科学×魔法で世界最強！ 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

第46話 九条迅 vs アーク・ゲオルグ、開戦

デルヴァ村の戦場は、一瞬で閃光と衝撃に包まれた。

リディアとロドリゲスはそれぞれ、魔王軍の兵士を相手取り奮闘している。

ロドリゲスが巧みな土魔法で魔王軍兵達を足止めし、その隙にリディアの魔力収束砲が兵達を薙ぎ払う。

個々の実力は二人が圧倒的に上だが、多勢に無勢。完璧には攻めあぐねている。


そんな中、九条迅くじょうじんは一人、敵の主領である"黒の賢者"アーク・ゲオルグと対峙していた。


（こいつの標的は、恐らく俺だ。ここで俺がこいつを足止めした方が勝率は高ぇな。）


迅は今ある手札でこの男をどう攻略するか、頭の中で何パターンも戦闘プランを描き始める。


「……なるほど、やはり実戦で確かめるのが一番ですね。」


アーク・ゲオルグが優雅に腕を上げると、彼の両手の先に"黒い球体"が浮かび上がる。


それはただの魔力の塊ではなかった。目を凝らせば、その表面は微妙に揺らぎ、まるで液体のように形を変え続けている。

「また妙なモンを出してきやがったな……」

迅は警戒しながら、アークの動きを分析する。

（あれは……魔力を固めただけじゃねぇ。まさか、物質化……？）

次の瞬間、アークが指を動かすと、右の魔力球が刃のように変形し、音もなく迅の首を狙って疾走した！

「っ……！」

迅は紙一重で身を反らし、即座に反撃する。

「"雷槌《サンダー・ボルト》"！！」

空から奔流のような雷が襲い掛かる。しかし――


バチバチッ……！！


雷撃はアークの左手の魔力球に触れた瞬間、霧散した。
いや、正確には『吸収された』のだ。


「……は？」


迅が目を見開く。

アークの左手にある魔力球の表面は、まるでゴムのような光沢を帯びている。

「ほう、やはり雷属性魔法が得意なようですね。」

アークは冷静に観察するような口調で、掌を返した。

「魔力の性質を適切に調整すれば、攻撃魔法への耐性も自在に変えられる……まさに、貴方の言う“科学” の発想でしょう？」

「……！！」

迅は思わず奥歯を噛みしめた。

（まさしく、って言いてぇところだが……いやいやいや、こいつ一体何を……！？）

相手の魔法に応じて物質化した魔力を変質させ、防御球として使う――つまり、炎なら耐熱素材、雷なら絶縁体。

それはまるで、魔法のバリアではなく、物理法則を利用した完全防御システムのようだった。


（いや、こんな芸当……普通、できるか？）


迅は思わずアークの掌を凝視した。

「その黒い球……お前、魔力を "物質化"させてんのか？」

アークは仮面の奥で微笑を浮かべる。

「そうですね。もっとも、貴殿のように “魔力そのものを変質” させる技術は私にはありませんが……物質化させることで、それに近いことが可能になるのです。」

迅は直感的に理解した。

（そうか……コイツ、 “原子” の概念すら知らねぇのに、自分の実験だけで “魔法で物質を作り出す” なんて芸当をやってんのか……！？）

つまり、アークは “科学的な理論” ではなく “経験則” でこの技術を身に着けていた。

（……っていうか、これ現代日本で言えば “化学と物性物理学” じゃねぇか！？）

ゴクリ、と迅は喉を鳴らした。
アークの"錬成魔導工学" その正体は、"化学と物性物理学に魔法理論を加えたもの"であるとの仮定が頭をよぎる。

しかも、この男"黒の賢者"アーク・ゲオルグは、科学の概念の薄いこの世界で、それを一から自分で構築してきたとなると……

（こいつは……やべぇな……！）

「フッ、驚いているようですね？」

アークは指を鳴らす。

「次はこれをどう凌ぐか……見せていただきましょう。」

その瞬間――

ギュオオオッ！！

アークの右手の魔力球が、瞬時に槍の形へと変質し、迅の腹部を狙って飛び込んできた！

「くっ……！」

迅は咄嗟に地面を蹴り、側転して回避。槍が通過した瞬間、空気が裂ける音が響いた。

（アイツ……魔力の操作精度が異常に高ぇ！）

通常、魔法を “刃” や “弾丸” の形で飛ばすのは魔法士にとって基本中の基本だが、アークの技術は別格だった。

彼の魔力は、まるで自在に形を変え、まるで “生きているかのように” 戦場を駆け巡る。


「ならば……！！」

迅はすぐに反撃に転じた。

「魔力収束砲——！」

彼の掌に収束した炎の魔力が、一直線の閃光となりアークを撃ち抜こうとする。

ズバァッ！！

しかし――

「無駄です。」

アークの左手の魔力球が、瞬時に形を変えた。
次の瞬間――

ジュウウウウ……！！

炎の光線は魔力球に当たると、まるで吸収されるように消え去った。
表面がギラリと鈍く光る。

迅は直感した。

（今度は “耐熱金属” に変えやがったのか！？）

熱に強い金属……つまり、これは タングステン だ。
迅の目が見開かれる。

「おいおい……なんでお前、タングステンみてぇなもん知ってんだ？」

「タングステン……？」

アークは仮面の奥で首を傾げる。

「……存じ上げませんね。ただ、 “魔法によって生まれた高温に耐え得る物質” というだけの話です。」

迅は愕然とした。

（マジかよ……原子の特性も知らねぇのに、経験則だけでタングステンを選び出してんのか！？）

その異質さに、迅の背筋に冷たいものが走る。

「これは驚きました。」

アークは興味深げに続ける。

「あなたは “魔力の干渉” を……私は “魔力の物質化” を。
立場は異なれど、どうやら我々の研究は “似て非なるもの” のようですね？」

「……そうだな。」

迅は目を細めながら、アークを見据えた。

戦場での “科学魔法 vs 錬成魔導工学” の戦いが、ここに始まった――。