真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第五章 魔導帝国ベルゼリア編

第187話 紅龍の謝罪、見えざる英雄の帰還。

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──ドォォォォォン!

床を震わせるような衝撃音と共に、空気が爆ぜた。

アルドが掌をかざし、「竜泡(ドラグ・スフェリオン)」を解放すると、
そこから紅蓮の人影が現れた。

紅龍。

紅蓮の衣をきらめかせ、鋭い紅瞳で周囲を見渡すその姿に、召喚高校生たちは一瞬で凍りついた。



「ギャアアアアッ!!!」

「う、うわああああっ!!」

「出たぁぁぁ!!!」



女生徒たちは泣き叫び、後方に逃げ惑う。
男子の何人かは腰を抜かして床を這いずって後ずさる。

オタク四天王と呼ばれていた石田・藤野・久賀・西條の四人は、ほぼ同時に「無理無理無理っ!!!」と叫びながら、壁際まで後退し、そのままへたり込んだ。

だが、その混乱の中で三人だけは踏みとどまっていた。

鬼塚玲司、佐川颯太、一条雷人──

紅龍に立ち向かった事のある、三人の戦士たちだ。



「て、てめぇ……紅龍!!」



鬼塚が拳を握りしめ、歯を剥く。



「何しに来やがった!? まだ俺たちとやる気か!?」



佐川の声も、怒りと恐怖で震えていた。

一条は額の汗を拭いながら、震える手でサーベルの柄に手をかける。



「鬼塚、佐川……! 僕たち3人でかかれば……ッ!」



緊張が爆ぜる直前──



「ちょ、ちょ、ちょっ!! ストップ! ストーーップ!!」



慌ててアルドが前に飛び出した。
両手をぶんぶんと振りながら、三人と紅龍の間に立ちはだかる。



「違う違う! もう敵じゃないから! 落ち着いて! 気持ちは分かるけども!」



鬼塚たちが半信半疑の視線を向ける中、アルドは必死に弁明を始めた。



「えっと、まず──彼、もう戦う気ないです! 俺がボコボコにしたんで!完全に降参済み! ね、紅龍さん!」



紅龍は一瞬きょとんとしたが、すぐに頷いた。



「……そ、そうです。はい。完敗しました。」


「で、彼も異世界からの召喚者で、ベルゼリアに洗脳されてたの! だから暴れてたのはそのせい!つまり悪いのはぜ~んぶベルゼリア! 洗脳が悪い!」

(……まあ、それ半分嘘なんだけどね!)
 


アルドは内心で冷や汗をかく。だが、紅龍が本当のことを言い出す前に続けた。



「で、紅龍さんはめちゃくちゃ反省してて、
皆に謝りたいって言ってる! ほら、ね!?」



言いながら背中をドンと押す。

紅龍は少し戸惑いながらも前に出て、
重々しい声で言った。



「い、いえ、師父。儂がこやつらにした事と、ベルゼリアの洗脳はあまり関係が──」

「だまらっしゃい!」



アルドが素早く紅龍の肩を引き寄せ、顔を近づけて囁いた。



「そういうのいいから! 今は『洗脳されてたんでスミマセン!』って流れで行こう!
皆を落ち着かせるのが先! 全部ベルゼリアが悪い! OK!? ね!?」



紅龍は一瞬だけ目を瞬かせ、
そして静かに頷いた。



「……わ、分かりました。師父が、そう仰るのなら。」

 

その「師父」という言葉に、アルドの動きがピタリと止まる。



「……ちょっと待って。師父って何? 師匠みたいな意味のやつだよね? 俺、紅龍さんの師匠でもなんでもないけど」



慌てるアルドをよそに、紅龍は片膝をついた。
胸の前で拳と掌を合わせ、恭しく頭を垂れる。



「いえ、貴方様は奇跡の御業で姉兄を救い、
儂に新たなる生きる道を示して下さった御方。
師父と呼ばずして、何と呼べましょうか。」


「いやいやいや、アルドとでも何でも呼べばいいじゃん。そういうのやめて? 恥ずかしいから!」



アルドは慌てて紅龍の肩を掴んで引き上げる。



「もう! 立って立って! 周り見て! みんなドン引きしてるから!」



──実際、召喚高校生たちは完全に固まっていた。



「あ、あの紅龍が……頭下げてる……」

「しかも敬語だぞ!? ベルゼリアの王族相手にもタメ口だったのに!?」

「何者なんだ、あの銀髪の子……!」



ひそひそ声がフロア中を飛び交う。
泣き出していた女生徒たちも、思わず涙を止めて口をぽかんと開けた。

紅龍はそんな視線を気にする様子もなく、
ゆっくりと立ち上がると、
再び深々と頭を下げた。



「皆の者……儂は、かつてお主らに多大な害を成した。その罪、決して軽くはない。だが今は……己が過ちを悔い改めたい。師父の導きの下、償いの道を歩む覚悟だ。」



その声音は低く、堂々としていた。
けれど、そこには確かに悔恨の色があった。

高校生たちは互いに顔を見合わせ、
その場に重苦しい沈黙が落ちた。

アルドは内心で



(思ってたより大人しめなトーンで話してくれて助かった……)



と安堵し、胸を撫で下ろす。

──しかし同時に思う。



(……なんで俺、“師父”扱いされてんだろう……?
つーか、俺の導きの下で償いの道を歩む予定なの? 聞いてないんだけど。)



どこかくすぐったい違和感を抱えながら、
彼はただ苦笑いするしかなかった。



 ◇◆◇



紅龍は、その身体を少し傾けながら、
一人、また一人と、高校生たちの前で頭を下げていった。



「……すまなかった。」



その低く響く声には、かつて空を焦がした咆哮の迫力はない。
ただ、静かに、深く沈んだ響きだけが残っていた。

生徒たちは恐怖に身体を強張らせながらも、
その紅龍の背中にどこか人間らしい弱さを感じ、言葉を失っていた。



「う、うそだろ……あの紅龍将軍が……謝ってる……?」


「ちょ、ちょっと待って……夢じゃないよね……?」



誰もが信じられないという顔で見つめる中、
紅龍は、泣きじゃくる女生徒にも、震えるオタクたちにも、
一人ひとりに深く頭を垂れた。

そのたびに床の板がわずかに鳴り、
その音が、まるで“贖罪の鐘”のようにフロアに響いていた。

やがて紅龍は最後の四人──鬼塚、佐川、天野、一条──の前に立つ。


その瞬間、空気が一変した。


紅龍の紅の瞳と、鬼塚の黒い瞳が真正面からぶつかる。
周囲の喧騒が消え、まるで時間が止まったようだった。

アルドはその様子を見て、
思わず息を飲む。



(頼む……頼むから穏便に……!)



紅龍は無言で一歩前に出た。
その立ち姿に、鬼塚の身体が一瞬緊張で強張る。
だが、鬼塚も怯まない。拳を握り、紅龍を真っ直ぐに睨み上げた。



「……俺はな、『洗脳されてたから仕方ねぇ』なんて言葉じゃ、納得できねぇ。」



その声は、怒号でも非難でもなかった。
震えを押し殺した、ひどく静かな声だった。



「……一発、殴らせてくれ。」



その言葉に、周囲の生徒たちが息を呑む。
紅龍はゆっくりとまぶたを閉じ、静かに頷いた。



「……童、いや、鬼塚玲司よ。
貴様の怒りは当然のこと。儂に拒否する権利は無い。」



その声は、かつて天を揺らした将軍の声ではなかった。
長い年月の戦いの果てに、ようやく“人”の言葉を覚えたような、穏やかな声音だった。

鬼塚は、拳を握ったまま、数歩前へと進む。
腕の筋肉が軋む。歯を食いしばり、目に涙が滲む。


──ゴウッ。


紅龍の顔面へ向けて、拳が走る。
だがその拳は、紅龍の鼻先すれすれで止まった。

時間が止まったように、全員が見守っていた。

鬼塚は拳を震わせながら、
やがて大きく息を吐いた。



「……止めだ。」



紅龍はゆっくりと目を開ける。
鬼塚は拳を引っ込め、悔しそうに、けれどどこか清々しい表情で言った。



「ここであんたを殴っちまったら、俺はマジもんの“卑怯者”になっちまう。」



紅龍は微かに目を細め、
低く、静かに呟いた。



「そうか……。」



その短い言葉に、数百年の重みが宿っていた。

アルドはその光景を見て、



(……すげぇな、鬼塚くん。強いよ、ほんと。)



と、胸の奥で呟いた。

次に、佐川が前へ出る。
天野を庇うように立ちながら、紅龍を見据える。



「……俺は、アンタが唯にしたことは、まだ許せねぇ。」



その声には怒りがあった。だが、それ以上に誠実な響きがあった。



「だけど……俺がしちまったことを、許して、助けてくれた人がいる。」



そう言って、佐川は少し離れた場所でこちらを見ていたヴァレンに視線を向けた。

ヴァレンは、口元にいつものチャラい笑みを浮かべ、ひらひらと手を振った。

紅龍は、その仕草を見て一瞬だけ目を細め、
静かに頷く。

佐川は天野の方を見て、小さく笑った。



「だから……俺も、アンタを許せるように、努力しようと思うよ。」



その言葉に、天野は小さく息を呑み、
そして前に出て、紅龍をまっすぐ見た。



「あ、あたしも……颯太くんと、同じ気持ちです。」



震える声だったが、その瞳には揺るがない意思が宿っていた。

紅龍は、少しの沈黙のあと、深く頭を下げた。



「……礼を言う。」

 

その一言で、ようやく紅龍の肩がわずかに緩む。
その背はどこか寂しげで、それでいて安堵にも似ていた。

──そして、最後に残ったのは一条だった。

彼は、他の三人とは違い、サーベルの柄に片手を添えたまま微動だにしない。
その瞳には、怒りでも恐怖でもない、ただ冷静な光が宿っていた。

沈黙が、数秒。
紅龍が静かにその視線を受け止める。

一条は、ゆっくりとサーベルの柄から手を離す。



「……僕は、ただ観察していた。
今の貴方の行動が、赦しを乞うための“演技”なのか、それとも本心なのか。」



紅龍の目が細く光る。
だが一条は続けた。



「……どうやら、本気のようだ。
だったら、僕は判断を保留する。
貴方の行いが本物なら、いつかきっと……“結果”で示されるはずだから。」



それは、一条なりの“赦しの猶予”だった。

紅龍は再び、深く頭を垂れる。



「……心得た。己が生き様で示そう。」



その瞬間、長く張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
鬼塚が「ふう」と息を吐き、佐川は天野の肩を軽く叩き、一条は静かに目を閉じた。

アルドは胸を撫で下ろし、



(……よかった。ようやく、ひとつの輪が繋がった気がする。)



と小さく微笑んだ。

──紅龍の贖罪と、少年たちの赦し。
それは、過去の痛みを“許す”というよりも、
“共に背負う”という形で結ばれた、奇妙で美しい絆だった。



 ◇◆◇



沈黙が訪れた。
謝罪も涙も終わり、ただ重たい空気だけが残った。
その中心で、紅龍はゆっくりと息を吐き出した。

紅の瞳が三人──鬼塚、佐川、一条──の顔を順に見つめる。



「……正直に言おう。」



低く、どこか疲れを含んだ声だった。
その一言で、三人は思わず背筋を伸ばす。



「儂は、貴様ら三人の“才”に……嫉妬していたのかもしれん。」



予想外の告白に、空気が一瞬凍った。



「──は?」



鬼塚が思わず声を漏らす。



「アンタが、俺たちに……嫉妬だと?」

「俺たちが、手も足も出なかった、アンタが?」



佐川も一条も、信じられないという顔で紅龍を見た。

紅龍が小さく笑みを浮かべる。
くっくっく……と、喉の奥で鳴る笑い。
それは、一国の将軍というより“年長者”の微笑だった。



「儂が何年……いや、何百年、戦いの中に身を置いておると思う?」



紅龍はゆっくりと天井を見上げる。
その瞳には、遠い昔の空が映っていた。



「数えきれぬ修羅を潜り抜け、敗北を知ることさえ忘れたこの身だ。だが貴様らは、平和な世からこの世界に招かれ……たった二月足らずで、儂に届き得る牙を持つほどに成長した。スキルの恩恵はあれど──これを天賦の才と言わずして、何と呼ぶ?」



誰も、何も言えなかった。

鬼塚は握りしめた拳を下ろし、
佐川は息を呑み、
一条はわずかに眉を上げた。

不本意にも、胸の奥が熱くなる。
“紅龍に認められた”──それは、否応なく嬉しいことだった。

天野は三人の様子を見て、そっと微笑んだ。
さっきまでの緊張が、少しずつ和らいでいくのを感じていた。

紅龍はそんな空気を感じ取ったのか、
にやりと口の端を上げる。



「……とはいえ、まだまだ。
儂の膝下にも届かぬヒヨッコどもではあるがな。」



挑発混じりの口調。
空気が一瞬、軽く弾けた。

鬼塚がニッと笑う。



「言ってくれるじゃねぇか。
 ……何なら、試してみるか?」

「おいおい!」



佐川が慌てて肩を掴む。



「鬼塚、今そういう空気じゃねぇだろ!」



一条も呆れ顔でため息をつく。



「時と場所を選べ、鬼塚。」

 

しかし、紅龍はすでに軽く構えを取っていた。
ほんの冗談のつもりだったのかもしれない。

けれど──その瞬間。



「紅龍さん、ステイ。」



アルドの声が背後から飛んだ。

ぴたり。

紅龍の動きが凍る。
次の瞬間、ビクリと身体を震わせて、



「ハッ!! アルド師父!!」



雷に打たれたように背筋を伸ばし、
そのまま跪いた。



「空気が柔らかくなったのはいいんだけどさ。」



アルドは苦笑しながら顎に手を当てた。



「まだ早いから。そういうじゃれ合いは。」


「し、失礼いたしました!!」



紅龍は即座に深々と頭を下げた。
その真面目さが逆に滑稽で、周囲の緊張が一気に抜けていく。

高校生たちはざわめいた。



「え、えぇ!? あの紅龍将軍が……完全に服従してる!?」

「“師父”って呼んでたけど……マジで師弟関係なの!?」

「やばい、あの銀髪の子……紅龍将軍より格上ってコト……?」

 

アルドは苦笑いを浮かべながら、みんなに向かって手を振った。



「みんなー、多分もうしないとは思うけどね。
もし紅龍さんがまたオイタしそうになったら、俺がすぐ駆けつけてぱたいてでも止めるから、安心してね。」



紅龍は青ざめたような顔で叫ぶ。



「め、めめめっそうもございません!!
この紅龍、アルド師父の御心に背くことなど、決して……!」



そのまま、まさかの土下座。



「いやいやいや! 分かった! 分かったから!
だから土下座はやめて!? 皆の見る目がすごいことになってるから!」



アルドは慌てて紅龍の肩を引き上げる。
しかしその様子はまるで“飼い主が大型犬を起こす”ようで、見ていた高校生たちは揃って口を開けたまま固まった。

鬼塚はぽかんとした後、
思わず心の中で呟いた。



(あ、あの紅龍を……あそこまで完全に折るなんて……す、すげぇ……!)



一条も静かに頷く。



(……やはり、彼は只者じゃなかった。
力を持ちながらも、決して傲慢にならぬその姿勢──真に尊敬すべき“勇者”だ……。)



佐川は肩をすくめて苦笑する。



「はは……ま、少なくとも、もう危なく無いって事は分かったな。」



紅龍はまだ神妙に跪いたまま、アルドを仰ぎ見ていた。

その眼差しには、恐怖でも服従でもない。
 
──崇拝。

かつて国を焼いた紅蓮の竜が、
一人の少年を師と仰ぐ。

その光景は、誰の胸にも深く焼きついた。



 ◇◆◇



──しん、とした空気が流れた。

紅龍と高校生たちの和解の余韻が、まだフロアに漂っていた。
それは確かに、安堵と赦しの空気。
けれど、その中に、ほんの僅かな“違和感”が混じっていた。

最初にそれを口にしたのはブリジットだった。



「……あれ? あたしたち……なんか、忘れてるような気がしない?」



リュナが首を傾げる。
金茶の髪がさらりと揺れ、瞳がきょろきょろと周囲を見渡した。



「……言われてみれば、そうっすね。なんすかね、これ。」



隣でフレキが尻尾をふりふりしながら同調する。



「えーっと……ご飯は食べましたっ。アルドさんも無事ですっ。ヴァレンさんも泣いてましたっ。……えーと、それ以外に……?」



ヴァレンは何やら佐川と天野との会話に夢中になってる。
アルドは苦笑しながら、その光景を遠目に見た。
だが同時に、胸の奥で何かが引っかかっていた。



(……何だ、この感じ……? ほんの少しだけ、何かが“抜け落ちてる”ような……)



“忘れている”という感覚。
だが、その「何を」思い出せないことが、逆に不気味だった。


──その時だった。


バァンッ!!


重厚な金属扉が勢いよく開く音が、謁見の間全体に響いた。



「うわっ!?」



アルドは思わず肩を跳ね上げる。

しかし──誰も反応しなかった。

マイネも、ベルザリオンも、紅龍も。
高校生たちでさえ、まるでその音が聞こえなかったかのように微動だにしない。



(……え? 今、めっちゃでかい音したよね?)



アルドだけが、扉の方を振り向いていた。

次の瞬間──

“何か”が、ゆっくりと入ってきた。

それは、宙に浮かぶ人影だった。

銀のロープで全身をぐるぐる巻きに縛られた女性。
長い髪がふわりと揺れ、白いローブの裾が風もないのにたゆたう。


──フラム・クレイドル。


気絶したまま、何の支えもなく宙を進んでくる。
音もなく、影も落とさず、まるで“空間を滑る”ように。

アルドは背筋を凍らせた。



(な、なんだアレ!? ポルターガイスト!? 呪い系!? こっわ!!)



フラムの身体はまるで見えない糸に引かれるように、スー……スー……とこちらへ向かってくる。

他の誰も気づかない。
リュナもブリジットも、そのまま雑談している。
アルドだけが、異常な世界の“中心”に取り残されていた。

フラムは、ゆっくり、ゆっくりと近づき、
ついにアルドの目の前でピタリと止まった。



「………………。」



アルドはごくりと唾を飲み込む。
視線を逸らせない。



(な、なんで近づいて止まるの!? やめろって!動け俺の身体!)



フラムの髪がふわりと持ち上がり、
そのすぐ後ろ──

空気が“ずれる”ように揺れた。

次の瞬間。

スーッ……

まるで透明なカーテンが剥がれ落ちるように、
一人の少年の姿が浮かび上がった。

黒髪、少し猫背、どこか頼りなげな表情。



「俺です、アルドさん!」



──影山だった。



「オワーーーッッ!?!?!?」

 

アルドの叫びが天井に響き渡る。
その勢いで尻もちをつき、
ズサァァと床を滑りながら、思いっきり腰を抜かした。



「ぎゃああ!? 兄さん!? どーしたんすか!?」



リュナが振り向き、ようやく皆がその異変に気づく。

ブリジットが目を丸くし、
マイネは「ぬおっ!?」と玉座の上で半立ちになり、
紅龍は構えを取ろうとしてアルドに止められた。



「い、いや!違うの! 敵じゃない!」



アルドは慌てて指を差す。
影山は、宙に浮いたフラムを肩に担いだまま、
少し困ったように笑った。



「……びっくりさせちゃいましたか。すみません。」



彼が言うと同時に、空気の膜が“破れた”ような音がして、周囲の人々が一斉に彼の姿を認識した。



「えっ……えええっ!? 影山くん!?」

「ちょ、ちょっと!? いつの間に!?」

「つーかお前……一緒に異世界に来てたっけ!?」



高校生たちが一斉にざわつく。

アルドは額の汗を拭いながら、呆然と影山を見た。



(……そうだ。そういえば……影山くん、ちょっと前からいなかったじゃん!ずっと……この空気の中に、居なかったのに……何で、俺まで・・・気づかなかったんだ……!?)



思考の奥で、何かがざわめく。
忘れられていた存在が、世界の隙間から戻ってきた。

アルドは静かに呟いた。



「……影山くん……?」



その声に、影山はにこりと微笑んだ。



「アルドさん。俺、ようやく……スキルのコントロール、出来るようになったみたいです!」



──そう言って笑うその顔は、どこか“人間らしい安心”と、“この世ならぬ静けさ”を同時に宿していた。
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