科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

文字の大きさ
70 / 151

第70話 剣聖の謝罪、そして勇者争奪戦へ?

しおりを挟む
「そ、そんな事より……約束があるだろ!」

 
じんは握られたままの手をバッと振りほどき、強引に話題を変えた。

手を握られ続けたせいで、カリムの異常な距離の近さにゾクッとしたばかりだったが、今はそれどころじゃない。

この決闘には、そもそも明確な目的があったはずだ。

カリムの敗北を認めさせるのは確かに大事だったが、本当に重要なのは、その先の“リディアへの謝罪”だった。

 

「……そうだったな。」

 

カリムは、ふと神妙な顔をしながら、ゆっくりと視線をリディアへと向けた。

彼女は腕を組んでこちらを見ている。
冷たい目をしているわけではないが、許してもらえるかどうかは、カリム次第だろう。

 

「リディア。」

 

カリムは真剣な眼差しを向け、まっすぐリディアの前へと進み出た。

観衆が息をのむ。
この場には王族や賢律院の高官、貴族たちが大勢いる。

その中で、王国の"剣聖"と呼ばれる男が、幼馴染とは言え、一介の魔法士に頭を下げるというのは、かなり異例なことだ。

カリムは迷うことなく、深々と頭を下げた。

 

「私は、君の夢を否定したことを……心から謝罪する。」

「君がどんな道を歩もうと、それは君の自由だ。私にはそれを否定する権利などなかった。」

 

堂々とした謝罪だった。

潔く、無駄な言い訳もなく、まっすぐに誠意を伝える。

 

リディアは、しばしカリムをじっと見つめていた。

その顔には、複雑な感情が浮かんでいる。

やがて、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「……うん、わかってくれたならいいわ。」

 

観客席からざわめきが起こる。

“剣聖”が自ら謝罪するなんて、前代未聞だ。

しかし、それだけで終わらなかった。

カリムは頭を上げると、今度は毅然とした表情でリディアを見つめた。

 

「だが、それとは別に、言いたいことがある。」

 

「……何よ?」

 

リディアがわずかに警戒する。

そして、次の瞬間、カリムは とんでもないことを口にした。

 

「勇者殿は、凄まじい傑物だった!」

 

 
「君が勇者殿にかれるのも、当然のことと言える!!」

 

 

「――――ッッッ!!???」

 

その場が凍りついた。

 

「…………………」

リディアの顔が、一瞬にして真っ赤になる。

 

「…………………」

迅の顔が、一瞬にして真っ青になる。

 

「…………………」

ロドリゲスが、口を開いたまま固まる。

 

「…………………」

観客席の貴族たちが、一斉にどよめく。

 

「なっ……ななな……な……っ!?」

リディアは真っ赤になったまま、口をパクパクと動かしながら、完全に動揺していた。

一方の迅は、青ざめた顔で、カリムの発言を反芻する。

 

――は?

 

「えっ……ええええええええええっっっっ!?!?」

 

何で急にそんな話になってるんだ!?!?

 

 

「ちっ、違っ……!! そんなんじゃなくてっ!!」

リディアが慌てて否定するが、完全に手遅れだった。

観客席では、すでに貴族たちがザワザワし始めている。

 

「……なるほど、つまり勇者殿とリディア殿は、そういう関係だったのか。」

「剣聖様も、それを認めるとは……」

「異世界の勇者と、天才魔法士……ふむ、面白い話だ。」

 

「いやいやいや!! 誤解だってば!!!」

リディアが叫ぶが、すでに手遅れ。

カリムが、やたらと堂々とした態度で言い放ってしまったせいで、完全に誤解が広がってしまっていた。

だが、事態はさらにカオスな方向へ進む。

 

「しかし、勇者殿に惹かれているのは、君だけではない!!」

 

「!!???」

 

「私もまた、勇者殿に心を奪われた一人だ!!」

 

「~~~~~~~っっっ!!!???」

 

リディアが硬直する。

迅がさらに青ざめる。

ロドリゲスが目を見開く。

観客席が爆発したように騒然となる。

 

「えええええええええええええええええええええええ!!!!?」

「な、な、な、何だこれはぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そして、カリムは満面の笑みで続けた。



「つまり、君と私は─── ライバルということになるな!!!」



 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」

迅は恐怖に震え、 ロドリゲスの背後に逃げ込んだ。

 

「おい待て!!! 何がどうなったらそういう話になるんだよ!?!?!?」

ガタガタと震えながらロドリゲスの袖を引く。

「ち、ちが……違うから!! 違うから!! ねぇ、ロドリゲス!! 何これ!?どういう展開!?俺、どうすればいいの!?」

 

「……諦めることじゃな。」

「じいさん!!!???」

 

リディアは顔を真っ赤にしながら、つかつかとカリムに詰め寄る。

「アンタ、ちょっと待ちなさい!!」
 
「何だ、リディア?」

「何かもう、言いたい事が渋滞じゅうたいし過ぎてるけど、まずは!!私がじんに惹かれてるって、どういうことよ!?」
 
「いや、どう考えてもそうだろう?」

カリムは堂々とした表情で答えた。

「私は、勇者殿を学びの師と仰ぐことに決めた! 君もまた、勇者殿を尊敬し、学ぼうとしているのだろう?」

カリムは一点の曇りもない目でリディアを見据える。

「だからこそ、“勇者殿を学びの師とする” という意味で、君と私は互いに切磋琢磨せっさたくまするライバルということだ!!!」

 

「……は?」

リディアの顔が、一瞬にして凍りつく。

 

「……私は、何かおかしな事を言っているか?」

カリムがキョトンとしている。



「いや、言い方………」

リディアががっくりと項垂れる。





「…………」

迅は、青ざめながら、震える声で言った。

「………もう……帰っていい?」

迅は、ぐったりと肩を落とした。

こうして、決闘後の戦場は “誤解” によってさらに混沌を極めていくのだった――。



 ◇◆◇



観客席のざわめきが、まるで遠くの波音のように耳をかすめる。

決闘の興奮と混乱、カリムの突拍子もない発言による騒動。


そのすべてを横目に、リディアはそっと視線を落とした。


ふと、風が吹いた。
涼やかな風が金色の陽光をまとい、決闘の余韻を訓練場に残す。



(……ありがとう。)



リディアは、心の中でそっと呟いた。

目の前では、迅がロドリゲスの後ろに隠れ、未だにカリムの “誤解発言” に震えている。
──本当に、もう帰りたいと言わんばかりに。

(全く、バカみたい……)

リディアはそんな彼を見ながら、わずかに微笑んだ。

彼は、いつも飄々としている。
頭が良くて、口が達者で、余計なことばかり考えている。

ときには、あまりに冷静で、まるで何にも興味がないようにも見える。

だけど――

(……私のために、怒ってくれた。)

あの時、カリムに「夢を否定された」瞬間。
自分は、いつものように反論しようとした。

でも――その前に、彼が立ち上がった。

「リディアの夢を否定するなら、俺が相手になってやるよ。」

その言葉が、今も耳に残っている。


(……ずるい。)


あんな風に言われたら。
あんな風に戦ってくれたら。

───もう、一度否定されたくらいで、諦められないじゃない。

リディアは、自分の胸の奥に芽生えた何かを静かに押し込めながら、
そっと、誰にも聞こえないように呟いた。


「……かっこよかったわ、ジン。」


それは、風に溶けるほどの小さな声だった。
誰にも聞かれなかった。

でも、彼女の胸の中に、確かに響いた。


(私も、もっと強くならなきゃね。)


ゆっくりと息を吸い込み、吐き出す。

騒がしい世界の中で、リディアは一人、静かに決意を固めた。

遠くで、迅がカリムに腕を掴まれながら、「だからもう手を離せって!!!」と叫んでいる。

その光景に、リディアはほんの少しだけ肩を震わせながら、笑った。

そして――そっと、彼の背中を見つめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...