科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第61話 指切りの約束

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 黄金色に染まる空。

 王都の城下町を見下ろす丘の上、展望台のベンチに座る二人。


 リディアと迅。


 城下町を巡り、異世界の文化に触れ、英雄として迎えられた一日。
 全てが初めての経験だったが、今はただ、穏やかな時間が流れていた。


 風が心地よく頬を撫でる。


 王都の町並みが黄金に染まり、地平線に沈みゆく太陽が、遠くで輝いている。


 「……綺麗ね。」


 リディアがぽつりと呟いた。
 迅も、その景色を静かに見つめる。


 「おう。いい景色だな。」


 彼の声はいつもより落ち着いていた。
 普段は理屈っぽく、時にはふざけたり、ツッコミを入れたりすることが多い迅だったが、今はただ、目の前の景色に素直に感動していた。

 そして、しばらくの沈黙の後——

 リディアが、小さく息を呑むようにして、口を開く。

 「ねぇ、ジン……。」


 迅は、ぼんやりと空を眺めていたが、その声に応じて横目でリディアを見る。

 「ん?」

 リディアは、視線を落とし、膝の上でそっと指を組むように握っていた。

 そして——

リディアの声が静かに響いた。
前々から気になっていた事を、迅に問いかける。


気になっていたけど、怖くて聞けなかったあの事。



 「……あなたは……魔王を倒したら、元の世界に帰ってしまうの?」



 その問いかけは、まるで夕日に溶けてしまいそうなほど、儚げだった。

 迅は、一瞬だけ沈黙する。
 リディアの問いは、どこか脆く、壊れやすいもののように聞こえた。


 ——だが、彼はいつも通りの口調で答えた。


 「当たり前だろ。」

 「……。」

 「行きつけのラーメン屋の味が恋しくて仕方ねぇよ。」

 冗談めかした口調。

 だが、それを聞いたリディアの表情が、一瞬だけ沈んだ。


 「……そう、なのね。」


 彼女の声は、少しだけ寂しそうだった。
 だが、それを悟られまいとするかのように、笑顔を作る。

 「そっか……。」

 迅は、それを見て、少しだけ眉をひそめる。

 (……あれ?)

 リディアが無理に笑ったことに、何となく気づいた。

 (まさか……コイツ……)

 彼は、そこで初めて、リディアの心情を察した。

 彼女は「迅が帰ってしまうこと」を、本気で寂しがっているのではないか——と。

 それに気づいた途端、なんとなく、このまま流してしまうのは違う気がした。

 だから——


 「……おいおい、勘違いすんなよ。」


 「え?」


 リディアが驚いたように顔を上げる。

 そして、迅は——



 「お前も一緒にラーメン食いに行こうぜ。」



 ——そう言った。

 「……。」

 リディアは、目を丸くした。

 「……ど、どういう意味?」

 迅は、夕焼けを背にして、不敵な笑みを浮かべる。

 「俺が元の世界からこの世界に召喚されたってことは、逆もできるはずだろ?」

 「……っ!」

 リディアの目が、大きく見開かれる。

 「再現性のある帰還方法さえ確立すれば、俺もお前も、二つの世界を自由に行き来できる。」

 「ジン……それって……」

 「召喚魔法の仕組みを解析して、ちゃんと理解すれば……可能なはずだ。」

 迅の声は、力強かった。
 まるで、この世界の常識を根底から覆すような、自信に満ちた口調。

 リディアは、しばらく呆然としたまま、言葉を失っていた。

 この人は、何を言ってるんだろう?

 いや——違う。

 この人は、本気で言ってる。

 リディアは、それを確信してしまった。

 そして——

 「……本当に、そんなことが……?」

 「できねぇと思うか?」

 迅は、横目でリディアを見る。
 いつも通りの、不敵な笑み。


 「この俺に——いや、俺たちに」


 彼がそう言った瞬間、リディアの心が、強く震えた。

 「……!」

 彼は、本当にそう思っている。
 “元の世界に帰る”のではなく、“行き来できる方法を探す”のだと。

 それは、リディアにとって——
 全く考えもしなかった発想だった。

 召喚魔法は、一方通行。
 一度召喚された者は、元の世界に戻ることができない。

 それが、この世界の“常識”だった。

 だが——

 「召喚魔法の仕組みを解析して、詳しく理解できれば、行くのも帰るのも自由自在だぜ。」

 そう言い切る迅の言葉は、あまりにも頼もしくて、希望に満ちていた。

 「……っ!」

 リディアは、ぐっと拳を握る。

 そして——

 「……そのときは、絶対に一緒に行くから。」

 彼女は、精一杯の覚悟を込めてそう言った。

 「その……ラーメンって料理、奢りなさいよね。」

 「おう、約束な。」

 迅は、軽く指を差し出した。

 「……?」

 リディアは、一瞬戸惑う。

 「これ、指切りってやつな。約束の証だ。」

 「……。」

 リディアは、一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが——

 そっと、指を絡める。

 「……絶対に、よ。」

 「おう。」

 二人の指が、固く繋がる。

 ——太陽は、ゆっくりと地平線の向こうへ沈んでいく。

 空は、茜色から夜の青へと染まり始めていた。
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