科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第35話 魔力の圧縮実験開始——新たな魔法の形を探る

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王宮の訓練場は、既に朝の陽光に包まれていた。

青空の下、魔道士たちが集まり、訓練用の石板が並べられた空間には、かすかな緊張感が漂っている。

迅が黒板に描いた魔力の圧縮理論を頭に入れながら、魔法士たちはそれぞれ呪文の準備をしていた。

今日は——魔力の密度を意図的に高めるという、全く新しい試みに挑戦する日だった。

「じゃあ、まずは基準値を測るために、通常の状態で魔法を撃ってもらおうか。」

迅がそう言うと、リディアが前に進み出た。
彼女の周囲の魔法士たちが「さすがリディア様……」「勇者殿の研究にも果敢に挑戦されるとは……!」と期待の眼差しを向ける。

「では、やってみるわ。」

リディアは訓練場の的に向かって手を掲げ、軽く息を整えると、すぐに詠唱に入った。

「——"風の刃《エア・ブリッツ》"!」

シュバッ!

風の刃が宙を裂き、勢いよく的に命中する。
刃が当たった瞬間、木製の的がヒビ割れ、一部が吹き飛んだ。

「……うん、いつも通りって感じだな。」

迅はさっとノートにメモを取りながら頷く。

「よし、じゃあ次は魔力をできるだけ一点に圧縮することを意識して撃ってみてくれ。」

リディアは深く息を吸い込み、集中を高めた。
すぐさま魔力を制御し、圧縮のイメージを思い描く。

(……水鉄砲のように、魔力を細く一点にまとめて……)

「……吸って、吐く……魔力を一点に……」

そして——

「"風の刃《エア・ブリッツ》"!!」

バシュンッ!!

空気を裂く鋭い音と共に、風の刃が発射される。

——ズドン!!

次の瞬間、的が一瞬で粉砕された。
周囲の魔法士たちの目が驚愕で見開かれる。

「お……おおおお!?」

「何だ今の!? さっきの魔法と威力が全然違うぞ!?」

「こんな単純な方法で、魔法の威力が……?」

魔法士たちは呆然と的の残骸を見つめる。

「こ、これ……!?」

リディア自身も驚き、自分の手をじっと見つめていた。

「たしかに……魔力を一点に圧縮すると、こんなに威力が上がるなんて……!」

「だろ?」

迅は満足げに頷く。

「つまり、魔力の"密度"をコントロールすれば、魔法の威力を劇的に変えられるってことだ。」

ロドリゲスが腕を組みながら唸る。

「勇者殿……この理論が広まれば、王国の魔法戦術は根底から変わる……!」

「お前それ、同じような事毎回言ってない?」

「お主が毎回毎回、根底から変えすぎなんじゃよ!」

迅は苦笑しながら、リディアの方を振り向いた。

「リディア、お前さ、今の魔法撃った時、どんな感覚だった?」

リディアはまだ驚きの残る表情のまま、静かに言葉を選ぶように口を開いた。

「……普通に撃つよりも、魔力の消費が少なく感じたわ。なのに、威力は倍以上になっていた……。」

「ほうほう、つまり出力を上げつつ、エネルギー効率も良くなったってわけか。」

迅は満足げに頷く。

「いや、これはとんでもない発見じゃないか?」

ガルツ、ビネット、エドガーら、王宮の魔法士たちが興奮気味に顔を見合わせる。

「こ、これ、俺たちも試していいのか!?」

「おう、もちろんだ。」

「よし……俺もやってみる!」

魔法士たちは次々と実験を開始した。
通常の魔法を撃ち、その後、魔力を圧縮するイメージを意識しながら放つ。


——そして、結果は明白だった。


圧縮された魔法の威力は、明らかに通常時よりも強い。
それどころか、魔力の消費量も抑えられていた。

「こんな単純なことに……どうして今まで誰も気付かなかったんだ……?」

「おい、これ、王国の魔法体系そのものを変えちまう発見じゃないか!?」

魔法士たちが驚愕しながら口々に感想を漏らす中、リディアがふと迅の方を見た。

(やっぱり……すごい。)

彼の言うことを試せば、これまで常識とされていた魔法の法則がどんどん覆されていく。
自分ですら、知らなかった“新しい魔法の形”を見せてくれる。

(私……こんな風に魔法を研究したこと、一度もなかった。)

リディアは、そんな未知の領域を見せてくれる迅に、改めて強い興味を抱いた。

「……ふふっ。」

気づけば、彼女の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

「お、おいリディア、何笑ってんだよ。」

「ふふっ、別に。」

「……? なんか最近、やたらと笑うようになった気がするんだけど……。」

ロドリゲスがまたもやニヤニヤしながら二人を見つめる。

「いやぁ、青春じゃのう。」

「じいさんは黙ってろ!!」

迅がバッと振り返ってロドリゲスに叫ぶ。
そのやり取りを見た魔法士たちがクスクスと笑い出した。


こうして、魔法の密度を利用した新たな最適化技術が、王宮の魔法士たちに広まり始めた。

この先、彼らがこれを戦闘の場でどれほど活用できるのか——それは、まだ誰も知らない。
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