真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第五章 魔導帝国ベルゼリア編

第196話 生まれて初めての本気

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目の前にそびえるのは、巨大な機構塔——その名も"ソウル・ドライバー"。

地上のどんな建造物とも違う、魔法と科学が融合したようなフォルムをしていた。

半透明の魔力管が地層の中から幾重にも這い出し、中心部へと脈動を送り込んでいる様は、まるで生きているかのようだった。



(……修学旅行みたいだな)

 

ふと、そんな場違いな感想が胸に浮かんだ。
後ろを振り返ると、日本から召喚された高校生たちが、誰一人として言葉を発さず、沈んだ顔をしていた。

まあ、無理もないよね。

──ちなみに、俺たちは今、「フォルティア荒野」地下の大トンネルにいる。

ついさっきまでアグリッパ・スパイラルの最上階にいたってのに、みんなで俺の真祖竜スキル"竜渦"を通って一瞬でここまで来たのだ。

どこ◯もドアみたいな使い方も出来るのが、このスキルの便利なとこだね。一度行った事あるところにしか繋げないけど。



「すごいすごい! 一瞬でフォルティアまで戻って来ちゃったねぇ!」



無邪気にはしゃぐブリジットちゃんの声が、静まり返った空気に明るさを運ぶ。かわいい。



「はー……兄さん、相変わらずハンパ無いっすねぇ……!」



隣でリュナちゃんが呆れたようにため息をつく。かわいい。

彼女の胸元には、抱っこされたフレキくん(ミニチュアダックスモード)がハッハッハッと息を吐いている。今日はリュナちゃんに抱っこする日なんだね。かわいい。



「……せっかく本物の日本の高校生たちもいることだし、行きと同じ修学旅行バスでゆっくり帰るのもアリかとも思ったんだが……皆があの様子じゃあな」



ヴァレンが肩を竦めながら、沈んだ高校生たちに視線を送る。かわいくはない。

彼らの視線は床に落ちたままで、まるで魂ごと吸い込まれたかのように動かない。俺は小さく息を吐いた。

無理もないか。故郷に帰れる可能性が、まだ見えてないんだもんね。

そんな中、ベルザリオンくんが静かに前へ出る。

古びた操作パネルの前に立つと、手袋を外し、右手の指先を透明な魔導スクリーンに押し当てた。


ピコン。


音が鳴ると同時に、パネルの魔紋が淡く光を放ち、文字列が走る。


──認証完了。ロック解除。



「ロックは滞りなく解除されました。後はよろしくお願い致します、道三郎殿」



ベルザリオンくんは背筋を伸ばしたまま、こちらを振り返ると軽く頭を下げた。



「ああ。任せて」

 

俺は頷き、そして傍に立つマイネさんの方を振り返る。



「とにかくさ。この"ソウル・ドライバー"ってヤツの中で、俺が魔力をフルパワーで発揮すればいいんだよね?」



俺の問いに、マイネさんは神妙な顔つきでコクリと頷いた。



「その通りじゃ」



その声には、いつもの様な自信家の響きはない。
代わりに滲んでいたのは、強い期待と……少しの不安だった。



「この先の部屋は、中で生じた魔力を吸収し、エネルギーへと変換する仕組みになっておる。異世界への帰還には、常識では測れぬほどのエネルギーが必要なのじゃが……」



彼女は俺を真っすぐに見つめ、言葉を絞り出すように続けた。



「道三郎。お主なら、或いは、それを成し得るかもしれぬ。妾が、そう信じておる」



俺は肩をすくめて笑ってみせた。



「期待に応えられるように頑張るよ。」



そのとき、後方にいたフラムさんがギリッと奥歯を噛み締める音が聞こえた。
彼女は今、後ろ手に縛られたまま、言葉もなくそのやりとりを見ている。

きっと彼女にも葛藤があるんだろうね。

この“帰還装置”を動かせる者が、他でもないベルザリオンくんであること。
そして、彼が“本物のリヴィス・ハルトマン”の転生体であること——。

その事実が、フラムさんの中で折り合いをつけるには、まだまだ時間が必要なのだろう。



「さーてと」



俺は両手をぐっと組んで、肩を鳴らした。



「じゃあ、いっちょやってみますか。全力、出しちゃっていいんだよね?」



俺がそう口にした瞬間。
ほんの少し、マイネとヴァレンが顔を引き攣らせて、同時に一歩下がった。

えっ。なんで引くのよ。



 ◇◆◇



「で、でもさ……」



沈黙を破ったのは、勇者・佐川颯太くんだった。

顔色はさっきよりさらに青くなってて、目も泳いでる。隣の唯ちゃんを気遣ってるようで、たぶん自分も限界ギリギリだ。



「この装置を動かして……帰るには、太陽一個分くらいのエネルギーが必要なんだろ……?そんな、無茶苦茶なエネルギー……いくら、アルドさんが強いったって……」



彼の言葉に、周囲の高校生たちがざわっと揺れる。胸の中に押し込めてた不安が、引き金を引かれたように噴き出した感じ。



「……太陽が1秒間に放出するエネルギーは、約3.82 × 10の26乗ジュール……」



と、ザ・理系男子こと一条雷人くんがぼそっと続けた。



「人類全体の約28兆年分のエネルギーに相当する……それを、アルドさん一人で賄うなど……いくらなんでも……」



そんなスゴいのね、太陽って。
全然知らなかった。一条くん、物知りだね。
改めて太陽先輩の偉大さにビビる。

が、そのとき。



「いや、正確に言うと、そこまでのエネルギーが必要な訳ではないのじゃ」

 

マイネさんの澄んだ声が、落ち込む空気に差し込んだ。

その瞳は冷静で、でもその奥に「一縷の希望」がちゃんと灯ってる。



「この"ソウル・ドライバー"は、魔力を転移用のエネルギーへと変換する仕組みになっておる。じゃが……その変換効率が悪い。エネルギーロスが激しすぎるのじゃ」



つまり……いっぱい詰めても、漏れちゃうってことか。



「上手く、変換しやすい”波長”の魔力を放出できれば、エネルギー損失は減る。効率が上がれば、必要な魔力量もずっと少なく済むはずじゃ」



……なるほど、って事は。



「どうじゃ、道三郎。お主なら、魔力の波長を自ら調整することも可能なのではないか……と踏んだのじゃが」

 

マイネさんは俺の目を見た。真っすぐな視線だった。嘘がなくて、信じてるっていう……なんか、あったかいやつ。



「……ふむふむ、つまり」



俺は腕を組んで、顎に手を当てて考えるポーズ。



「エネルギー変換にピッタリ合った魔力の波長を自分で出せば、効率よくエネルギー化できる。だから……俺が、そのベスト波長の魔力を全力で出せばいいってことだね?」

 
「うむ、そういうことじゃ!」

 
「やー、でもさ」

 

俺はぽりぽりと後頭部をかいた。



「魔力の波長とか、いじったことないよ?俺。 いじれるのかどうかも分かんないけど……」


「…………」

 

マイネさんの眉がわずかに寄った。ヴァレンも口元を引きつらせてる。

と、彼が笑って肩をすくめた。



「ま、そりゃそうだ。魔力の波長ってのは、生き物にとっては”個体情報”みたいなもんだ。声紋とか指紋とかと同じで、基本変わらねえ。調整できる奴なんて、見たことねぇ」

 

えっ、そうなの?
じゃあ、なんで俺なら出来ると思ったの?



「でも」



ヴァレンはニッと牙を見せた。



「お前なら、なんとかなる気がする。なぁ、相棒?」


「うーん……」 



信頼なのか無茶ブリなのか、判断に困る。
俺は腕を大きく回して肩を鳴らす。右、左。足も軽く屈伸しておく。



「まあ、やってみようか。」



俺の言葉に、高校生達の表情が少しだけ和らいだ気がした。



 ◇◆◇



「でもさ──本当に、大丈夫なのかな?」

 

ふとした疑問が口をついて出た。軽く笑いながら言ったつもりだったけど、意外とみんな真顔になった。

 

「……何がじゃ?」

 

マイネさんが首をかしげて聞き返してくる。あの高慢なお嬢様口調も、今はちょっと控えめで。

 

「いやさ、俺……こう見えて、まだ一度も”本気”出したことないんだよね。生まれてから、ずっと」

 

俺がそう言うと、空気がピシッと固まった。

 

「だからさ。本気で魔力出したら、どうなるか俺にも分かんないのよ。ぶっちゃけ……施設とか、大丈夫なのかなーって思ってさ。 強度とか、魔力耐性とか……爆発耐性とかさ」

 

……沈黙。

 

マイネさんとヴァレンが、一瞬視線を交わして──

 

「……だ、大丈夫じゃ……たぶん……!」

 

マイネさんがそう言いながら、こっそり一歩下がった。

 

「ソウル・ドライバーの魔力吸収機構は、理論上、上限など無い……はず……じゃ。完璧……の、はずじゃ……っ!」

 

いや、めっちゃ動揺してるじゃん。
不安になるんですけど。

 

「……と、とりあえず」

 

今度はヴァレンが、一歩後ろに下がりつつもフォローを入れる。

 

「万が一のときは、影山クン達は俺が守る。リュナ、お前はブリジットさんとフレキくんを頼む」

 

「りょっ」

 

リュナちゃんはピースの代わりにOKマークを指で作って、あっさり承諾。

その横で、召喚高校生たちがザザッと一斉に動いて、ヴァレンの背後に避難した。
なんか俺、爆発物みたいな扱いを受けてない?

 

「頑張ってね! アルドくん!」

 

パタパタと走ってきたのはブリジットちゃん。

頬を少し赤らめながら、俺の前に立って、ぎゅっと拳を握っている。

 

「影山くんたちを……おうちに返してあげられるように……あたしにも、できることがあったら良かったんだけど……」

 

その言葉に、俺は自然と笑ってた。

 

「それじゃさ。俺のこと、応援しててくれるかな?」

 

「え?」

 

「ブリジットちゃんが応援してくれてたら、きっと上手くいくと思うんだ」

 

目を瞬かせたブリジットちゃんは、次の瞬間ぱあっと笑って──

 

「うんっ! あたし、アルドくんのこと信じてるよ!」

 

俺の心に、ぽっと灯がともったような気がした。重圧も緊張もある。でも、これで十分。

 

「……よーし。それじゃ──」

 

腕まくりをして、背筋をぐっと伸ばす。

 

「一丁、やってみますか」

 

目の前のソウル・ドライバーの扉が、ゆっくりと開いた。

中から吹き出してくるのは、ひんやりとした、人工的な空気。けれど、確かにそこに“何か”があると感じさせる圧。

振り返って、全員の顔を見渡した。

沈んだ表情も、不安そうな目も──それでも、俺を信じようとしてくれてる。

その視線の全部に、俺は無言で頷いた。

 

「……行ってきます」

 

そして、俺は一人、白い部屋の中へと足を踏み入れた。



 ◇◆◇



扉が、無音で閉まる。
中に入ったのは、完璧な半球体の白い空間。

まるで巨大な卵の内側にでもいるような、不思議な感覚だ。

壁には何の継ぎ目も、装置らしきものもない。ただ、ほんのりと白い光に満ちていて、どこから照らされているのかも分からない。

空間の中心に立って、俺は天井を見上げた。

 

「マイネさん、聞こえる?」

 

すぐに、上空からスピーカー越しの声が返ってきた。

 

『うむ。こちらからは道三郎の姿も見えておるぞ』

 

どうやらモニターで様子を見られてるらしい。あんまり変なことできないな、これ。しないけど。

 

「それじゃ、とりあえずさ──少しずつ魔力の波長を変えて、変換効率が一番いいところ探ってみるよ。そっちでデータ見れるでしょ?いい感じになったら『ストップ!』って言ってね」

 

『分かった。サポートは任せるぞ、一条雷人』

 

え? 一条くんがモニター係なの?

 

『分かりました』

 

おぉ……高校生とは思えない落ち着いた、いい声。なんか信頼できる感ある。

 

「それじゃ、いくよー」

 

軽く息を吐いて、目を閉じる。

 

(よし……集中……)

 

目を、開く。

 

──ドゥン!!

 

銀色の魔力が、空間全体に放たれた。

空気がピリピリと震え、白い壁面に反射した光が、まるで水面のように揺らいでいる。

俺の魔力が、この部屋全体に──いや、この装置全体に、ゆっくりと浸透していく感覚。

 

(さて、じゃあ波長変えていこうか……)

 

意識を魔力に向けて、波を変化させていく。

魔力の色が、銀から淡い青へ、緑へ、金へ……ゆっくりとグラデーションのように移り変わっていく。

 

『……本当に、魔力の波長が変化しておる……お主、どこまでも規格外じゃな……』

 

出た!出ましたよ、この異世界転生あるあるセリフ。

 

(“規格外”──異世界転生したら一度は言われたいワードNo.1だよね!)

 

テンションがちょっと上がる。
そして、そのとき。

 

『それじゃ!! その波長こそ、エネルギー変換効率が最適化された波長で間違い無い!』

 

「えっ?どのとき?」

 

『アルドさん、5秒前です。5秒前の波長が最適です。戻せますか?』

 

一条くんの声、冷静すぎる。優秀な助手って感じ。

 

「了解……っと、戻すね」

 

波長を少し巻き戻すように調整すると、魔力が再び淡い銀青色に戻る。

 

『よし!変換効率、最高数値じゃ! このまま魔力出力を上げてみておくれ!』

 

「そんじゃ──少しずついくよー」

 

力を抑えながら、じわじわと魔力を出力していく。

波長は固定。だけど、エネルギーの密度はどんどん高くなる。

部屋の壁が、うっすらと共鳴音を響かせて、赤く点滅を始める。

 

『おおっ! 凄まじい出力じゃ……! 流石は道三郎よ!』

 

ふふっ、褒められるとつい調子に乗っちゃうな。

 

(……つーか、これ、楽しいぞ)

 

これまでずっと抑えてきた自分の力。出力を徐々に解放していくと、何かが解き放たれていく感覚がある。

この世界に来てから初めて、自分が“底なし”であるということを、実感していた。

 

「ははっ……! よーし、もうちょい強くしてみようか……っ!!」

 

──ドゥン!!

 

部屋が一気に重くなる。圧力、音、光、全てが一段階上がった。

 

『──えっ。……み、道三郎……? ま……まだ、全開では無いのか……?』

 

マイネさん、なんか若干引いてない? 大丈夫?
まあ、いいか。太陽パイセンにはまだまだ届かないだろうし、出力上げていかないとね。

 

「はあああああああ!!! パワーーーーッッ!!」

 

気合いの雄叫びと共に、もう一段階、出力を上げる。

壁がミシミシと軋む音を立て始める。天井の光がチカチカと点滅し、部屋全体がまるで悲鳴を上げているようだ。

 

『ちょ……!? み、道三郎!? お主、どこまで出力を上げるつもりじゃ!?』

 

「え? まだ出力足りない? よーし、それなら──」

 

「ヤーーーーッ!!」

 

──ズドォォン!!!

 

地響きのような魔力放出音。

施設全体がビリビリと揺れる。

地下トンネルの床も、空気ごと震えている。

壁のランプが真っ赤に点灯し、「ウォーン! ウォーン!」と警告音のような低い音が鳴り始めた。

 

『ちょ!! ストップ!! ストーップじゃ!! 道三郎!! 停止! 停止じゃあああっ!!』

 

「えっ?」

 

──そのときだった。

 

ヴゥゥーーン……

 

照明が一斉に落ちた。
音も、光も、すべてが止まり、世界が静寂に包まれる。

 

「……あ、あのー……マイネさん……?」

 

返事は、ない。
スピーカーも沈黙している。

 

(完全に、電源……落ちてる……?)

 

頭の中で警報が鳴り響く。
背筋を冷たい汗が這っていく。
ゆっくりと魔力の出力を止めて、静かにその場に座り込んだ。

 

「俺……また何か、やっちゃいました……?」

 

ぽつりと、呟いた。

このセリフも、異世界転生したら言ってみたかったんだけど、本気でやらかした時に言うのは、なかなかに心が痛いね。洒落になってない。

 

(っていうか、これ……どうしよう……)

 

俺は暗闇の中で、人生最大級の「ごめんなさい」を想像していた。
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