埃を巻き上げながら走り回る迅。

観客の魔法士たちも唖然としていた。

「な、なんという腰抜け戦法……!?」
「いや、これは……?」
「え、えっと……戦略的撤退?」

リディアは大きく息をついた。

「……無駄な抵抗ね。」

すっと手を上げ、“風の刃エア・ブリッツ“を発動。

——バシュッ!

一直線に風の刃が放たれる。しかし——

「おっと、危ねぇ!」

迅は、ギリギリのタイミングで回避した。
リディアの目が僅かに細められる。

(……まあ、今のは偶然よね。)

次の瞬間、彼女はすぐに二撃目を放つ。

「エア・ブリッツ!」

——バシュッ!

しかし——

「ほい……っと。」

迅は、それすらも余裕をもって避けた。

「えっ……?」

リディアは目を見開く。

(今のは……今のはただの偶然じゃない。)

「もう一発!」

——バシュッ!

だが、迅はまたもや紙一重で避けた。しかも、どこか確信を持った動きだった。

リディアの眉がぴくりと動く。

(まるで……魔法が発動する前に、方向を読んでいるみたい……!?)

観客の魔法士たちも、何か異変に気づき始めた。
リディアが放つ風の刃を避ける勇者の動きが、見る見るうちに洗練されていく。

「な、なんだ……? なんか勇者殿、妙に動きが洗練されてないか?」
「避けてるだけじゃなくて、余裕すら感じられるぞ……」

リディアはじっと迅を睨みながら、考え込んだ。

(おかしい……。まさか、彼は……)

迅はニヤリと笑い、指をパチンと鳴らした。

「さて、そろそろネタばらしといくか。」

リディアの心臓が、ドクンと高鳴る。

「……なんですって?」

「お前の魔法の仕組みが、だいたい分かった。」

「!?」

リディアは驚きに目を見開く。

(この男……今の短時間で、私の魔法の特性を見抜いたとでも言うの……!?)

彼女は更に、この後の迅の説明に驚愕することになる——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...