科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第40話 科学×魔法、交わる瞬間

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夜の王宮は静寂に包まれていた。

一日の仕事を終え、兵士たちは詰め所で休息を取り、貴族たちはそれぞれの邸宅で眠りについている。

だが——

王宮の一角、魔導研究施設の奥にある小さな研究室だけは、深夜になっても灯りが消えなかった。

カリ……カリ……

ペンの走る音、羊皮紙をめくる音、そして時折ぶつぶつと呟く声が響く。

研究室の中心では、二つの机が向かい合わせに置かれ、そこに向かい合うように二人の若者が座っていた。

九条迅《くじょうじん》。

高校生科学者にして、異世界に召喚された勇者。
彼は眉間に軽く皺を寄せながら、ノートに数式を書き連ねている。

リディア・アークライト。

アルセイア王国屈指の魔法士にして、王宮の第一魔導士。
彼女は魔術書を片手に、羊皮紙へ魔法陣を書き込んでいた。

研究の合間に、迅が軽く伸びをする。

「……魔法ってのはまだまだ分からねぇことだらけだな。」

すると、向かいのリディアが小さく笑う。

「科学もよ。」

「ん?」

「ほら、これ見て。」

リディアはテーブルの上に一枚の羊皮紙を置いた。
そこには、彼女が書いた魔法陣の構造がびっしりと並んでいる。

「あなたに教えてもらった電磁気学の概念を、魔法陣の展開に応用できないか考えてみたの。」

迅が書いたメモに目を走らせながら、淀みなくペンを走らせる。

「貴方の"雷属性魔法は電子を操っている"っていう仮説、悔しいけど脱帽だわ。
"電位"や"クーロンの法則"の概念と照らし合わせると、色々な雷属性魔法の仕組みに納得がいくもの。」

迅が羊皮紙を覗き込む。

「……ほぉ? お前、どこでそんな応用力を身につけた?」

「あなたが”科学”を教えてくれたからよ。」

リディアは得意げに微笑む。

「科学が物理の法則を探るものなら、魔法もまたこの世界の法則を探るもの。
根本的な部分は、案外似てるんじゃないかと思うのよ。」

「……なるほどな。」

迅は腕を組んで考え込む。

科学→魔法のアプローチで学ぶ俺。
魔法→科学のアプローチで学ぶリディア。

二人は違う方向から、同じ地点を目指しているのかもしれない。

リディアはすっと手を伸ばし、ペンを取りながら言った。

「私たち、違う方向から同じものを見てるのかもね。」

迅はニヤリと笑う。

「まぁ、どっちも”世界の法則を探る”って点では変わらねぇしな。」

それからしばらくの間、二人は黙々と作業を続けた。

羊皮紙の上に、科学の数式が描かれていく。
ノートの上に、魔法陣が並んでいく。

魔法と科学の融合。
それが、ここにいる二人の探求する道だった。

——深夜の王宮の片隅で、異世界の魔法と現代科学が交差する、静かな研究会が続いていた。



夜も更け、研究室の中は相変わらず静かだった。
迅とリディアは、それぞれの机で黙々と作業を続けている。

しかし、ふとした瞬間——

「……ん?」

迅が眉をひそめた。

「どうしたの?」

リディアが手を止めて顔を上げる。

「いや、今な、さっきから微妙に魔力の流れが揺らいでる気がするんだけど……」

そう言いながら、迅は研究ノートの隅に小さな波形のスケッチを描き込んだ。
それは、魔力の変動を簡単にグラフ化したものだった。

「魔力の……揺らぎ?」

リディアが興味を持ったように立ち上がる。
迅のノートを覗き込むと、彼が描いた波形のスケッチを見て、眉をひそめた。

「確かに、魔力量が一定じゃない……。」

「普通、魔法の発動ってエネルギーの流れを制御してるんだろ?
なら、この周期的な揺らぎは一体なんなんだ?」

迅は腕を組んで考え込む。

リディアもまた、目を閉じて魔力の流れを感じ取る。
そして、すぐに目を見開いた。

「……待って。これ、まるで音波みたいな性質を持ってる……?」

「ん? 音波?」

「ほら、音って振動するでしょ? その振動が空気を伝わって音として聞こえる。
魔力も、それと似たような”波”として振る舞ってる可能性があるわ!」

「……まさか……!」

迅は目を輝かせた。

「それが本当なら……魔力はただのエネルギーじゃなく、波動性を持ってるってことになる!」

リディアも興奮して頷く。

「それに、波動性を持つなら——干渉も起こるわ!」

「たとえば、音波みたいに重ね合わせて増幅したり、逆相で打ち消したりできる……?」

「まさしく!」

迅が指をパチンと鳴らす。

二人は同時に目を見開いた。

「「……これは、凄い発見かもしれない!!」」

リディアがすぐに魔力を練り、手のひらに小さな浮遊魔法を発動させた。

「じゃあ、実験してみましょう!」

迅も興奮気味に、机の上の魔導計測器を手に取る。

「まずは、魔力の波を測定する。リディア、お前の魔力をゆっくり増減させてみてくれ!」

「分かったわ!」

リディアが魔力を調整すると、迅の持つ計測器の針が微妙に揺れ動いた。

「……やっぱり周期的な波形を描いてるな。」

迅はノートに測定結果を書き込みながら呟く。

「これはまるで……振動する水面の波みたいなものか?」

「もしそうなら、魔力を一定の波長で操作すれば、魔法の発動効率を上げることができるかも……!」

「いや、それどころじゃねぇ。」

迅がニヤリと笑った。

「波動性があるってことは……“干渉”が可能ってことだろ?」

「……!」

リディアが息を呑む。

「つまり、魔力の波を操作すれば、増幅したり、逆に打ち消したりすることが……!」

「できる!!」

二人は同時に叫んだ。

「例えばさ、敵が魔法を放つ瞬間に、“逆位相の魔力波”をぶつけたらどうなる?」

「……魔法が……消える!?」

「そういうことだ!」

迅は興奮しながら椅子を蹴って立ち上がった。

「これ、うまくやれば……“魔法を打ち消す魔法”が作れるかもしれねぇぞ!」

リディアも目を輝かせながら頷く。

「これは……革命的な発見かもしれないわ……!」

「やべぇな、こんなに面白い研究ができるとは思わなかった!」

迅はノートを勢いよく閉じ、リディアに向かって拳を突き出した。

「リディア、お前やっぱ最高の研究パートナーだわ!」

「ふふっ、あなたもね。」

リディアも笑いながら拳を軽く合わせる。

こうして、二人は魔力の”波動性”という新たな概念を発見し、“魔力干渉波”という新たな技術の研究へと踏み出すこととなる。

それが、後に魔王軍との戦いにおいて、大きな意味を持つことになるとは——
この時、まだ誰も知らなかった。
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