科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第116話 王宮の戦場(中編)——乙女の作法は一つじゃない──

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「……は?」

王宮の華やかな祝賀舞踏会。
料理を取り戻った 迅を見つけた瞬間、リディアの眉間にピクリと皺が寄った。

——何、この光景?

迅を中心に、 不可解すぎる布陣 が形成されていた。

まず、 迅の片側にはカリムとミィシャ。
そして、 反対側にはエリナ。

カリムが迅の隣を確保しているのは いつものこと なので、さほど気にする必要はない。
だが——

(……ちょっと待って、なんでエリナさんが迅の隣に!?)

エリナといえば、最初 迅を毛嫌いしていたはず だ。

異世界人でありながら“勇者”という特異な立場の迅を、 信用できないとまで言っていたのに——。

それが今や、 自然と隣にピッタリと寄り添っている。

(えっ、どういうこと? いつの間にそんな仲良くなったの!? 遺跡で何があったの!?)

リディアの 思考がフル回転する。

考えてみれば、エリナは 白銀級冒険者として王国に認められた実力者。

そんな彼女が、迅と接する時間が増えれば…… もしかして、彼の魅力に気づいたとか!?

(いやいやいや!! そんなことあるわけ——)

そう思ったものの、エリナの 自然すぎる距離感 が “可能性” を否応なく突きつけてくる。

彼女自身は、特に意識しているようには見えない。
だからこそ、余計に厄介だった。

(ちょ、ちょっと待ってよ……。私だって、迅に話したいことが色々あるのに……!)

ここしばらく、遺跡での件の事後処理で、迅とゆっくり話す機会を作れていない。

この祝賀会で久しぶりにゆっくり話でも──と胸を躍らせていたのだが……

リディアは 自分の胸の中に、得体の知れないモヤモヤ が広がっていくのを感じた。


(う、うん……別に、迅が誰と仲良くなろうが、私には関係ない……関係ない……。)


必死にそう自分に言い聞かせる。
けれど、なぜか 心の奥で「ちょっと待って」と叫ぶ自分 がいる。

その時、ふと 以前ロドリゲスが言っていた言葉 を思い出した。


『勇者殿のもとに集まる女性は、これから本当に“常識外れ”な者ばかりになるやもしれん。』


(……もしかして、今まさにその状況になってない!?)


エリナは、若くして類まれなる実力を持つ白銀級冒険者。
そんな彼女が、迅に 好意を抱くようなことになったら……?


(……えっ、ちょっと……それ、すごく嫌なんだけど。)


リディアは、自分でも 予想していなかった結論 に 思わず動揺する。


(えっ、私、なんで“嫌”とか思っちゃったの……?)


別に、迅とはただの研究パートナーであり 仲間 のはずだ。
なのに—— なぜか、心がザワザワする。

(……ちょっと、意味分かんない。)

自分の感情が 整理できないまま、リディアは 咄嗟に迅とエリナの間に割り込む隙を探した。

(えっと……よし、あのタイミングで行けば……!)

彼女は、 猫が獲物を狙う時のように素早く行動開始。

何食わぬ顔で 迅のすぐ後ろに静かに立つ。

ぱっと見、ただそこに立っているだけ——

だが、明らかに エリナと迅の間に入り込もうとする狙いが見え見え だった。


(うん……うん、大丈夫。きっとそのうち隙ができるはず……!)


——しかし、リディアの 必死の工作 などまったく気づかず、
エリナは迅に寄り添うように立ち…


当の迅はと言うと、エリナとカリムにぎゅうぎゅうに挟まれながら、死んだ魚のような目でひたすら黙々と料理を口に運んでいた。


(……迅のその顔は、一体どういう感情なの!?)


リディアは 僅かに唇を尖らせながら、
迅とエリナの様子を横目で睨む。

(……もうちょっとだけ、近づいてみよう……。)

こうして、迅の周りの人口密度がまた少し上がるのだった。



 ◇◆◇



ミィシャは その光景を目の当たりにし、思わず目を疑った。

(……え? ちょっと待てよ……!?)

カリムが勇者の横をキープしている のは、実際目の当たりにするとショックではあるが、まあ想定内だった。

だが——

その 反対側にピッタリと寄り添うエリナの姿 は、まったくの想定外だった。

(……エリナ!? あいつ、最初は勇者のこと、あんなに毛嫌いしてたのに!? 何があったんだ!?)

遺跡での出来事は 詳しく知らない。
だが、明らかにエリナの態度が 最初とはまるで違う。

(……まさか、あたしがカリムに惚れたのと同じように……!?)

そう考えた瞬間、
ミィシャは閃いてしまった。

(ちょ、ちょっと待てよ!? もし、エリナが勇者に惚れて、勇者もエリナに惹かれる様な事になれば……!?)

エリナは白銀級冒険者。
その実力と名声はすでに確立されている。
ビッグカップルの誕生である。

(つまり、これは……カリムを勇者から奪う、チャンスなんじゃねぇーか!?)

ミィシャの 最大の懸念事項 は “カリムが勇者に夢中すぎる” ことだった。

エリナが勇者を籠絡する事が出来れば、カリムの目は勇者ではなく自分の方に向くのでは?

(──いや!そんな他人任せの姿勢でいいのか!?ミィシャ・フェルカス!!お前は今まで、欲しい物は自分の拳で勝ち取って来た女だろ!?)

ミィシャは自分自身に喝を入れる。
仲間であるエリナの想いは応援したい気持ちはあるが、それはそれ、これはこれ。

(あの時の誓いを忘れるな!!あたしは自分の力でカリムを振り向かせる女になるんだ!そして──)

カリムが 女性に興味を持たないのは、過去のトラウマのせい だと思っていた。

だから、ミィシャは 自分がカリムの『女』へのイメージを変えてやる!と意気込んでいた。

(カリムに『女だって、捨てたもんじゃない』と思わせてやるんだ!その為にも──)

(九条迅《くじょうじん》…… こいつさえ倒せば、カリムは私に振り向くはず……!)

ミィシャは、女嫌いのカリムが『九条迅の強さを目の当たりにして惚れ込んでしまった』と思っている。

その考え自体は、あながち間違ってはいないのだが──

だがすぐに、過去の戦いを思い出して 冷静になった。

自分が手も足も出なかった魔族"血鉄のタロス"。

そのタロスを、一方的に切り伏せたカリム。

そのカリムに決闘で勝ったという勇者・九条迅《くじょうじん》。


(……こいつ、カリムに勝つような化け物なんだよな……)


カリムの強さを目の当たりにしたミィシャは、人とはこんなに強くなれるものなのか、と感銘を受けた。

そのカリムを倒したとなると、九条迅《くじょうじん》の強さは最早ミィシャでは想像もつかない領域に至っている。

たとえ 打倒勇者 を目指したところで、
今の自分では勝ち目がない。

下手に喧嘩を売り、不興を買う事にでもなれば、最悪八つ裂きにされるかも知れない。

ミィシャは小さく身震いをする。

ならば どうするべきか。

(……ま、まあ、とりあえず今は、カリムの隣を確保しつつ、少しでも興味を引くしかない……!)

そう思ったミィシャは、
意を決してカリムの腕にそっと絡ませた。

ドキドキしながら、
そっとカリムの顔を見上げると──

カリムが何かに納得したように、真剣な顔で頷いた。

(……嫌がってない!? これは、頑張ればチャンスがあるのでは!?)

ミィシャは、カリムの腕を握る手に 少しだけ力を込めた。


(──今はこれだけで、充分かもにゃ。)


ミィシャ・フェルカス。
色々と間違っている彼女の初恋は、まだまだ止まらない。
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