真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第五章 魔導帝国ベルゼリア編

第185話 キスと希望と、とんでもない本

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風が、静かに流れていた。
さきほどまで荒れ狂っていた魔力の奔流が、嘘のように穏やかに沈んでいる。

空気はまだ微かに焦げていたが、そこにはもはや殺気も、憎しみもなかった。

アルドの前には、三人の仙道が膝をついていた。

紅龍、蒼龍、黄龍──三龍仙。
その姿は威厳を保ちながらも、どこか普通の人間のように疲弊して見えた。

それでも、彼らの瞳の奥には確かにあった。
「生き直す」という決意が。

そんな彼らに、ゆっくりと近づく者たちがいた。

マイネ、ベルザリオン、ジュラ姉。
神々しさと、険しさを纏った二人と一匹(※ティラノサウルス)の気配が、風に乗って流れる。

紅龍はその気配を感じ取ると、顔を上げる。
そこに立つのは、かつて自分が命を奪おうとした相手たちだった。

マイネは、冷たい眼差しを紅龍に向けた。
その表情には怒りも悲しみもなかった。ただ、真実を見据える覚悟が宿っていた。



「──道三郎に降ろうとも、貴様の罪が消えたわけではないからのう。」



声は淡々としていた。だが、その一言に宿る重みは、雷よりも鋭い。



「死より辛い生が待つやも知れぬぞ?
……覚悟のほど、見せてもらおうかの。」



紅龍は、一瞬だけマイネを真っすぐに見返した。
その目には、かつての傲慢な炎はなかった。
代わりにあったのは、ただ、悔恨と決意の色。



「承知の上だ。」



低く、しかしはっきりとした声で紅龍は答えた。
そして、額を地に伏せる。



「──すまなかった。」



その動作に続いて、蒼龍と黄龍も静かに頭を下げる。
三人が揃って頭を垂れる光景に、辺りの空気が震える。

ジュラ姉が短い腕を組んで、フシュルルルと鼻を鳴ら。
 
ベルザリオンは無言で頷き、マイネはただ、静かにその姿を見届ける。


そのときだった。



「アルドくん──!」

少し離れた建物の影から、ブリジットの声が響いた。
その隣には、リュナと、ミニチュアダックスの姿をしたフレキが駆けてくる。
風に金の髪が揺れ、泣き笑いの表情がその頬に浮かんでいた。



「ブリジットちゃん……」



アルドが優しい声で名を呼ぶ。

ブリジットは、アルドの傍らに立つ蒼龍を見て、息を呑んだ。
淡い蒼髪が光を受けて輝いている。
それは、もう“絶望の少女”ではなかった。



「蒼龍さん……よかったねぇ……」



声が震えた。
涙が頬を伝うのも構わず、彼女は笑った。
泣きながら笑うという、不器用でまっすぐな笑みだった。

蒼龍は、そんなブリジットを静かに見つめた。
その瞳の奥には、かすかに懐かしさが宿っていた。
ゆっくりと手を伸ばし、彼女の手を握る。



「かりそめのアタシの記憶は、今のアタシにとっては夢の中の出来事みたいなもの……」



蒼龍の声は、優しくも切なかった。



「それでも、アナタのことは覚えてるわ。……ブリジットちゃん。」



ブリジットの瞳が見開かれ、次の瞬間、また涙がこぼれる。

蒼龍は微笑み、さらに言葉を重ねた。



「ありがとう。アタシたちに……やり直す機会を与えてくれて……」

 

その声は、まるで祈りだった。
償いを越えて、“生きる”ことそのものを願う声。

ブリジットは首を振り、涙をぬぐいながら言った。



「そんな……! あたしは何も……!」

「全部……アルドくんのおかげだよ!」



その瞬間、二人の視線が自然とアルドの方へ向く。

アルドは、照れくさそうに頬をかきながら、二人に向かって小さく手を振った。



「へへ……どういたしまして、かな。」



空気が柔らかくなる。
少し前まで死と絶望の境界にあった場所が、
いまはまるで“日常”の一場面のように、穏やかな光を帯びていた。

リュナが小さく息を吐き、肩の力を抜く。
フレキは彼女の足元でしっぽを振り、キュッと鳴いた。

世界が、ゆっくりと動き出していた。

そしてその中心には──

ひとりの青年と、三人の仙道と、仲間たちの笑顔があった。



 ◇◆◇



静まり返った戦場に、ようやく安堵の風が吹き抜けた。

焦げた大地の上、アルドと三龍仙を囲むように仲間たちが集まりはじめる。
誰もが息をつき、ようやく笑える空気が戻ってきたその時──。



「……相変わらず、甘いっすねぇ~、兄さん。」



冗談めかした声が背後から聞こえた。
振り向くと、リュナが黒いマスク越しににやりと笑っていた。

金茶の髪を風に揺らしながら、腕を組み、彼女はアルドを見る。



「こんだけめちゃくちゃしてくれたあいつらまで、助けてあげちゃうなんてさ。……優しすぎるにも程があるっすよ。」



アルドは頭をかきながら苦笑した。



「はは……そうかもね。呆れちゃった?」



リュナは一拍置いて、マスクの奥で唇の形を変える。
そして、すっと人差し指で黒マスクを下へずらした。



「……いーや。惚れ直したっす!」



その瞬間、彼女の顔が近づき、アルドの左頬に柔らかな感触が触れる。

軽く、しかし確かに残る温もり。

アルドの身体が硬直した。



「えっっ!?!? リ、リュナちゃんっ!?!?」



頬が一瞬で真っ赤に染まり、両手で顔を覆う。
リュナはそんなアルドの反応を楽しむように、
首に両腕をまわし、イタズラっぽく笑った。



「兄さんって、ほんとわかりやすいっすねぇ~」


「ちょ、ちょっと離れて……!?!?」


「やーだ。今はサービス期間中っす!」



リュナの言葉に、周囲の空気が一瞬固まる。
そして──。



「なっ……なななななな!! リュナちゃん!?!?」



顔を真っ赤にして叫んだのはブリジットだった。
両手をわたわたと動かし、目をまん丸にして慌てふためく。



「な、なにしてんの!? そんなの、そんなの反則だよぉっ!!」



蒼龍がそんなブリジットの背中をバシンと叩いた。



「ブリジットちゃん! アナタも、負けてちゃダメよぉ!!」


「えぇぇぇ!? え、えぇぇぇぇっ!?!?」



突然の発破に、ブリジットは顔を真っ赤にして目を泳がせる。
リュナが「ほらほら、早く~」と挑発的な笑みを浮かべると、

ブリジットはギュッと拳を握りしめ、叫んだ。



「……あっ、あたしもっ!! 惚れ直したよっ!!」



勢いそのままに駆け寄り、アルドの右頬に──ちゅ。
 
リュナが驚きの声を上げる。



「おお~!? やるじゃん、姉さん!」



アルドは完全に真っ赤になり、動揺の極みで固まった。



「ぶ、ブリジットちゃんまでっっ!?!? これ何の流れなの!?」



リュナが腕を組み、「モテ期到来っすねぇ、兄さん」としたり顔を見せる。
ブリジットは顔を覆い、耳まで真っ赤になっていた。


……が、その直後。



「ギャタシも惚れ直したわァァーーッ!! アルド様ァァーーッ!!!」



ズガァァァン!!と地響きが鳴った。
ジュラ姉がティラノサウルスボディを揺らして走ってくる。
その巨大な口がガバッと開き──

バクンッ!!



「……ッ!?」



アルドの頭部がそのままジュラ姉の口に吸い込まれた。
彼の首から下だけが空中でぶらぶらと揺れている。



「アルドくん!?!?!?」

「な、何してんすか、ジュラっち!?!?」



ブリジットとリュナが同時に叫ぶ。
ジュラ姉はアルドの頭を咥えたまま、もごもごと喋った。



「二人と同じよぉ!! 親愛のキッスよ!! キッス!!!」


「どこがだよ!?!?」

「スケールが違うよ!?!?」



ぶら下がったままのアルドが、妙に落ち着いた声で言った。



「ねぇ、俺今どうなってんの、これ? マミさんみたいになってない?」

「……誰っすか、それ。」



リュナが呆れたように静かにツッコむ。



「あと、なんか凄いフローラルな香りがする。」

「香りの問題じゃないっしょ!!」



ブリジットは苦笑しながら、「あはは……」と額を押さえる。

蒼龍は爆笑して転げ回り、黄龍は呆れ顔で空を見上げ、紅龍は「……地龍に頭を咥えられながらもあの落ち着き様。流石、儂が見込んだ御方よ……!」とぽつりと呟いた。

アルドはというと、ティラノの口の中から呑気な声を上げながら、



(でも……真っ赤になった顔が隠せたのは、よかったかもね)



と、心の中でだけ小さく呟いた。



 ◇◆◇



ジュラ姉の大顎からようやく解放されたアルドは、
頭をぶらぶらさせながら、どっとため息をついた。



「……あー、びっくりした……頭、ちゃんとついてるよな……?」



手で髪を撫でながら呟くと、周囲から笑い声がこぼれた。
その笑いが消えていくのと同時に、夜風がひんやりと頬を撫でていく。
戦いの熱気が、ようやく遠のいていくのがわかる。

アルドは両手をかざし、水の魔法を展開した。



「"アクア・ストリーム"。」



透明な水が空中に浮かび上がり、滑らかに彼の頭上から流れ落ちる。
髪を濡らし、砂や焦げた血や唾液(※ジュラ姉の)を洗い流していく水流は、まるで温泉のように心地よかった。



「ふぅ~……やっぱり、魔法シャワーは便利だな……」



アルドが目を細めている間、周囲はそれぞれの空気を取り戻していた。

少し離れた場所では──

黄龍がベルザリオンに向かって、まるで子犬のように何度も頭を下げていた。

「すまなかった……すまなかった……!」

「もういいですよ、顔を上げてください」

とベルザリオンは苦笑いを浮かべていたが、
黄龍はなおも「いや、もう一回だけ」と続けて、結局十回目のぺこりを繰り返していた。


その隣では、紅龍がマイネに何かを言われて神妙にうなずいている。
マイネは左手を腰に当て、紅龍の額を小突きながら静かに言葉を重ねていた。

「……わらわを殺そうとした罪は、軽くはないぞ。けれど、償う道を歩むならば、それもまた罰の形じゃ。」

紅龍は深く頭を垂れ、「心得た」とだけ呟いた。


一方、蒼龍はというと──
もうブリジットとリュナ、そしてジュラ姉と肩を寄せ合い、何やらキャッキャと笑い合っている。

「それでね、リュナちゃんがアルドくんに“惚れ直したっす”って言った時の顔がもう!」

「ちょ、やめろし!!イジんの禁止~!」

「ギャタシもその時、思いっきり惚れ直したわよォ!!!」

その場は笑い声の渦だった。
まるで何事もなかったかのように──それが、蒼龍という存在の強さだった。

アルドは少し離れたところからその様子を見て、



(蒼龍さん、打ち解けるの異常に早いな……陽キャの香りがする……)



と、乾いた笑いを漏らした。

ちょうどその時、ヴァレンが後ろから現れた。
いつもの軽い足取り。けれどその瞳には、わずかに緊張の色があった。



「よっ、相棒。お疲れ!」



軽く肩を叩かれ、アルドは「あっ、ヴァレン」と振り返った。



「そっちもお疲れ様~。いやぁ、なんとか無事にひと段落したねぇ。みんな元気そうで、ほんとよかったよ~。あ、あとは、召喚者の子達が無事だといいけど……」



笑顔を浮かべながら、アルドは髪をかきあげる。
水魔法を止めると、風の魔力が渦を巻き、彼の髪を優しく乾かしていく。



「……"ウィンド・ドライ"っと。あとはちょっと熱を足して……」



手のひらを軽くかざすと、ふわりと暖気が広がり、彼の髪はさらさらと揺れた。

ヴァレンはその一連の流れを、黙って見つめていた。

その表情には、普段の軽薄さはない。



(……さっきの魔法。“再顕現リインカネーション”……)

(魂が完全に離れきる前の時間に限り、死者すら蘇らせるという古代魔法……もう何百年も前に、体系ごと失われたはずの……)

(今まで何気なく見ていたが……相棒、魔法の腕も超一級じゃねぇか……)



額に汗が滲む。
そして心の奥で、ふと疑問が浮かぶ。



(そもそも……“真祖竜”が人間や他種族の魔法を学ぶなんて、聞いたことがねぇ……  お前、いったい何者なんだよ、相棒……)



ヴァレンはごくりと喉を鳴らし、意を決したように口を開いた。



「なぁ、相棒。」

「ん? どうしたの?」

「お前さ……魔法の腕、マジで凄いよな。」

「え、そう?」



アルドはタオル代わりの風を止めながら、首を傾げる。



「一体……どこで、誰から学んだんだ……?」



アルドは少し考える素振りを見せてから、あっさりと答えた。



「んー……魔法? 誰からも習ってないよ?」


「……は?」



ヴァレンの顔が引きつる。



「だ、だってお前、色んな魔法使ってるじゃねぇか! 街作りにも土魔法使いまくってるし、回復も結界もやってたろ!」


「あー、それ? いや、実家いた頃、めちゃくちゃ暇だったからさー。」



アルドは肩をすくめ、笑った。



「倉庫にあった古い魔導書をね、なんとなく読んでみたら、結構面白くて。それからずーっと独学で練習してただけなんだ。」

「……独学?」

「うん。だから、俺が使える魔法なんて大したことないと思うよ? 攻撃魔法も、普通に殴った方が強いくらいの威力しか出ないし。」

「それは多分、お前の『普通に殴る』の威力が強すぎるだけで、魔法のせいではない気はするんだが…」



アルドは乾いた髪を指先で整えながら、気楽に言葉を続ける。



「ちゃんと読み込んだ本なんて、一冊だけじゃないかなぁ。だから、その本に書いてあった魔法、一冊分くらいしか覚えてないよ。まあ、その一冊の魔法は……全部完璧に使えるとは思うけど。」



風が吹く。
夜空の下、アルドの銀の髪が月明かりを反射して揺れる。

その無自覚な姿に、ヴァレンはただ呆然と立ち尽くした。



(独学……? 独学で、古代の蘇生魔法を……?)

(いや、そもそも……真祖竜の“実家の倉庫”に置いてある魔導書って何なんだよ!?)



ヴァレンは冷や汗を垂らしながら、慎重に尋ねた。



「ち、ちなみにだな、相棒……。その魔導書のタイトルって、覚えてるか?」



アルドは目を輝かせて、笑顔で答えた。



「そりゃもちろん! 何十年も読み込んだからね。
確か……“全魔典パンマギア”ってタイトルだったよ!」



その瞬間。



ヴァレンの表情が凍りついた。
月光の下、その顔から一瞬にして血の気が引いていく。

喉の奥で、何かを言いかけて──声が出なかった。



 ◇◆◇



風が止まった。
空に薄雲が流れ、月の光がヴァレンの横顔を照らす。

だが、彼の表情はさっきから固まったままだ。
顔の筋肉が引きつり、こめかみからは汗が滝のように流れていた。



(パ……“全魔典パンマギア”……だと……!?)

(バ、バカな……そんなもの、伝説の中だけの存在じゃねぇのか……!?)

(この世に生まれた“全ての魔法”が記され、世界に新たな魔法が生まれれば、それに沿って内容が更新されるという、神話級の魔導書……!)

(そこに書かれた魔法を“全て使える”って……もしそれが本当なら、相棒は……!!)



ヴァレンの脳裏で、世界中の禁書目録や大魔導士たちの伝承が電光のように駆け巡る。

全魔典パンマギア”──それは、古代文明を滅ぼすきっかけとなった“禁忌の書”とも言われる。

存在が確認された瞬間、各国が総力を挙げて奪い合い、歴史から消えた。

そんな書を──

アルドが“実家の倉庫にあった”と笑顔で言ったのだ。



「……はは……」



ヴァレンは引きつった笑いを浮かべ、全身を震わせながら言った。



「……あ、相棒……?」



アルドは、のほほんとした顔で首を傾げる。



「ん? どうしたの?」



ヴァレンは必死に平静を装おうとした。
汗が滴り落ち、笑顔が引きつる。



「そ、その本のタイトル……もしかして、記憶違いってことは……ないか……?」

「え? 記憶違い?」

「ほ、ほら! 似たような名前ってよくあるだろ!? よくよく思い出してみたら、“全魔典パンマギア”じゃなくてさ……“熊猫典パンダギア”だった!……とか!」



必死の冗談。
その声には笑いが混じっていたが、目が笑っていなかった。

アルドは一瞬ぽかんとした顔でヴァレンを見つめた後──

にっこり笑った。



「え? 違うよ~。“全魔典パンマギア”で間違いないって! ほら、この通り……」



そう言って、腰のマジックバッグをゴソゴソと漁り始めた。
ニュッと取り出されたのは、黒革に金の装飾が施された分厚い書物。
表紙の中央には、古代語の紋章が輝き、圧倒的な威圧感を放っていた。



《全魔典──Panmagia》



ヴァレンの喉が鳴った。

その場の空気が、一瞬で張り詰める。
空気の密度が変わった。
まるで、世界そのものがその書を“恐れている”かのようだった。

ヴァレンの目が見開かれ、次の瞬間──



「うわあああああああ!?!?!?“全魔典パンマギア”の実物持って来てるぅ!?!?」



派手な悲鳴がスレヴェルドに響き渡った。
思わずその場に尻もちをつき、地面をばたばた叩く。額の汗が滝のように流れ、目は白目寸前。

アルドは驚いたように眉を上げた。



「えっ? ヴァレン?」

「そ、それ……! 持ってるだけで国が滅ぶレベルのブツだぞ!? 何しれっと倉庫から持って来てんだよぉぉッ!!」

「えっ。これ、そんなにヤバいやつなの?」

「ヤバいどころじゃねぇッ!! “存在してること自体が反則”なんだよ!!!」



ヴァレンは腰を抜かしたまま、肩で息をしている。

アルドはその様子を見て、ぽかんとした表情のまましばらく固まった。
それから、おそるおそる手元の魔導書を見つめ──



「……そっか。」



小さく頷いた。

そして──



「よし。無かったことにしよ。」



と言いながら、マジックバッグの奥深くにそっとしまいこんだ。



「お、おい……しまい方が軽すぎるだろ……!?!?」



ヴァレンは頭を抱える。
アルドは無邪気に笑いながら、軽く手を振った。



「大丈夫だって!実家では何十年、何百年も誰も触らず埃かぶってたし、誰にも見せなきゃ問題ないでしょ?」

「その理屈は通用しねぇ!!!」

 

荒野に再びヴァレンの絶叫が響いた。
蒼龍たちは遠くからその様子を眺め、首をかしげている。



「ねぇ、あれ何してんの?」「兄さん、またやらかしたんすねぇ……」

 

そんな中、アルドは頬をかきながら苦笑した。



「いやぁ……なんかごめんね、ヴァレン。ただの古本だと思ってたからさ。あんまりレアなもんだとは思ってなかったんだよ。」

「レアどころか! そのレベル、もう神話の域だからなぁぁぁ!!!」



ヴァレンは叫びながら、空を仰いだ。
そして心の中で、天に向かって呟く。



(相棒……お前はいつだって、俺の想像を超えて来る……)

(だが……今回のは、ちと超えすぎだぜ……!)
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